それは一瞬の出來事だった。

｢ザストローマー！！｣

リーナの元に迫り來る巨大な魔法、｢ザストローマー｣。

その魔法は、平均的である俺の長ほどの半徑を持つ巨大な球狀の魔法だ。

その大きな見た目からは想像がつかないほどの速度で、標的の元へ向かう。

アリサがザストローマーを放った瞬間、リーナがしだけ制を低くしたのが見えた。

そして、何故か顔に不敵な笑みを浮かべていた。

……その笑みの真意を、俺は數秒もしないうちに目の當たりにすることになるとは。

｢死ねええええ！！！｣

聲のした方へとっさに目を向ける。

視線の先では、アリサが狂気に満ちた顔でんでいた。怒りで顔が真っ赤になっている。

そして、俺は放たれたザストローマーの行方を追うようにして、視線をリーナの元へ戻す。

その時には、既にザストローマーはリーナの目の前まで迫っていた。

ザストローマーの淡い青のに、リーナが照らされる。手をばせば屆く距離。

その瞬間、リーナはザストローマーをかざすようにして、手のひらを向けた。

｢スプラッシュ！！｣

あっという間の出來事だった。

リーナがかざした手のひらから、白いが放たれたかと思ったら、ザストローマーが一瞬にして軌道を変えたのだ。

それは、軌道を変えたと言うより……

｢……跳ね返した？｣

リーナがニヤリと口元を歪ませる。垂れた髪ので目元が見えないが、それがまた、彼の狂気さをさらに醸し出していた。

｢……死ぬのはあんたよ、金髪頭｣

｢な！？｣

リーナ目掛けて飛んでいったはずのザストローマーの急激な急旋回。

さすがのアリサも、これには反応しきれなかった。

気づいた時にはもう遅い。ザストローマーは、スピードを緩めることなく、アリサに激突した。

『ｽﾞﾄﾞｰﾝ！！！』

とてつもない轟音。ザストローマーの直撃の影響で、構えなければ飛ばされてしまいそうな突風が吹き、砂ぼこりが舞う。

俺は風に飛ばされないよう、前傾姿勢をとった。

片目だけで、直撃した方向を見る。

だんだんと風がやんでいき、それと同時に砂ぼこりも無くなっていく。

視界がだんだんと鮮明になっていく。

｢…………は？｣

ゆっくりと現れた目の前の景に、俺は間抜けな聲がれた。

｢……こ、これ、どういう事ですか...？｣

この対戦中、ずっと巖に隠れていたルイが、大きな目をさらに見開いていた。

……てか、お前久しぶりに見た気がするな。

って、そんな事言ってる場合じゃねえぞ。

俺たちの前に現れた景、それは……

｢おい！誰なんだよお前は！？｣

一人のが、ボロボロになったアリサを抱き抱えていた。

の腕の中で力なく垂れているアリサの腕。そこから生気はじられなかった。

そして、そのの背後には、空間を割くようにして開かれたゲートのようなものがあった。

そのゲートの周りは淡い紫で照らされていて、晴れているはずの青空を、曇った夜空のように見せてしまう程に異様な雰囲気を放っていた。

｢…………｣

リーナがその景を前に、ゴクリと唾を飲み込む。

よく見れば、そのはアリサに蘇生魔法をかけているようだった。

そのは、見たところ小學生低學年くらいの長で、ふわふわと空中に浮いている。

長い沈黙。誰一人として口を開こうとしない狀況だ。

そんな中、が口を開いた。

｢……弱い。弱すぎるのじゃ｣

低い聲で言う。

｢我に仕える者がこれ程までに弱だとは……。不覚じゃ……｣

綺麗に整えられたのおかっぱが、ゆらゆらと揺れる。

｢まあいい。じきに貴様らの元へ我の手下が來るじゃろう……。その時には……｣

揺れる前髪の隙間から、赤々とる瞳が見えた。

そして、不敵に笑みを浮かべながら、は告げた。

｢貴様らを…………殺す｣

憎悪が混じったような、低い聲だった。