《ルームメイトが幽霊で、座敷。》カミと異形の急會議(前編)

「……そういうわけか。それにしても百鬼夜行と思われる妖怪のきも無くなってしまったし……いったいどういうことだ?」

……。

俺は姉ちゃんに事の顛末だけを告げて、あとはなにも言わなかった。いや、何も言いたくなかった。いや、なんというか。

もう。

何も話をしたくなかった。

姉ちゃんはきっとそんな俺の怠慢に怒っていたに違いない。

でも、俺は何もしたくなかった。それは事実だ。変え難い事実だったのだ。

「……疲れただろ、リト。もう休め。私ももういろんなことがあったからか、疲れてしまった……。休暇を、本の休暇をとったほうがいいかもしれないな……」

言って、姉ちゃんはふらふらと歩き出した。

俺も、それに引っ張られるように歩き始める。

なんだかもう、何もしたくなかった。

出雲大社。

タイガノミコトと呼ばれるカミは目を瞑って、ただそのときを待っていた。

ぐちゅり、ぐちゅりと。

トマトを潰したような音が、空間に響く。

それは何かが移している音だった。不快な音ではあったが、耳を塞ぐことはしなかった。相手に敬意を表すためだ。

ぐちゅり、ぐちゅり。

そして、その音は――ちょうどタイガノミコトの目の前で止まる。

タイガノミコトは平伏して、目を開けた。

そこにいたのは――無そのものだった。

否、正確に言えばそれは無だけではない。自転車だのルアーだのいろんなの手足だの様々なものが、その真ん中にある闇から生えている。

闇は笑みを浮かべ、言った。

「……まさか、そちらから議論の場を持ち出してくれるとはな、タイガノミコト」

タイガノミコトは返すように笑みを浮かべ、頭をあげる。

「いえ、私どもとしても、まさか來てくれるとは思いませんでした」

「本當だの。そのへんは『アレ』と比べて聞き分けがいいの」

隣に座っているおかっぱ頭のめいた格好のカミ――キガクレノミコトは言った。

闇は話を続ける。

「まさか日本神話でもに隠れてしまって、一切姿に出てこなかった『伝説のカミ』が一堂に介するとは思いもしませんでした」

それは卑下ではなく尊敬だった。タイガノミコトとキガクレノミコトは記紀に登場することが非常になく、出てきても『何かのカミと同一だった』という考えが殆どだ。

とどのつまり、この二柱は人間の信仰を得ていないに等しい。しかしながらそれがなくても二柱はカミとして存在していられるのだ。

「……話をしようじゃないか、百鬼夜行」

闇の正を、タイガノミコトが明らかにする。

百鬼夜行は笑顔を崩すことなく、

「正確にはわたしは百鬼夜行ではない。百鬼夜行を統制するそのプログラムといってもいいでしょう。そして私は私自と百鬼夜行を構する妖怪とのプロトコルを管理している。……言うならば百鬼夜行はパッケージングされた、ひとつの妖怪と言ってもいいでしょう」

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