《うちの姉ちゃんはこわい》勝利投手の余裕
「おい、ハル。ちょっと來い」
いつものだ。今日は何をされるんだろう。
二階に上がろうとすると、上からサリ姉が降りてくる。
「あたしの部屋じゃない。出かける」
あ、荷持ちってことか。その一言ですべてを察せる自分が悲しい。
「え、でももう外暗いし……」
「怖いのか?」
「サリ姉ほどじゃないよ」
上からげんこつを落とされた。
……生意気なこと言いました。すみません。
でも、今日のはあまり痛くなかった。
もうすぐ夏だっていうのに、サリ姉は薄手とはいえ丈の長いズボンに、上はカーディガンまで羽織っていた。
「冷え癥?」
「うるさい」
目的地は近くのコンビニ。店にるなり、サリ姉は適當にお菓子をし始めた。
「おい、何かほしいもんあったられろ。遠慮しなくていいから」
サリ姉の場合、遠慮してもしなくても殺されそうなんだよなぁ。
でも、せっかくの優しさだ。裏がないと信じて、ありがたくけ取ることにしよう。
おれはバニラのアイスを、そっとサリ姉のカゴにれる。
「あとはいいの?」
「うん」
「わかった」
會計を済ませたサリ姉は、レジ袋をおれに差し出す。やっぱり。
「今日の試合、また完封コールドだったよ」
「すごいじゃん。まぁサリ姉だったら、それくらい當たり前かもしれないけどさ」
去年もそうだった。駒越高校はメチャクチャ強い。全國でもトップクラスの強豪校で、サリ姉はほとんど失點したことがない。
「この前、練習付き合ってくれたでしょ?」
あのこと、覚えてたんだ。
「あたしが勝てたのは、あれのおかげかもしれないからさ。今日はそのお禮」
おれはびっくりして、思わず立ち止まってしまった。
サリ姉がそんなことを言うなんて……。本か……?
「な、何よ……」
「今日のサリ姉、なんか変だ」
今日はなんか、かわいい。いつもこうだったらいいのに。
「うっさいな。いつもみたいに毆られてた方がいいってわけね。わかったわ」
「違うって! あ、待ってよ、サリ姉!」
「この桜莉菜様の荷持ちさせてもらってるんだから、謝して歩きなさいよ」
……やっぱりかわいくない。
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