《異世界モンスターブリーダー ~ チートはあるけど、のんびり育しています ~》VS 魔王

「意外に驚かないんだねぇ。まぁ、それはそうか。だってほら。キミはイブリーズの能力を一部引き継いでいるのだろう?」

以前から疑問に思っていることがあった。

どうして俺みたいな普通の高校生が《絶対支配》というチートな加護を授かることになったのかって。

絶対支配 等級 詳細不明

(森羅萬象を支配する資格を持った者に與えられる加護)

アフロディーテの話によると、加護を與えられる人間っていうのは、歴史上の偉人、英雄などの限られた人間に限定されるらしい。

ヒュンケルの言う通り、俺の前世が魔王イブリーズなのであれば、チートな加護を與えられたことに対しても一応の説明がつくことになる。

「待てよ。俺の正が魔王だとしたら、今目の前にいるお前は一誰なんだよ!?」

ここだけは本當に腑に落ちない。

もしも今目の前にいる男が魔王ならば、この世界に魔王が2人いることになる。

「――よく聞いてくれたね。ボクの名前はヒュンケル。舊魔王軍の副にして、イブリーズのを借りけた者さ!」

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そうか。

そういうことだったのか……!

『はい。これはあくまで私の勘ですが……あの城の中にいるのは、魔王の名を騙る不屆きものに違いありません』

キャロライナの言葉は今の今までずっと頭に引っかかっていた。

どうしてキャロライナが魔王城の中にいる魔王を『偽』だと斷定することが出來たのか?

その答えがこれでハッキリした。

キャロライナは俺の正が魔王だということを知っていたんだ。

今目の前にいる男はこそ魔王の姿をしているが、その神は紛いに過ぎない。

「奇遇なものだね。キミとの出會いによって今ここに魔王の神が揃った! ようやくこれでボクの長年の悲願が果たされるよ」

高らかに笑ったヒュンケルの視線は玉座の隣にある臺座の方に向けられていた。

魔王の寶剣 等級 詳細不明

(魔王のを持つものにのみ扱える寶剣)

臺座の上には1本の剣が刺さっている。

決してド派手な裝飾が施されているというわけではないのだが、不思議と荘厳な雰囲気をじられる剣であった。

「魔王としての真の力を開放するためには、あの寶剣がカギになっているらしくてね。実に困っていたんだよ。

なんたってボクはこそ、魔王イブリーズのものをけ継いでいるが、所詮は半人前だ。この寶剣はボクとキミ。2人で力を合わせて抜く必要があるんだよ」

勝手なことを言ってくれる。

もちろん俺の中にはヒュンケルの計畫に協力してやろうなんて気はサラサラない。

「――ヒュンケル。1つだけ間違いを訂正しておくぜ。お前が剣を抜けない理由は半人前だからじゃない」

コツコツと足音を響かせながらも臺座に向かって歩いていく。

俺の中の前世の記憶が言っている。

もともとあの臺座に刺さった剣は俺の所有であった。

だからこそ前世が『魔王』であることを自覚した今の俺ならば、たぶん臺座の剣を抜くことが出來るはずである。

「そもそも最初からお前には魔王の資格なんてなかったんだよ」

ハハハッ。やっぱり。

臺座に刺さった寶剣は、まるで俺が手にするのを待っていたかのように――すんなりと抜くことが出來た。

「へえ。驚いたよ。まさかこうもアッサリと魔王の寶剣を開放するとはね」

平靜を裝ってはいるが、ヒュンケルの言葉には微かに苛立ちのが滲んでいた。

「さっそくで悪いが、その剣を渡してもらおうか。キミにとっては必要のないものだろう」

「……嫌だと、言ったら?」

「力付くで取り上げる。そろそろ発言には気を付けたほうがのためだと思うよ」

ゾゾゾゾゾゾゾッ。

突如として俺の背筋に悪寒が走る。

うぐっ。

これが魔王の放つプレッシャーか。

異世界に召喚されて間もない頃の俺ならば、が震えて立っていることすら出來なかっただろうな。

けれども、今日までに起こった様々な出會いが、俺の決意に1本の芯を通してくれた。

「わざわざここまで足を運んでくれた禮だ。どちらでも良い。キミには好きな方を選ぶ権利をあげるよ」

ヒュンケルが俺に與えた選択肢は2つ。

大人しく剣を渡すか、戦った末に殺されて剣を取り上げられるか。

だがしかし。

生憎と俺は相手の用意した土俵に上がるつもりはサラサラねえ。

どんなに戦力の差が絶的であっても、自分のペースに巻き込んで勝利する。

今日まで俺はそうやって戦ってきたのだから――。

「待てっ。何をする気だ!?」

ふふふ。もう遅い!

使わないものだから別に捨てたって構わないよな。

俺は手にした《魔王の寶剣》を玉座の間の異空間に投げつける。

ヒュオオオオオオオオオン。

指先から離れた《魔王の寶剣》は、綺羅星のごとく異空間の中に消えて行った。

「貴様ァ……。よくも……! よくもよくもよくもっ!」

異空間に落ちたものが何処に行っちまうのかは分からない。

けれども、ヒュンケルの怒りぶりを考えると、回収するのは難しいことだということは容易に想像できた。

「……貴様は許されないことをした。ここで捻り潰す」

デーモン 等級S LV1153

生命力 28532

筋力値 35940

魔力値 35420

神力 25028

スキル

火屬魔法(超級) 風屬魔法(超級) 水屬魔法(超級) 闇屬魔法(超級) 魔法(超級)

怒り狂ったヒュンケルのは大きく膨らんでいく。

最終的に表れたのは頭から2本の角を生やした悪魔の姿であった。

その全長は10メートルにも達しようかというほど巨大なものである。

ハハハッ。

こいつが俺の前世の姿だったのか。

我ながら、いかにもありがちな『ラスボス』ってじのデザインだなぁ。

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