《ルームメイトが幽霊で、座敷。》獨白と神様の一即発(後編)
イザナギはこの會合のリーダーを勤めている。オオヤシマのリーダーでもある彼がこの會合をリードしていくのはもはや當然であるともいえるだろう。
「……スサノオ。君は確かゆるふわロールケーキがすきだったな。冠天堂の、あの味しいケーキを。私も一度食べさせてもらったよ、とても味かった」
イザナギはスサノオに優しく語りかける。しかしスサノオは俯いたままで反応を示すことはない。
「……なあ、スサノオ。もう決まってしまったことだよ。人間は力をつけすぎた。そしてカミの立場に近づこうとしている。それはダメだ。起きてはいけないことなのだよ。解るかい? カミは絶対でなくてはならない。カミサマは不可侵でなくてはならない。カミという立場は……人間に支配されてはいけないんだよ」
「神界にこれほどまでの人間がいるというのに、か?」
スサノオはニヒルな笑みを浮かべて言った。
神界にはおよそ二千人もの人間がいる。そのどれもが生前正しい行いをしたと神々に判斷された清い魂を持った人間ばかりだ。だから神界は殆ど平和であるといえる。
「神界にいる人間は正しい魂を持った人間だ。しかし、今やそんな人間はひとにぎり……いないと言っても過言ではない」
「それじゃ、凡て水に流してもう一度生を作り直すつもりか?」
「……なあ、スサノオ。君もこれ以上言っていると、アマテラスと同じ処分を下すぞ。神の権利を剝奪する。この言葉の意味、知らないとは言わせない」
神の権利を剝奪するということは、その場においてそれはカミサマではなくなるということをさす。
カミサマというものは人間ではない別の存在だ。だから天國や地獄に行くわけでもなく――その場で消滅する。その後、力だけが神界に殘り、それは然るべき存在に與えられるのだ。
「……脅しか?」
「そうとも言えるな。あくまでも建設的な會合をしているつもりではいるが」
「姉ちゃんをカミサマから引きずり落とすってんなら、俺だってゆるさねえ」
そう言ってスサノオは立ち上がり、踵を返すとその場からあとにした。
それを見て、イザナミは溜息を吐いた。
「……やはり、スサノオとアマテラスの結びつきは強いな。殘念なことだ。未だにアマテラスに好意を抱いているのだろう?」
「そのようですね」
イザナギは答える。
「ただ、アマテラスがスサノオのことを何も案じていないこと……それが気になります。一応、さきほど忠告はしましたが」
「忠告……いつの間に」
「簡単なこと。『次はない』、そう言ったんですよ」
それだけ聞けば悪役めいた言葉であったが、イザナギは気にもとめなかった。
そして、神々の會合は靜かに幕を閉じた。
【書籍化・コミカライズ】実家、捨てさせていただきます!〜ド田舎の虐げられ令嬢は王都のエリート騎士に溺愛される〜
【DREノベルス様から12/10頃発売予定!】 辺境伯令嬢のクロエは、背中に痣がある事と生まれてから家族や親戚が相次いで不幸に見舞われた事から『災いをもたらす忌み子』として虐げられていた。 日常的に暴力を振るってくる母に、何かと鬱憤を晴らしてくる意地悪な姉。 (私が悪いんだ……忌み子だから仕方がない)とクロエは耐え忍んでいたが、ある日ついに我慢の限界を迎える。 「もうこんな狂った家にいたくない……!!」 クロエは逃げ出した。 野を越え山を越え、ついには王都に辿り著く。 しかしそこでクロエの體力が盡き、弱っていたところを柄の悪い男たちに襲われてしまう。 覚悟を決めたクロエだったが、たまたま通りかかった青年によって助けられた。 「行くところがないなら、しばらく家に來るか? ちょうど家政婦を探していたんだ」 青年──ロイドは王都の平和を守る第一騎士団の若きエリート騎士。 「恩人の役に立ちたい」とクロエは、ロイドの家の家政婦として住み込み始める。 今まで実家の家事を全て引き受けこき使われていたクロエが、ロイドの家でもその能力を発揮するのに時間はかからなかった。 「部屋がこんなに綺麗に……」「こんな美味いもの、今まで食べたことがない」「本當に凄いな、君は」 「こんなに褒められたの……はじめて……」 ロイドは騎士団內で「漆黒の死神」なんて呼ばれる冷酷無慈悲な剣士らしいが、クロエの前では違う一面も見せてくれ、いつのまにか溺愛されるようになる。 一方、クロエが居なくなった実家では、これまでクロエに様々な部分で依存していたため少しずつ崩壊の兆しを見せていて……。 これは、忌み子として虐げらてきた令嬢が、剣一筋で生きてきた真面目で優しい騎士と一緒に、ささやかな幸せを手に入れていく物語。 ※ほっこり度&糖分度高めですが、ざまぁ要素もあります。 ※書籍化・コミカライズ進行中です!
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