《俺の高校生活に平和な日常を》第11章 #43「有紗の策」

「グルルルルル」

完全に有紗に殺意を向けているベオウルフマン。ダメージはそこまでってはいなさそうだが、不意を突かれたのがイラッときたらしい。

そんなことよりも一方の有紗はもうすでに息が上がっていて木にもたれかかってなんとか立てている狀態だ。

魔力が盡きない限り無盡蔵にき回れる召喚獣とは違い、生の人間にはスタミナという概念がある。相手の注意を引きつけるためにあっちこっち移していたからかなりスタミナを消耗してしまっているようだ。

そんな狀態にも関わらず、有紗はベオウルフマンと戦おうとしていた。もうまともに戦える余力は殘っていないはずなのに。

「早く…逃げなさい…」

「ッ!? 有紗、お前まさか…」

しかし、そんな有紗から衝撃的な一言が飛び出した。まさか俺達を逃がすために時間を稼ごうとしているのか?

「そんなの、ダメです!」

有紗の一言にみのりは非難した。

「そうだよ! 諦めちゃダメだよ、有紗ちゃん!!」

梓もみのりの意見に賛同する。無論、俺も同じ気持ちだ。有紗を置いていくなんてマネできるわけがない。

「…バカ、狀況をよく見なさい。今、まともに戦えるやつ、なんていない。このままだと、全員こいつに、殺される。そうなる前に、誰かが逃げる時間を、稼がないと…」

しかし、有紗は頑なに囮りになろうと言うことを聞かない。最早喋ることさえ辛そうだ。

「夏目さんを置いていくなんて、絶対にできません!」

「私達だってまだ戦えるよ?!」

「……」

だが、みのり達も一切引かなかった。

そのとき、有紗は不意に俺の方を無言で見つめてきた。まるで俺になにかを伝えたいかのように。

俺は有紗の目を見てふと思った。

まさか、俺がいるからか?

そう思ったとき、俺は気づいてしまったかもしれない。

有紗が頑なに逃げようとしない理由、それは俺が1番危険に曬されるからだ。

このパーティーの中で1番ステータスが低いのは無論遊び人の俺だ。俺が1番後衛にいるのはステータスがそこらのウルフとかでもアッサリ殺されるかもしれないほど低すぎるからだ。多分、レベル25のモンスターなんて爪がかすっただけで死んでしまうかもしれない。

そんな弱仕様の俺がいるせいで引くに引けない狀況を作り出してしまっている。

「……」

完全に足手まといになっている俺にはなにも言い返せなかった。だが、みのり達も引こうとはしない。かと言って俺1人逃げるなんてマネはしたくない。さっきの策も使えない。じゃあどうする?

「ウルアァァァ!!」

「ッ!?」

そんなことを考えている間にベオウルフマンは有紗に向かって襲いかかってきた。

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