《うちの姉ちゃんはこわい》敗戦投手の憂鬱

「ハルちゃ~~んっ!!」

ああ、またいつものあれか……。と思ったら、今日のマリ姉は様子が違った。

聲に力がないというか、エロくない。

「ど、どうしたの……?」

「あのね、聞いてくれる……? 今日、先発だったんだけど……」

マリ姉は子プロ野球選手だ。那覇コーラルというチームで今年からエースという、実はすごい人なのだ。

「負けちゃったのっ! しかも六失點だよっ? 私、今年からエースなのにぃ……」

こういうときだけは、なんだか支えてあげたくなる。僕の方がずっと年下なのに。

「そっか……。でも、気持ちを切りかえなきゃ。マリ姉はプロなんだから」

「わかってるよぉ……」

おれに抱きつくマリ姉の頭を、優しくなでてあげる。

野球をやってないおれには、マリ姉の気持ちはわからない。

たぶん、悔しいのだろう。悲しいのだろう。想像もつかないような思いを抱えているんだろう。

でも落ち込んでいるときは、姉も弟も関係ない。元気な方が落ち込んでいる方をなぐさめてあげるんだ。それが、姉弟ってもんだよ。

「マリ姉は大丈夫だよ。だっておれの姉ちゃんはすごいんだから。今回は負けちゃったかもしれないけどさ、次は絶対勝ってみせてよ!」

「……うん。ありがとう、ハルちゃん。もうちょっと、こうしてていい?」

「いいよ」

今だけは、マリ姉に抱きつかれていても、ドキドキしなかった。

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