《《完結》勇者パーティーから追放されたオレは、最低パーティーでり上がる。いまさら戻って來いと言われても、もう遅い……と言いたい。》8-5.そろそろ覚醒してもよくないですか?
絶絶命のピンチ。
オレは人狼ウェア・ウルフと対峙していた。その手からは、兇悪そうな鋭利な爪がびていた。慘殺事件の犯人。ゼッタイこいつだ。
ど、どうする――。
考えろ。
IQ100萬のオレなら、きっとこの窮地をする方法を見出せるはずである。
真っ向から戦っても勝てる相手ではない。オレは強化師だ。自分ひとりで倒せるのは、せいぜいスライムぐらいだ。勝機は0である。
くそぅ。オレが無雙系の星のもとに生まれていれば、ここで人狼を倒して萬事解決だったのに。こんなときに夢を見ても仕方がない。
逃げるしかない。逃げ切れるかが問題だ。いや。ムリだ。今までの人たちが慘殺事件の被害に遭っているのならば、オレだけ逃げきれるなんて都合の良いことが起きるはずがない。
腳だって決して速いほうではないのだ。ってか、足腰が震えて上手く走れる自信もない。
え?
じゃあオレ、ここで死んじゃうわけ?
いやいや。
それはダメだ。
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まだオレは勇者に『今さら戻って來いと言われても、もう遅い』と言ってないのである。
せめて目的を遂行するまでは、死ぬわけにはいかない。
いやいや。目的を遂行したあとでも死ぬわけにはいかない。
人狼が1歩、歩み寄ってくる。
そうだ。
きっと今こそ、オレの真のチカラが目覚めるに違いない。
今まで役立たずと蔑まれてきた男が、窮地に陥ってチカラに目覚める。
強化が自分にも使えるようになって、オレは無雙系として覚醒するに違いない。
「駿馬の奇跡、金剛鎧付與」
ためしに強化をとなえてみたが、ウンともスンとも言わない。
違うのか。
じゃあ、きっと前世の記憶が目覚めるはずだ。きっとオレは前世ですごい剣士だったのだ。あるいは魔師だったとか。まぁ、すごければこのさい暗殺者とか死霊師とかでも良い。目覚めよ、前世の記憶ッ。
なんにも思い出さない。
さらに1歩詰め寄ってくる。
あーくそ。
ネニさえ戻ってくれば、すべては解決するのだ。ネニに強化を付與して、この人狼を倒せば一件落著である。
まだウンコだろうか。キバってるのだろうか。オレが窮地に陥っているというのに、気楽にウンコとは良い度である。こっちは恐怖のあまりらしそうになっているというのに。
「ねぇー、どこ行ったのよーっ」
という聲が聞こえた。
この聲は、勇者の聲だ。
勇者の聲に反応したようで、人狼はすぐさま逃げ去って行った。
「おや? どうした勇者」
と、オレはブザマな姿をさらけ出さないように、すぐさま格好ポーズを決めることにした。
勇者にだけは醜態を見せるわけにはいかない。仮に目撃されようものなら、今後10年はカラカわれるに決まっているのだ。
壁際に軽くもたれかかって、中指を眉間に當てた。
「あんたが、なかなか裏路地から出て來ないから心配して來たんじゃないの。なんでこんな路地にいるのよ」
「はぁ? そっちこそ。なんで、こんなところにいるんだよ」
「ぐ、偶然よ、偶然。べつにあんたが心配だから、見張ってたとか、決してそんなことはないわよッ。だいたい慘殺事件が起きてるって言うのに、こんな裏路地にるんじゃないわよッ」
「慘殺事件が起きているから、ったんじゃないか。そして幸いにも犯人を見つけ出すことが出來た。あと1歩のところで捕えられたのだが、逃げられてしまったようだ」
おそらく、あと數秒ほど待てば、オレの前世の記憶が覚醒するか、あるいは強化師として覚醒したはずである。
「はぁ? 犯人に會ったの?」
「人狼だった」
人狼というのは分類上は、モンスターということになっている。
だが、通常のモンスターがダンジョンで生み出されるのと違って、人間から生まれてくる。狼になれる人間というだけだ。
しかしまぁ、人を襲うならモンスターであろうがなかろうが危険な存在である。
「人狼ですって? あんたそんなのに會って戦えたわけ? ひとりだったんでしょ?」
「ま、まぁ」
勇者が來たから、人狼が逃げたとは言えない。
「あんたは、さっさとこの都市から出て行きなさい」
と勇者は、オレの元を人差し指で突いてそう言ってきた。
「なんで、そんなこと言われなくちゃならないんだ」
と、その人差し指を払いのけた。
こちとら「10萬ポロム」を狙っているのだ。
そう簡単に出て行くわけにはいかない。今回は上手くいかなかったが、オレが強化できる対象さえいれば、人狼などチョチョイのチョイである。
「なんでって……それはその……。あんたがウロチョロしてたら、こっちが集中できないからでしょうが。私は勇者パーティとして、冒険者ギルドから依頼をけて調査してるのよ。邪魔されたら、たまったもんじゃないわ」
「ははん。さてはオレに出し抜かれるのを怖れているのだな」
「そんなんじゃないわよ」
「オレが先にあの人狼を捕まえてやる。オレの優秀さを目の當たりにするが良い。せいぜいオレを追放したことを悔いることだな」
IQ100億のオレにかかれば、人狼などすぐに見つけられる。
「なによ。まだそんなこと言ってるわけ? パーティに戻ってきたいなら、『戻らせてください』って、私に頭を下げれば良いだけでしょう」 と、勇者は腕組みをしてみせた。腕を組むとその大きな房が、たゆんと腕に乗っかるようなカッコウになる。
おのれ、気でしようたって、そう簡単にはなびかんぞ。
「誰がお前のパーティに戻りたいなんて言った! オレはただお前に、『戻って來てください』と一言いってもらえれば良いだけだ!」
「あんたのほうこそ、『戻らせてください』って、一言謝れば済む話でしょーがッ」
グヌヌ。
この意地っ張りの勇者め。
なかなか『戻ってきてください』を言おうとしない。それを言ってくれなければ、『今さら戻って來てくれと言われても、もう遅い』が言えないではないか!
きころより、マウントを取りまくってきた勇者を、一度で良いから屈服させてやりたい。そのためには『今さら戻って來てくれと言われても、もう遅い』という伝説のセリフが必要なのだ。
「おおーい」
と、ネニが戻ってきた。
「人狼って、男だけじゃなくて、かもしれないんだからね。それを留意しておきなさいよ」
と、言い殘すと、勇者はその場から立ち去って行った。
戻ってきたネニの魔師のローブには、なぜか白銀のがいくつも付著していたのを、名探偵であるオレは見逃さなかった。
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