《ルームメイトが幽霊で、座敷。》突然の旅行は前途多難(後編)

「あんた、百鬼夜行って知ってるか? 聞いたことがあるかないか、その程度でも構わないから」

百鬼夜行。

聞いたことがあるようなないような……あやふやな覚だ。ともかくフィクションではないな。何故ならおれはあまり本を読まないからだ。

「そんな自信満々に言われても困るけれどね……。それじゃあ、百鬼夜行に関する知識はまったくないということでいいのね?」

「あぁ、まったくだ」

「誇れることでも何でもないでしょうが……。まぁいいわ。百鬼夜行とは、たった一言で示せば『妖怪の集団』よ」

「集団? たくさん居るってことか?」

「まぁ、そういうことね。……いっただきまーす!」

そう言って姉ちゃんは先程買っておいた六明亭のハンバーグ弁當の蓋を開けた。六明亭は関東地方に拠點を持つ老舗弁當店だ。俺も姉ちゃんもその店のハンバーグ弁當が好きなのでよく購している。……このままモノローグを続けても正直どうかと思うので俺も食事に移るとしよう。

達筆な文字で『はんばあぐ弁當』と書かれた紙を剝がし、蓋を外す。

直ぐに弁當箱の半分を埋め盡くす小判型のハンバーグが俺の目にった。そしてそのハンバーグにはマッシュルームがたっぷりったデミグラスソースがかかっている。

「いやー、このハンバーグが味いんだよな。な、理斗もそう思うだろ?」

それは同だ。姉ちゃんとは案外仲違いする場面もあるが、これは數ない意見の一致ともいえるだろう。たくわんの塩辛さも、ご飯のさも、ハンバーグのふっくらも、付け合せのマッシュポテトも完璧だ。これこそ最高のハンバーグ弁當といえるだろう。

「ねえねえ、リト。私にもしちょうだいよ?」

「買ってないのか?」

「幽霊用には無いんですって。困っちゃうわね、あの弁當屋。呪ってやろうかしら」

「よせ、縁起でもない」

そう言ってその行為を制したのは姉ちゃんだった。確かに呪ってあの弁當屋が潰れてしまったら姉ちゃんは恐らく路頭に迷ってしまうことだろう。別にあの弁當屋が無くなっても別の弁當を食べればいいじゃあないか――たまにそんな意見をもらうが、そういうわけではない。誰にでもあるだろう? ソウルフードという考え方が。姉ちゃんと俺はその『ソウルフード』を考えるとそれに當てはまるというわけだ。

まあ、これを言ったところで理解されるとは到底思っていない。しかしそれでも俺たちはこのハンバーグ弁當が好きなのだということは理解してしい。

「……まあいいわ。一口でいいから、そのハンバーグをちょうだいよ? そういうの獨り占めにするのってよくないことだと思うのよ?」

「……やだ」

「いーじーわーるー」

……解った解った。そういう目で見るな。

仕方なく、本當に仕方なく、俺は碧さんの口にハンバーグをひと切れれた。

「うっまーい! なによあんたたち、こんな味しいもの食べてたわけ?!」

すぐに笑顔になった。ほんと、単純な幽霊だ。こういうのが日本神話最高のカミサマ、天照大神なのだろうか? ……そう考えるとほんとうに頭が痛かった。

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