《《完結》勇者パーティーから追放されたオレは、最低パーティーでり上がる。いまさら戻って來いと言われても、もう遅い……と言いたい。》14-2.箱をどかさないと、出れないんです!

ダンジョンの中は基本的に暗い。なので魔結晶でくカンテラだとか、魔法による照明などが必須になってくる。だが今回は、必要なかった。

『魔結晶カメラ』が明かりの役割をはたしてくれるのだ。

オレの見立て通り、口近くの下層は冒険者でイッパイだった。これではモンスターが出てきても、他の冒険者に先に討伐されてしまう。

「このありさまだからな。すこし上に向かおうぜ」

「上に向かうと言っても、行く先はわかるのでありますか? マグロはダンジョンマップを持ち合わせていないのであります」

「心配ない。オレが案するから」

勇者パーティとして、オレはすでに何度かこのダンジョンに何度か足を踏みれているのだ。

新參たちとはわけが違う。

階段を見つけ出して、順調に2階、そして3階へと進出した。

3階まで上がってくると、冒険者たちの數もすくなくなる。

『おーっと、勇者パーティから追放された『お荷くん』は、いっきに3階へと進出しました。はたして彼に、3階で戦うほどの実力があるのか!』

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という実況の聲が、塔の外から聞こえてくる。ここの映像はオレが背負っている『魔結晶カメラ』によって映し出されているのだ。

ふっ。

オレの真価がわかっていない愚民どもめ。

オレの強化を見て、震えあがると良いさ。それまでせいぜいバカにしていると良い。

「あっ、人が死んでいるのであります」

と、マグロが指さした。

前方。

石造りの狹い通路。ふたり並んで歩くぐらいの道幅しかいない。そこで、冒険者が3人、倒れていた。

「げッ。さっそく死かよ。……ん?」

「どうしたのでありますか?」

「いや。まだ生きてるみたいだ」

3人の冒険者は、どうやら眠らされているだけらしい。ぐぅぐぅ、とイビキをかいていた。

「なんじゃ、驚かせやがって。てっきり死んでいると思うたではないか」

と、デコポンがホッと安堵の息を吐いていた。

「でも変だなー。オレの記憶では、眠らせてくるようなモンスターは、この階層では出て來なかったはずだけど」

まさかネニみたく、睡魔にやられた、ということはないだろう。ネニほどアッサリと眠れるような人間が、この世界に2人もいるはずがない。

「記憶違いではありませんか?」

「かもしれん。まぁ、ダンジョンに規則を求めてもムダだしな」

ダンジョンは、この星の臓だと言われている。ときにはその道順を変化させてしまうようなこともある。出てくるモンスターだって変わるかもしれない。

じゃあオレの知識もムダになるかって? いやいや。そんな大きな差はないはずだから、大丈夫である。

「この人たちは、どうしますか? 放っておくのも危ないとマグロは思うのです」

「たしかになぁ」

いまは無事でも、いずれモンスターに襲われるかもしれない。

「おや?」

「尿意を催しましたか?」

「いや。違げェよ。オレのことをなんだと思ってンだ。よくよく見てみると、こいつら有名な連中じゃないか」

《青薔薇騎士団》というパーティだ。冒険者のくせに、騎士団とか名乗っている意味のわからない連中である。

Aランク冒険者たちだ。

勇者パーティやオレほどではないが、腕の立つ連中だ。

「言われてみれば、マグロもどこかで見た覚えがあるのですよ」

「こんな連中が、眠らされるなんて相當手強いモンスターがいるってことか? しかし、モンスターはこいつらを眠らせただけで、何もしなかったのかね」

「近くにモンスターがいる気配もありませんね」 と、マグロはあたりを見渡して言った。あたり――とは言っても、前後に道がびているだけだ。

「まぁ、なににせよ、このまま放っておくわけにはいかんな。リタイアさせてやるか」

「リタイア?」

「ほら、この背負ってきた『魔結晶カメラ』があるだろ。これのスイッチを切ってしまえばリタイアってことになる。王國と冒険者ギルドの用意している救助隊が、すぐに來てくれるはずだ」

命がけの祭典だが、いちおう救済措置は用意してくれているのだ。

「へえー。これでありますか」

と、マグロがオレの背負っている『魔結晶カメラ』のスイッチをってきた。

「あ、こらっ。うっかり押しちゃったりするなよ。オレたちもリタイアってことになるんだから」

「あ、押しちゃいました」

「えーッ。ウソォォ――ッ」

なんてこった。

勇者パーティをギャフンと言わせてやるという、完璧なるオレの計畫が、こんなバカみたいなことで泡沫の夢となってしまうというのか。

「押し心地良いですね」

と、マグロがスイッチを連打する。

どれどれ、とネニも一緒に押しはじめた。

君たち、どういうつもりなの? やってることの意味わかってるのかな? もしかしてバカなの?

『おーっと、ここでトラブルが発生した模様です。3階層にて、《炊き立て新米》と《青薔薇騎士団》の2組がリタイア宣言! すぐに救護班が向かいます』

と、実況が聞こえてくる。

いまのリタイアは間違ったということにならないだろうか。それとも目が覚めたら、まだ祭典がはじまる前ということにならないだろうか……と、このフザケた現実をれられずにいた。

剎那。

ドゴ――ッ

背後で大きな音がした。

腹に響く轟音だった。

「ナナシィ。屁でもこきましたか?」

「いや。どんな屁だよ。汚いことを言うんじゃないよ。後ろのほうで何かあったんだろうさ。下におりる階段があるほうだな。マグロが見て來てくれ」

「なにゆえ私なのでありますか?」

「そりゃオレは、ここで寢てる《青薔薇騎士団》の連中を見ておく必要があるからだよ。モンスターに襲われるかもしれんだろ」

「ネニとデコポンのふたりに殘ってもらって、私とナナシのふたりで行きましょう」

「まぁ、それでも良いけど」

なににせよ、オレたちはもうリタイアしてしまったのだ。なんでも良いや、と投げやりな気持ちになっていた。

音がしたほうに戻ってみる。

立方の広間。べつに家などは置かれていない。ダンジョンにはときおり冒険者の死やら、冒険者たちの持ちこんだ道などが置かれていることがある。

ここには何もない、森閑としている。いや。何もない――というのは語弊があるな。

ひとつ。

部屋の中央に、灰の巨大な箱が置かれていた。

ほかに何もないだけに、その箱の存在がきわだっている。

「なんだ、あの箱?」

「誰かが置いたのでしょうか?」

「じゃあさっきの轟音は、この箱が置かれた音だったのかな」

おおよそ、一辺がオレの長の2倍ぐらいの大きさだ。

「ツルツルしているのであります」

と、マグロが指でそれをサスっていた。キュキュ、という音が響く。

「あ、こら、無闇にるんじゃないよ。危険なものかもしれないだろ」

「危険なものとは?」

「わかんないけど、新種のモンスターかもしれないし。もしかして主催者側が用意したギミックとかかな?」

「食べれるでしょうか?」

「いや。見てわかるだろ。食べれないよ」

カジったら、たぶん歯が折れる。

「そうでありますか。殘念です。……今までも、このようなギミックが用意されたことがあったのですか?」

「いや。オレの記憶にはないけど」

「しかし、ここに箱が置かれていると困るのでありますよ」

と、マグロはその箱を押したり、引っ張ったりしていた。

「なんで?」

「だってこの箱、下におりる階段をふさいでいるのであります。この箱をどかさないと、マグロたちはダンジョンから出られないのでありますよ」

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