《《完結》勇者パーティーから追放されたオレは、最低パーティーでり上がる。いまさら戻って來いと言われても、もう遅い……と言いたい。》6-1.目玉焼きは、自由に食べさせてくれ!

「私は魔結晶ゴーレムを探しにやって來たの。だから、これ以上、あんたたちの相手をしている暇はないわ。他のヤツに先を越されちゃうかもしれないし。ナナシがいれば、ダンジョンから出られるでしょ。じゃあね」

と、勇者はさらに上層へと上がって行った。

「助けてくれて、ありがとなのじゃー」

と、勇者が見えなくなるまで、デコポンは手をふっていた。

「いつまで手を振ってんだ。しかも結局、サインまでもらいやがって」

羊皮紙、羽ペン、インク。そのあたりも冒険者の常備アイテムだ。ダンジョンのことをメモしたり、地図を作ったりするさいに使うのだ。

「でも、思っていたよりも良い人だったのじゃー」

「良い人? あいつが?」

人だし、優しくしてくれたのじゃ。ナナシィもべつに仲が悪い様子には見えなかったのじゃ」 と、デコポンは首をかしげた。青い髪が揺らめく。

さっきまでかぶっていた大盾は、背中に負っている。漆黒のカイトシールドである。その盾の持ち手のある面に、サインを書いてもらったみたいだ。

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「いいや。見かけにダマされるな。あいつはこのオレをパーティから追放した大悪黨だ。ほかにもあの勇者が悪黨だというエピソードがある」

「どんなエピソードじゃ?」

「聞かせてしんぜよう」

オレも小さいころは、純粋な時期があった。この世の悪意に汚染されることなく、それはもう清廉潔白な年であった。きっと金持ちの貴族なら、人目見ただけでこのオレを引き取りたいと言っていたことだろう。

オレと勇者は同郷なわけで、そんな頃からの知り合いである。思えば當時から、ヤツの悪意は見え隠れしていたのだ。

それを見抜けなんだオレの目が曇っていたことは、認めざるをえない。

清廉潔白たるナナシ年は、勇者に告白をしたことがある。むろん、それは「將來は結婚しようね」とかいう、無策きわまりない、子供の生み方も知らないガキンチョのタワゴトと同等のものである。

「そうしたら勇者のヤツめ。村中に言い広めやがった。おかげでその日から、村中でひやかされる日々だ。オレの純粋な心は、いたく傷つけられたね」

追放キャラだけでなくて、不遇な目に遭っていた系男子でもあるのだ。

「それだけなのじゃ?」

「いいや。他にもある。あいつは目玉焼きにソースをかけるだ」

「は?」

「オレはポン酢をかける派なのだ。そんなオレの目玉焼きにもソースをかけてきやがる。これは斷じて許せぬことだ」

「それだけ?」

「いいや。まだだ。あいつは、オレのやることなすことに、必ずクチを出してくる。そして酷評しやがる癖がある。釣りが下手くそだの、絵が下手だの、走りが遅いだのの、それだけならまだしも、行儀が悪いだの、言葉づかいが悪いだの、格がねじ曲がっているだのと、とにかく貶でぃすってくるのだ」

「そんなに、悪いエピソードとは思えないのじゃ。格がねじ曲がっていることに関しては、當たってるように思えなくもないのじゃ」

「そして最後には、オレをパーティから追放しやがった。とにかく勇者は、この純粋なオレの心を弄ぶ、の腐ったなのだ。見かけにダマされてはいかん」

「要するに、癡話ゲンカじゃな」

「癡話ゲンカだと? そんな生易しいものではない。心の深いところで、あいつとオレは憎みあっている。いつか必ずギャフンと言わせてやるからな」

そして、いつか必ず言い放ってやるのだ。

今さら戻ってきてくれと言われても、もう遅い――と。

そのときこそ、このオレと勇者の長年の因果に決著をつけるときだ。

「さっきのアルラウネとの戦いを見ているかぎり、息はピッタリに見えたがなぁ」

「そりゃ、一時は同じパーティだったぐらいだからな」

「でも良いのじゃな。そうやって故郷の思い出を、分かち合える者がいて。私にはそういうのがないのじゃ」

「そう言えば、ハーフエルフの故郷は、王國領になっているんだったな。的にはどうなっているんだ? あまり考えたくはないが、植民地ということか」

「まぁ、そうじゃな」

冒険者はあまり國の勢を考える必要はない。

なにせ冒険者は、土地の権利などを無視して、そこを踏査する権利を持っている。また各地の領主や商人たちの命令をはねつける権利まで持っている。

まぁ、簡単に言えば、好き勝手にやっちゃって良いよ、ということである。

政治のこととか、権利のむずかしい問題とかは、べつに考える必要はないのだ。

でも――とデコポンが言う。

「ワシの故郷を植民地にしておる領主は、チャント約束をしおった。魔結晶さえ支払えば、故郷を自由にしてやる――と」

デコポンはそう言うと、オレが両手イッパイにかかえている魔結晶に視線をやってきた。

「あっ、これはやらないからな。たとえ故郷のピンチでも、オレたちの生活が第1だ。特に《炊き立て新米》のメンツは、食費がかさむんだ」

「ケチ」

と、デコポンは口先をとがらせてそう言った。

「オレにケチと言うまえに、お前もすこしは食べる量を控えろッ」

のわからないキノコまで口にしてしまうほど食い意地を張っているわけではないが、デコポンもよく食べるのだ。

「まぁ、仕方あるまいな。ワシらはさっさと下層に戻るとしよう。ここにいれば、またモンスターに囲まれるやもしれん」

「あ、今、ワシって言った」

「わ、私じゃ。私はロリババァなどでは、ないからの」

「ふぅん」

「な、なんじゃ、その信じてなさそうな目は!」

「とにかく、ここから出るか。今日のぶんの食費は稼げたから、今日はこれで目的達したわけだしな」

來た道を引き返した。

さいわいにもモンスターとの遭遇はなかった。出口が近づくにつれて冒険者たちの數も増えてくる――はずなのだが、どうも人気がすくない。それどころか濃厚なの臭いまでする。

「何か、あったかもな」

「……」

「って、隠れるの早すぎなッ」

デコポンはすでに盾をかぶって、亀モードになっていた。

デコポンを起こして、通路を進む。

そこには冒険者たちの死が橫たわっていた。

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