《《完結》勇者パーティーから追放されたオレは、最低パーティーでり上がる。いまさら戻って來いと言われても、もう遅い……と言いたい。》15-1.攻略中のトイレは、どうするんです?

「どれぐらい時間が経ったのかしら。助けが來る様子はぜんぜん、なさそうね」

「そうだな」

1時間。いや、2時間は経過しているかもしれない。あるいは10分ぐらいという可能もある。

ダンジョンのなかは、常に同じ景であるうえに、薄暗いこともあいまって、時間の覚がとぼしくなる。

魔結晶でく懐中時計なんかがあると便利なのだが、いかんせん高級品である。オレに手が屆くようなシロモノではないし、手が屆いたとしても、それをダンジョンに持ち込もうとする神経は持ち合わせていない。

「ノドが乾いたのだけれど、飲水は持ってるかしら?」

と勇者は、階段をふさぐ立方の箱にもたれかかるようにして座り込んだ。

「飲水を持ちこんでなかったのか?」

長丁場になるダンジョン攻略では、飲水を持ちこむのは普通だ。

「新りの強化師がいるのだけれど、荷はだいたいその子が持ってくれているのよ」

「え? また新りをれたわけ?」

「そうよ。出て行ったあんたには、関係ないでしょ」

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「いや。まぁ、そうだけどさ」

オレの代わりに、毎度毎度、強化師をれるのは、どういうわけなのだろうか。

オレに戻って來てしいという、遠回しな主張アピールだろうか。まったく強化師が必要なら、戻ってきてください、って言えば良いのに。強なヤツ。

「なにか言いたげね」

「また強化師をれたのかよ。どうせオレよりも格下の強化師なんだろ」

「たしかに強化は、あんたより劣るかもしんないけど、荷持ちバックパッカーとしても働いてくれてるのよ。あんたはひとつも荷持たなかったでしょーが」

「まるで強化師を荷持ちみたいな言い方をするのは、やめてもらいたい」

「そうは言ってないけど、あんたは自分の分の荷だって、カイトや私に持たせてたでしょーが」

「トイレ行きたくなってきたな」

「話をそらすんじゃないわよッ」

「まるでオレがクズみたいな言い方はやめろよ! 人聞きが悪いだろ。オレは見ての通り、モヤシなんだよ。オレが荷持つよりも、オレが強化をかけた相手に持ってもらったほうが、どう考えても効率良いだろうがッ」

「効率の話をしてるんじゃないわよ。チョットぐらいは、自分で荷持っても良いじゃない、って話でしょッ」

ぐぬぬ。

やはりこのとは、相容れないものがある。

「で、どこ行ったんだよ。そいつ」

「途中ではぐれちゃって、どこ行ったのか、わかんないのよ。はぐれたら、自力で階段のある部屋に戻れって、指示は出してたんだけど」

「ふぅん」

じゃあ、無事ならここに來るはずだ。

戻って來ないと言うことは、死んでるかもしれない。あまり深く問い詰めるのは、やめておこう。

死んでるかもしれない人間のことを、あれこれ知ってしまったら、変にが湧いてしまいかねない。

「トイレ行くわ」

と、不意に勇者が立ち上がった。

「ひとりだと危ないだろ。オレとマグロも護衛に付いて行くよ」

「けっこうよ。トイレぐらいひとりで行かせなさいよ。ここで寢てる連中も放ってはおけないでしょ」

と、チョットばかし顔を赤らめて、照れ臭そうに勇者は言った。

「ああ。そうか。じゃあマグロだけ殘して、オレが付いて行こう」

「余計にけっこうよ! あんたを連れて行くのがイチバン危険なのよ!」

「なんてこと言いやがる。酷い言いようだぜ」

ダンジョンにっているあいだに尿意をもよおした場合は、人目のつかないところで出してしまうのが通例だ。

も同じである。

仕方のない処置である。

ダンジョン攻略中に尿意をもよおしたら、他にどうしろって言うんだ。

勇者の排尿姿を、一度はこの目におさめてやろうと意気込んでいるのだが、今まで一度たりとも目撃できたことはない。

言っておくが、勇者のオシッコしているところが見たいとか、そんな下品なことが言いたいわけではない。

排尿している現場を見るということは、相手の弱みを握るようなものも同じである。

あの勇者は、オレのの頃の恥ずかしい行為を知っているのだ。おらしとか、告白とか……モロモロのことだ。思い出すだけで、赤面ものである。言わせンな、恥ずかしい!

とにかく。

向こうはオレの恥ずかしい過去を知ってるのに、オレが勇者の恥ずかしい過去を知らないというのは、不公平ではないか。

ひとつぐらいは知っておいたほうが、今後の勇者との関係も優位に持ってゆけるはずなのだ。

あえて念押ししておくが、勇者がオシッコしてる姿が見たいとか、別にそういうことではない。

「さて――と」

勇者が向かって行ったほうに、オレもついて行こうとした。この部屋からつづく通路は3つある。そのうちの1本に、勇者はって行った。

オレの著ているローブのスソを引っ張ってくるものがある。

「ん?」

「覗きは良くないのであります」

マグロである。

「べつに覗きに行くわけじゃない。ただオシッコしてるときは無防備になるからな。見張りに行ってやるだけだ」

しかしマグロは、ローブのスソを離す気配はなかった。仕方がない。諦めるとしよう。オレもその場に腰かけなおしたときだ。

「おい、誰かいるのかよ」

と、聲がした。

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