《《完結》勇者パーティーから追放されたオレは、最低パーティーでり上がる。いまさら戻って來いと言われても、もう遅い……と言いたい。》12-1.さすがに蜘蛛食べたりはしないよね?

ブチッ、ブチッ、ブチッ……。

マグロが雑草を抜く音が、庭にひびいている。

庭の手れというクエストは、べつに怪しいところなどひとつもなかった。屋敷の雑草を抜くだけの仕事である。

「すごい豪邸なのでありますよ」

「たしかにな。どこぞの貴族の屋敷か何かかな?」

「3萬ポロムの魔結晶をくれるのですから、きっと大金持ちに違いないですよ」

白亜の壁に、青い屋。3階建てと思われる屋敷だった。

それ相応に庭も広いのだが、べつに手れが必要とは思えない。強いて言うならば、花壇周りの雑草が気になるぐらいだ。花壇には何やらよくわからない花が咲いている。

「これで魔結晶をもらえるなら、楽なもんだな。冒険者やっているのがバカらしくなってくるぜ」

庭師にでも転職しようかしら。

「そう言うなら、ナナシィも手伝ってくださいよ」

「は?」

「ナナシィはさっきから座っているだけで、すこしも雑草を抜いていないのであります」

「だから、オレが強化かけてやってるだろ。オレのおかげで、みんな疲れないんだからさ」

「この程度のことで強化は必要ないので、手伝ってください」

「なにを言うかッ。このオレがもしも足腰を痛めでもしたら、どうするんだ。オレは強化師だからな。力もなければ筋力もないわけだ。適材適所と言うだろう。ここはマグロたちが抜いて、オレが強化をかける。それが理想的だろう」

「そうですかねー」

と、不服そうな顔をしながらも、マグロは手際よく雑草を抜いてくれている。

汗をかいているようで、マグロの赤い髪がひたいに張り付いていた。

「そう言えばあの人、どこかで見たことがある気がするのでありますが……」

「あの人?」

「ほら、依頼主のですよ」

屋敷の窓辺にうつるを、マグロが指さした。

マグロたちとそう年齢差はないように見える。き通るほどに白くて、髪は紫のショートボブにしていた。

そしてなによりが大きい。コタルディのうえからでもわかるぐらいの巨だ。手のひらにおさまりきらないぐらい、ありそうだ。

勇者とどっちが大きいだろうか。

「知り合いなのか?」

「いえ。知人ではないのですが、どこで見たのか忘れてしまいました」

「ふぅん」

屋敷のなかで紅茶か何かを飲んでいるようだ。ときおり、こっちを見て、小さく手を振ってくる。

い。

なんて楚々たるだろうか。近寄りがたい気品のようなものすらじる。貴族獨特の雰囲気というヤツだろうか。

あれこそまさに、オレの求めていたである。

このクエストのさいに、何かしらの事故で親しくならぬものだろうか。

この屋敷に住まうならば、貴族に違いない。庭イジるだけで、魔結晶をくれるんだから、たいそう裕福なのだろう。結婚すればオレもかな生活を送れる。

ヒモになれるかもしれない。

期待にがふくらむ。

「びゃぁぁッ」

と、デコポンが悲鳴をあげた。

「どうした!」

もしやモンスターでもまぎれ込んでいたのかと思った。モンスターがダンジョンから出てくることは滅多にない。が、庭イジリにしては、破格の値段である。トンデモナイ落としがあってもオカシクはない。

「あれ、あれっ」

と、デコポンは盾を前方に構えて、アゴをしゃくって見せた。

デコポンの視線の先には、しかし何もいない。

「なんかいたのかよ?」

「花壇のところを、よく見てみるのじゃ。ヤツがおるのじゃ」

「ヤツ?」

言われた通り、花壇を注視してみると、1匹、小指の爪ぐらいのサイズの蜘蛛がいた。

「なんだ。ただの蜘蛛じゃないか」

「ワシは、蟲が嫌いなのじゃ」

と、デコポンは盾をかぶって、亀モードに移行してしまった。

異常なほどのビビりである。

「厳には、蜘蛛は蟲じゃないけどな」

「似たようなもんじゃろうがッ」

「まぁ、そうだが、チャント言っておかないと、君たちにバカにされかねん。しかし、それでよく冒険者やってられるな」

ダンジョンには、アラクネという、巨大な蜘蛛が出てくることもあるのだ。それを見たらデコポンは失神するんじゃなかろうか。

このデコポンだって、いまはEランク冒険者である。オレのほうが格下なのは、どうも納得がいかない。

ちなみに、ここまでの道中のダンジョン攻略で、ネニもEランクに昇格してしまっている。

オレだけ置き去りである。世の中不公平である。

こんな世界間違ってる――と聲を大にして訴えたい。

「蜘蛛ですね」

と、マグロが蜘蛛をつまみあげた。

マグロのほうは、どうやら蟲が苦手ではないらしい。マグロはつまみあげた蜘蛛を、ジッと凝視していた。

「お、おい。まさか食うんじゃないだろうな」

「は? マグロのことをなんだと思っているのでありますか? こんなの食べないのですよ」

と、つまんでいた蜘蛛を放り投げた。

「そりゃ良かった。お前ならやりかねんと思ってな」

「蜘蛛はさすがになそうですからね」

「ああ。そうだな。蜘蛛はなそうだからな」

ん?

そういう問題なの?

「みなさまお疲れさまです。すこし休憩にしませんか?」

窓を開けて、依頼主のがそう呼びかけてきた。

    人が読んでいる<《完結》勇者パーティーから追放されたオレは、最低パーティーで成り上がる。いまさら戻って來いと言われても、もう遅い……と言いたい。>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください