《《完結》勇者パーティーから追放されたオレは、最低パーティーでり上がる。いまさら戻って來いと言われても、もう遅い……と言いたい。》8-3.そんなキャラだなんて聞いてません!
「はぁ」
部屋に戻る。
眠っているネニを襲おうという気はとうに失われていた。
意気消沈である。
どうして思い及ばなかったのだろうか。べつに勇者は、オレにすがる必要などないのだ。ほかにも優秀な人材を雇えば良いだけだ。あいつは結局、オレに頼るしかないと思っていたのに。
これでは『今さら戻って來いと言われても、もう遅い』と言えない。
誤算である。
だいごさーん。
「さっきまで、私のろうと興してたヤツが、今度は落ち込んで戻ってくるったァ、どういう了見だ?」
「え?」
聲がした。
ここにはオレとネニしかいないはずなんだけどな。
振り向いたら、ネニが上を起こして、こっちを見ていた。
「ンだよ。不思議な生を見るような目で見てくんじゃねェ」
「えぇぇーっ」
思わず聲をあげてしまった。
「ンだよ。うっせぇ聲出してんじゃねェぞ」
と、ネニは迷そうに耳に人さし指を突っ込んでいた。
「いやいや。ぜんぜんそんな格キャラだったとは思わないじゃん。銀髪でずっと寢てるんだから、もっと、おしとやかな格をしてるんだろうと思ってたのに」
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幻滅である。
何でも素直に言うことを聞いてくれる無口キャラを期待していたのに。
「はぁ? あからさまに落膽したような顔するんじゃねェ。なに勝手に他人の格を決めつけてやがんだ。うちのパーティはマグロもデコポンも、そんなに騒ぐようなタイプじゃねェから、私まで暗いと気ネガティブなパーティになっちまうだろうが」
「誰がキャだ!」
「てめェのこととは、言ってねェ!」
意外も意外である。
たしかにオレはいままで、ネニと話をしたことが一度もない。
だって、ずっと寢てるんだし。
でも銀髪で、深窓の令嬢ってじの見た目をしてるのに、その口調はないだろう。夢を返してしい。
チョット親切にしてあげたら、すぐに懐いてくれるチョロイ娘なんだろうなぁ、って期待してたのに。
數日でを開いてくれるような人だったら良いなぁ、って妄想していたのに。
「ずっと眠っているもんだから、きっとカラダの弱い、大人しい娘なんだろうなぁ……って思ってたのに」
「眠ってるのは、眠たいからに決まってるだろーが。それに、眠っていたら、他が働いてくれて楽できるしな」
「うわぁ。クズだぁ」
「誰がクズだ。寢ているの子の、おっぱいをろうしするヤツのほうが、クズだと思うが?」
と、ネニは勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「み、見てたのか! 眠ってたんじゃないのかよッ。……はッ、いや、オレはソンナコト、した覚えはないデスよ」
「片言になってんぞ。いまさら言い訳しても遅せェよ」
「お、オレを強請っても、なにも出ないぞ」
も、もしや……。
これをネタに脅迫されて、オレはこの娘に癡られる生活がはじまるのではないか。それは、それで有り寄りの有りである。
「おい。なんかエロい顔になってんぞ。べつに強請ったりしねェよ。ぐらいモみたかったら、モませてやるが?」
と、黒いシャツをまくりあげるような仕草をしてみせた。
「マジで!」
「ウソ」
と、すぐさまシャツをおろしていた。
「言って良いことと、悪いことがあるぞ! 純な男心を弄びやがって!」
「チョットは元気出たかよ。ナナシィ」
サイドテーブルに置いていた黒いトンガリ帽子を、ネニはかぶっていた。
「オレは、はじめから元気だが?」
「勇者パーティに新規メンバーがって、ナナシィの帰る場所がなくなっちまったんだろ。小馬鹿にされてショックけて戻ってきた――ってところか」
「なんだ。聞いてたのかよ」
あのヤリトリを聞かれていたのかと思うと、なんだか恥ずかしい。
「べつに良いじゃねェーか。鼻っから勇者パーティに戻るつもりなんてなかったんだろ」
「それはそうだけど、新規メンバーがったンなら、『今さら戻って來いと言われても、もう遅い』って言えなくなるし」
「そんなに言いたかったのかよ」
と、眉をひそめて尋ねてきた。
「そりゃ言いたいに決まってるだろう。全人類のあこがれのセリフだからな。一度は言ってみたいセリフナンバーワンだ」
そしてオレは功して、勇者パーティが沒落していくところまでがお決まりである。そう、ならなくてはならないのだ。いや。予定調和によって、そうなるに決まっているのだ。
なら別にオレが落ち込む必要はないではないか。わはは。
つまりあのゴルドとかいう銀髪男は、これから不幸な目に遭うのだろう。カワイソウに。
あぁ。神様――。毎夜毎夜、耳元で蚊が飛ぶ呪いが、ゴルドにかかりますように。
「しかし慘殺事件とは気になるな」
と、ネニは首をかしげた。
「そう言えば、そんなことを言ってたな。勇者によると、モンスターの仕業とかなんとか」
「ンなわけ、なくね?」
と、ネニは空気をはたくような所作をとった。
「たしかにモンスターがダンジョンから出るのは、珍しいけどさ。傷口からモンスターの仕業っぽいって、勇者は言ってたぜ」
「だけど、ここはもともと前線町として発達した都市だろ」
「ああ」
実際、都市の中央には、天高くそびえ立つダンジョンがある。
「冒険者も多いんだろ。モンスターがウロついていたら、すぐに誰かに討伐されるだろうと思うがな」
「まぁ、それはそうだな。じゃあ人の仕業ってことか」
「チョット気になるな。調べてみるか」
と、ネニは立ち上がった。
「はぁ? 厭だよ。そんな危ないことに首を突っ込みたくない。ネニだって、働きたくないって言ってたじゃないか」
このまま何事もなく、ノンベンダラリと過ごしていたいのだ。起承転結の「起」が一生続くような生活をおくりたい。
「そりゃそうだが、もしけっこうな騒ぎになってるなら、賞金がかかってるかもしれねェぜ。魔結晶がたんまりもらえるかも」
「ほお」
そいつはチッとばかり、興味が湧いた。
ギルドに行ってみなければわからないが、モンスターの仕業ならば、賞金がかかっている可能が高い。
前回は、魔結晶ゴーレムによる大金を手にしたにもかかわらず、そのすべてをデコポンの故郷のために費やしてしまったのだ。
いまから考えてみれば惜しいことをした。
「それだけじゃねェ」
と、何かたくらむような笑みをネニは浮かべた。
「まだなにかあるのか?」
「勇者パーティはギルドからの依頼で、事件解決に乗り出してるんだろ?」
「ああ。そう言ってた」
「なら、そこで、てめェが先に解決してみろよ。勇者たちを出し抜けるンじゃねェのか? 追放されたナナシィが事件を解決にみちびき、勇者パーティの面目は丸つぶれ……ってわけだ」
「おお! 天才か!」
あのゴルドとかいう小憎たらしい男も、泣きを見ることになるだろう。
「マグロたちが戻ってくるまでは時間があるだろうし、私たちで調べてみようぜ」
と、ネニは立ち上がった。
「良いな。ならオレのことは名探偵と呼びたまえ」
名探偵。
スバラシイ響きだ。
「なに言ってンだ。名探偵は私――ネニさまだ。てめェはせいぜい助手だろ」
と睨まれた。
「あ、すみません」
こういう高圧的なは苦手だ。
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