《従妹に懐かれすぎてる件》四月十八日「従妹と初対面」

「片栗のクリは甘栗のクリックリ〜♪」

彩音ご自慢(?)の即興曲を聞きながらデパートの店を歩く。そして彼が口ずさんだ歌詞が々卑猥に思えてしまった俺は心が汚れていると思う。彩音はこんなにも純粋だというのに俺ときたら……。従兄妹とはいえ兄として失格である。

「甘栗か……たまには食ってみたいな」

「あれ味しいよね。名前が確か……『剝いちゃいました』ってやつ」

「む、むく!?」

だから変な妄想をするな俺の煩悩。というか彩音も狙って言ってるんじゃないだろうな……?

「ゆうにぃ顔赤くない? 大丈夫?」

「え!? いや、なんでもない。全然平気だから……」

「もしかして……私に見惚れてたの?」

「ち、違うって!」

見惚れていた程度ならまだ良い。俺はそれ以上のヤバい想像をしていたからな。もし彩音にバレたら「実家に帰らせていただきます」と言われるに違いない。

「ふふ、いい加減自分に正直になってもいいんだよ〜? 「お前が好きです」って言うだけでぜーんぶ解決しちゃうんだから」

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「……なんか自白を強要する警察みたいなセリフだな」

「そんな事無いよ? 別に無理して言わなくてもいいし、何なら勝手に口から出ちゃうように私が一いじゃうんだから!」

「一、ねぇ……」

彩音はどこまで本気で言ってるのか分からない。一見素直そうに見えても裏では何か企んでるかもしれないからな。

だが彼の無垢な姿はそんな疑いを一瞬で消し去る程の破壊力を持っている。結局いつも彩音の可さに負けて考える事を止めてしまうのだ。

『可い』は正義であり、相手を錯させる最大の武なのである。

意味深発言を連発する彩音を適當にあしらいながら片栗と甘栗を購した俺達は、せっかく遠出したから他の店も見て回ろうと広い店を歩いていた。

「お散歩ぶらぶら〜♪ でも今日はノーブラ〜、なんつって」

「おっさんのセクハラかお前は」

くだらない駄灑落にツッコミをれつつも彩音の元に視線を向けてしまった俺はやはり心が汚れていると思う。冬服の制服だから見える訳が無いというのに……。いや、見ようとする行為が駄目なんだけどね。

「あれ、もしかして……」

「ん、どうした?」

突然立ち止まる彩音。すると目の前にある某アニメグッズ店から一人のの子が出てきた。彩音と同じセーラー服をに纏っている。

「やっぱり遙香ちゃんだ! やっほー!」

彩音は元気よく手を振りながらの子に近付いていく。どうやら知り合いらしいな。

「あ、彩ちゃん! こんな所で會えるなんて奇遇だね〜」

「えへへ、遙香ちゃんもお買い?」

遠目に二人の會話を見守る。遙香ちゃんと呼ばれたの子は彩音よりも背が高くて大人びた印象だ。茶髪のポニーテールや出る所はしっかりと出ている抜群のスタイルを見ると彩音とは対極の存在といえよう。

「うん、まあね〜。彩ちゃんは何か買ったの?」

遙香ちゃん(?)は言いながら彩音の頭に手を回し、彼のさらさらとした髪をで始めた。なんかナチュラルにボディータッチしてるけど……。の子同士だし単なるスキンシップだよな。

「私は夕飯の材料を買ったよ。遙香ちゃんは何を買ったの?」

「え!? ウチはただ本を買っただけだよ?」

「何の本?」

「えっと……彩ちゃんにはまだ早いから! うん、これはまだ……ね!」

「えぇー。同い年じゃーん! 私だって子供じゃないもん」

ぷくーっと頬を膨らます彩音。可い。

一方、遙香ちゃんは赤面させながら手に持っている紙袋を必死に隠そうとしていた。これはあれだな……。深く聞いてはいけないヤツだな。

「知らない方が良い事も世の中にはあるから……って待たせてる人が居たみたいだね」

二人の會話を切り上げた遙香ちゃんがこちらに顔を向けた。彩音も釣られて俺の方に向き直る。

「あ、ゆうにぃごめんね」

「あちらは……彩ちゃんの彼氏さん?」

か、彼氏!?

いやいやいやいやいやいやいやいや違うだろ。どう見ても兄妹……もとい、従兄妹でしょうが。

「は、はじめまして〜。俺は彩音の――」

「彼氏だよっ!」

おいこら、人がせっかく訂正しようとしてるのに勝手に噓を吹き込むんじゃない! あと人アピールをするように俺の腕に抱きつくのはやめろ。説得力が増してしまうだろうが。

「なるほど……あなたが彩ちゃんのお兄さんだったんですね」

「そうそう俺が…………って何で分かった!?」

まだ自己紹介すらしてないのだが。やはり雰囲気とかで分かるものなのだろうか。

「いやいや〜。お兄さんの事は彩ちゃんから良く聞いているんですよ」

「え、マジで? 例えばどんな事を…………?」

「「君の瞳に乾杯」とか「お前を一生離さない」とか「俺のダブルベッドに飛び込んで來い!」とか……。お兄さんによく口説かれてるって彩ちゃんから聞いてますよ」

「はぁ!? そんなの一言も言った覚えないぞ!」

まるで漫畫に出てくる無駄に顎の尖ったイケメン君じゃねーか。そんなキザな発言する奴が三次元にいるわけねぇだろ。

「彩音。一どういう事なんだ?」

「あはは……。これはその、理想だよ理想。ゆうにぃに言われたいなって思って」

「言われたいの? 本當に?」

「まあしベタだと思うけど……。それが乙心ってモノなのよ!」

最後にウインクを決める彩音。乙心と言われてもねぇ……。

「彩ちゃん、今のって本當? お兄さんは彩ちゃんを口説いてないの?」

「うん、噓をつきたかった訳じゃないけど……ごめんね」

「いやいや全然大丈夫! それにしても良かった、じゃなくてそうだったんだ〜。あははは……」

一瞬だけ安堵したような表を浮かべた遙香ちゃんだったが、何故か一人で焦っている。これも乙心というヤツなのだろうか。知らんけど。

「えっとキミは……彩音の友達、でいいんだよね?」

「あ、はいそうです。自己紹介が遅れちゃいましたね。ウチは水窪みさくぼ遙香はるか。彩ちゃんとは同じクラスで仲良くさせてもらってます」

「そっか。じゃあこれからも彩音をよろしくな」

「もちろん! 例えこのが滅びようとも彩ちゃんをで……じゃなくて守り抜きます!」

「お、おう。威勢が良いね……」

しだけ意味を履き違えているようにも見けられるが……細かい所は気にしなくていいか。俺は関係ない訳だし。

「なんかゆうにぃ私の保護者みたいだね」

「まあ事実じゃないか? 面倒も見てるし従兄妹とはいえ兄貴だからな」

「ほほう。じゃあ私も妹・としてお兄ちゃんに甘えちゃおーっと」

言いながら抱き著いてくる彩音。いや、普通の妹はこんなに兄に懐かないはずだが……。

「彩ちゃん、本當にお兄さんと仲が良いんだね」

一方、俺達の行く末を見守っていた遙香ちゃんは何故か不満気な表を浮かべていた。し怖いし彩音には一旦離れてもらおう。

「彩音、ちょっと離れてくれ」

「やだー。ずっと一緒に居たいもん!」

「駄々こねるなよ。ここは公共の場だし誰が見てるか分からないだろ?」

「……分かった。じゃあ殘りは家でたっぷり楽しんじゃおっと!」

ようやく離れてくれたが、この先も思いやられるな……。

更に遙香ちゃんの表がより一層曇ったのも俺を不安にさせる材料となった。

の子って……よく分からないや。

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