《《完結》勇者パーティーから追放されたオレは、最低パーティーでり上がる。いまさら戻って來いと言われても、もう遅い……と言いたい。》9-4.慘殺事件の犯人は、その男なんだよ!
勇者のロングソードと、人狼ウェア・ウルフとなったネニの爪が、つばぜり合っていた。
ご覧の通り、渉失敗である。
「都市スバレイで慘殺事件を起こしているのはゴルドだ。この人狼はオレたちの味方なんだ」
と、オレはそう言った。
「ンなわけないでしょーが。追い出されたからって、変な言いがかりをするのはやめなさい!」
と、返された。
まぁ、たしかにゴルドが素を曬さない以上は、ネニのほうがどう見ても怪しい。人狼であることを、その姿で証明してしまっているのだ。
勇者がネニのことを捕えようとしてくるものだから、ネニのほうも応戦せざるを得なくなった――という運びである。
「ッたくよ、てめェの渉も當てにならねェなァ。どうすんだよ、おい!」
と、ネニが怒鳴るように尋ねてきた。
「こうなりゃ仕方ない。実力行使で、ゴルドの素を暴き出すしかないだろう」
「こっちはもう戦ってンだよ」
日中は鮮やかな緑の広がる丘陵だ。いまは深更ということもあって真っ暗だ。ただゆいいつ月明かりだけが、舞臺を薄明るく照らしていた。
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「ふふっ。このときを待っていたぜ。これはまるでオレのために用意された舞臺ではないか!」
左手の5指を開いて顔を覆う。
指の隙間からオレは顔をのぞかせた。
勇者パーティから追放されたオレが、勇者パーティを見返す最大の好機チャンスではないか。
勇者パーティに新規加したゴルドは、強化で勇者を強化している。一方で、ネニの強化バックアップをつとめるのはオレだ。
真っ向から戦うということは、いったいどちらの強化師が優秀なのか比較することになるにも等しい。
これは、オレの強化師としての実力を証明するために用意された舞臺なのだ。
「ナナシィ! カッコウつけてねェで、さっさと強化を施してくれ!」
ネニは勇者パーティに押されているようだ。
「そう急かすな、ネニ。世界最強の強化師のチカラを、とくと知るが良い! お見せしようか。我が強化の真骨頂を」
勇者がネニを切り伏せようと、剣を上段から振り下ろした。月明かりに照らされた一閃が、オレのところからもよく見えた。
金剛鎧。聖の祝福。
付與した。
皮がくなり、傷がついても修復される強化だ。ネニのカラダが薄いのにつつまれた。勇者の一閃をはじいた。
「に染みてわかるぜ。ナナシィの強化が口だけじゃないってことがな。なんか萬能に包まれる」
「そうだろう。ネニよ。もっともホめてくれて構わんぞ」
ゴルドの強化をけた勇者と、オレの強化をけたネニ。
剣と爪でやり合っていた。あきらかにネニのほうが押している。ネニがけ切れない一太刀も、オレの強化によって、弾くことが出來るのだ。
「ゴルドはパーティの奧に引っ込んでやがる。これじゃあ手が出せねェ」
「案ずるな」
蛇蝎の匍匐。駿馬の奇跡。死神の接吻。
付與した。
これで速度が上がり、姿を捕えることが難しくなる。前衛の勇者、盾役タンクのカイトのあいだをすり抜けるようにして、ネニはゴルドに迫った。
その俊敏は、さながら一陣の夜風であった。オレの強化だけじゃなくて、ネニの人狼としてのチカラも上乗せされているのだろう。
ネニの爪が、ゴルドに振り下ろされた。
ゴルドはそれをショートソードでけ止めていた。そう言えば、前衛もこなせるとか言っていたな。憎たらしいヤツめ。
「獰猛なる神。巨象の躙」
付與した。
ネニはゴルドのことを組み伏せた。これで決まりだと思ったのだが、そうアッサリといかないのが勇者パーティだ。
ウィザリアの発した火球ファイア・ボールが、ネニを襲った。
強化で防ぎきることが出來たようだが、発したさいに黒煙が発生した。その黒煙に乗じて、勇者がネニに斬りかかっていた。
その隙に、ゴルドがカイトに匿われていた。ネニのほうも態勢を立て直して、オレの手前にまで後退してきた。
「さすが勇者パーティってところか」
「そう言うネニだって、とてもFランク冒険者のきじゃないよ」
「人狼になってるからな。このモードだと、よくける」
「普段のダンジョン攻略も、その姿でやれば良いんじゃないのか?」
「他の冒険者をビビらせちまうだろうが」
そう言えば、教會を追い出されたとか言っていた。人狼には人狼ならではの苦労とかが、あるのかもしれない。
「だけど、魔師のくせに、魔法をぜんぜん使わないんだな」
「そりゃ、人狼のほうがチカラが出るからな」
「へぇ」
それって、魔師やってる意味あんのかね。突っ込みたいところだが、そんな余談してる場合ではない。
「しかし、ゴルドの本を暴くのは、なかなか難しいな。あの野郎、組み伏せても本を見せやがらなかった」
「ふふん。ならもうし強化を強めるだけだ。あとの筋痛が酷いだろうが、耐えてくれよ」
今のじならば、勝てる。
これでオレの強化師としての優秀さを証明することができる。ついでに、ゴルドを捕えて「10萬ポロム」を獲得できる。
「ああ。やってやろうじゃねェーか」
と、ネニが前傾姿勢になった。
戦闘態勢になっているのかと思ったのだが、ネニはそのまま倒れ伏してしまった。
「え? なんだ?」
「寢るわ。疲れた」
人狼モードが解けて、人の姿に戻っていた。である。うつ伏せに倒れているため、白い背中と肩甲骨の盛り上がりが見えた。しかしこんな大事な局面でしている場合ではない。
「えぇぇ――ッ。寢るなぁぁッ。起きてくれぇぇッ」
揺すってみたのだが、
「くぅくぅ」
と、心地良さそうな寢息を立てるだけだ。ヨダレまで垂らしてやがる。
「で? どうして人狼の味方なんかしてるのかしら? そこのところ詳しく教えてもらおうじゃない?」
勇者。カイト。ウィザリア。そしてゴルドの4人が、オレを取り囲んだのだった。
勇者なんかコブシの骨をポキポキ鳴らしている。
一転して、窮地である。
くそぅ。
あと一歩のところで、萬事うまく行くはずだったのに。これではすべてがオジャンだ。
「ま、待ってくれ。オレの話を聞いてくれよ。ネニはオレの味方で、悪いヤツじゃないんだよ」
「まだそんなこと言ってるわけ? どうせそのに誑かされたんでしょ。あんたは昔から、の人によくダマされるんだから。チョットは気を付けなさいよ」
「なに? オレがいつダマされたって言うんだ」
「昔からよくダマされてたでしょーが。故郷にいたころ、あんた盜賊に3度も拐されかけてるじゃない」
「子供のころの話を持ち出すんじゃねェ。當時は人を疑うことの出來ない善良な年だっただけだ!」
「気を見せられたら、すぐになびいちゃうんだから。そろそろ私たちのパーティに戻ってきたほうが良いんじゃない?」
「だ、誰が戻るか! だいたいオレの代役はもう見つけたんなら、オレなんて必要ないじゃないか」
「べつに強化師が2人いても良いじゃない。あんたのチカラは強力だし、まぁ、なんて言うか……」
勇者はモミアゲを耳にかけると、周囲をうかがうかのように首を振ってみせた。
「なんて言うか。なんだよ?」
「戻って來てくれたほうが、私としては、ありがたいって言うか?」
剎那。
オレのカラダには、雷が落ちたかのような衝撃がはしった。
これはもしや『戻ってきてくれアピール』なのではないか? オレのチカラを必要とした勇者は、ついに折れたのだ。
今こそあのセリフを――。『今さら戻って來いと言われても、もう遅い』を言い放ってやるときなのではないか。
そうだ。
きころより、オレのことをげつづけてきた――的には、寢小便をしたことを村中に言いふらしたりとか、寢ているあいだにオレの顔に落書きをしてきたりとか、走りでも腕相撲でも釣りで狩猟でも、オレより好績を殘してマウントを取ってきたりとか、あげていけば切りがない――悪逆非道なこの勇者にわからせてやるのだ。
さあ。
言ってやろう。
そう思ったやさきである。
ゴルドが割ってってきた。
「勇者。この男は人狼の共犯ですよ。勧なんてやめてください。即刻、騎士にひきわたして捕えてもらいましょう。勇者にはもっと良い男がいるはずです。こんな男を相手にする必要などありませんよ」
ゴルドは薄く笑って、勝ち誇ったような笑みを向けてきた。
「べ、べつに男として見てるわけじゃないわよ!」
「でしたら、さっさと捕えてしまいましょう」
「……そうね」
と、勇者は仕方ないとため息を吐いて、オレのことを拘束したのだった。
こうしてオレは捕えられたのである。めでたし、めでたし――なわけあるかーッ。
これからどうしようか。
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