《《完結》勇者パーティーから追放されたオレは、最低パーティーでり上がる。いまさら戻って來いと言われても、もう遅い……と言いたい。》8-2.人員補充したんですか。そーですか!
なんだって、こんな大事なときに、お前はいつもいつもッ。
憤懣やるかたないのだが、そんなことを口に出せば、「なにを怒ってるのよ?」と不審に思われかねない。ゆえ、オレは平靜を裝おうことにした。
「奇遇だな。いったい何の用だ? さてはオレにパーティに『戻って來てしい』と言いにきたのか?」
「はぁ? ンなわけないでしょーが。ってか、なんであんたが、こんなところにいるのよッ」
と、勇者は1歩後ずさっていた。
「ノックしてきたのは、そっちだろうが。驚きたいのは、こっちのほうなんだが?」
「部屋には、ほかに誰かいるの?」
「いいや。ほかのヤツは買い出しに行ってる」
眠っているの子とふたりきりだった――なんてこの勇者に知られたら、「の子を襲おうとしてたんでしょ」と、あらぬ疑いをかけられかねない。それはチョットばかりメンドウだ。
「じゃあ、部屋にらせなさいよ」
「いや。話ぐらい廊下でいいだろ」
「なんか怪しい気配をじるけど、まぁ良いわ。長話をするつもりはないし」
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廊下に出ることにした。ここは2階。木造の通路がつづいている。オレは部屋のトビラを後ろ手で閉めた。トビラに背を向けるようにして立った。
「で、オレになんの用事だ?」
さっさと用件を伝えてもらいたい。迅速に戻れば、もう1度ネニのおっぱいに挑戦トライすることが出來るかもしれない。
「慘殺事件のことで、調査中なのよ」
「慘殺事件?」
思いのほか騒な言葉が飛び出してきたものだから、オレはチッとばかり驚かされた。
「知らないの?」
と、反問された。
「知らなくて悪かったな」
「あんたはいっつも不用心なんだから。あのね。この都市スバレイではここ數日、人が襲われる慘殺事件が起きてるのよ」
「それは騒だな」
「傷跡から見て、どうも人の仕業ではないらしいのよね。モンスターの仕業なんじゃないかって」
「モンスターが、ダンジョンから出るなんて珍しいこともあるもんだな」
モンスターというのは、侵者への対策のためにダンジョンが生み出すものだ。
だから基本的には、モンスターはダンジョンから出て來ないし、外にいる人間を襲ったりはしない。
出て來られたりしたら、もはや戦爭である。
「まだ、ハッキリとはわからないのだけれどね。ギルドから調査依頼をされて、こうして事件のあった付近にいる人たちに、片っ端から話を聞いて回ってるのよ。ヒキコモリ調査ってヤツ?」
「聞きこみ調査な」
そうよ、それそれ――と勇者はブロンドのモミアゲを耳にかけて見せた。
「そしたら、あんたが出て來てビックリしたの」
無差別に聞きこんでいたのであって、べつにオレがいると知ってノックしたわけではないようだ。
「そうかい。……ってことは、このあたりで事件があったのか?」
「この辺りって言うか、そこよ、そこ」
勇者は廊下を付き合あたりまで進んで、そこにあった窓から外を指差した。覗きこんだ。裏路地が見て取れる。近くっていうか、目の前である。
「げッ。こんな近くかよ」
マグロたちは大丈夫だろうか。
いまは人の通りも多しい、心配ないだろう。しかし、さっさと別の宿に移ったほうが良いかもしれない。厄介事に巻き込まれるのはゴメンだ。
オレと勇者はふたりして窓に顔を寄せていたので、おのずと互いの距離が近くになっていた。
目が合う。
やわらかそうな桜のが、すぐ近くにあって狼狽えてしまった。
「か、顔が近いわよ!」
と、勇者は後ろに跳びずさっていた。
「それはこっちのセリフだ。窓の外を見ろって言ったのは、お前だろうが!」
「ンなこと言ってないわよ。そこで事件があった、って教えてあげただけじゃないの」
「教えられたら、覗くに決まってんだろうがッ」
「ウルサイわね。だいたいあんたは、なんでも意地を張りすぎなのよ」
「はぁ? 意地張りなのは、そっちだろうが」
「『パーティに戻らせてください』って、素直に私に頭を下げれば、すぐにパーティに戻してあげようと思ってたのに、まさかホントに出て行くなんて、バカじゃないの!」
「そっちこそ、戻って來てしいんなら、『戻って來てください』って頭を下げれば良いだろッ」
勇者の顔が赤くなった。
「べ、べつに、戻って來てしいなんて、思っちゃいないわよッ。あんたみたいな役立たずが戻って來たところで、お荷になるだけなんだから」
「あーっ、オレのことお荷って言ったなッ。見てろよ。マジでオレは《炊き立て新米》を一流のパーティにするんだからな。勇者の稱號も奪ってやるからな。後で『戻って來てください』って頭を下げても、戻ってやらねェからな」
「私のほうこそ、あとで『戻らせてください』って、頭を下げても許してあげないから!」
グヌヌ。
顔を突き合わせてのにらみ合いである。
やはりコイツとは、馬が合わない。
そうそう、もう君は必要ないんですよ――と、割り込む聲があった。
白銀の髪をした男が、オレと勇者のあいだに割り込んできた。髪をアシメにばして、左半分の顔を隠していた。
「なんだ、てめェ」
「つい先日この都市で、勇者パーティに勧されて、新たなに參させてもらうことになった強化師ですよ」
「オレの後釜か。なんだ。結局、強化師かよ」
この都市で勧されたということは、ったのはここ數日のあいだだろう。
思えば、人員補充するのはトウゼンのことである。が、今まで考えたことがなかった。
これでホントウにオレは、勇者パーティから用なしになったのだ。そう思うと、を刺されたような覚をけた。
悲しくなるってことは、まだどこか戻るべき場所があると、そんなことを無意識に思っていたのかもしれない。
「あなたと一緒にしないでもらいたい。あなたの冒険者ランクは、Fでしょう」
「強化師は評価されないからな」
「オレは、これですよ」
と、銀髪男は腰にたずさえているプレートを見せつけてきた。アダマンタイトのプレート。Aランク冒険者の証である。
 ちなみにオレはそのプレートを持っていない。Fランクには支給されないという悲しい現実である。
「強化師じゃなかったのかよ」
「強化師ですよ。だが、前衛もできるんですよ。いわば、あなたの上位互換ですよ。ナナシ先輩」
「そうかい。そりゃ努力家なことだ。まぁ、勇者パーティとしてガンバってくれ。オレにはもう関係のねェ話だ」
「オレはゴルドです。いずれ勇者パーティの一員として名を馳せることになるでしょうから、覚えておいてください」
銀髪男――ゴルドは、勇者の肩に手を回して抱き寄せるようにした。
銀髪の癖にゴルドとは、これいかに。
勇者は名殘惜しそうに振り向いたが、そのまま立ち去って行った。
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