《貓神様のおかげで俺と妹は、結婚できました!》プロローグ

「新婦場」

をキラキラと反させるエメラルドグリーンの海に囲まれた小島の式場に、神父の強く、優しさのある聲が響く。

らかなピアノの音が流れ始め、それに同調するようにき通るような歌聲が乗り、清らかで清々しさをじさせる歌が式場中の人々を包みだした。

それに従って俺の心臓はどうしてか鼓を早めていく。

俺は今、不似合いに思えるタキシードをにつけ、眼前10メートル程にも及ぶヴァージンロードの先にある、白を基調とした裝飾の施されている扉を見ていた。

両サイドに並ぶ席には正裝にを包んだおそらく友人であろう人達が數名座っており、皆が今から現れるはずの新婦の登場を見守っている。

乾ききったをゴクリと鳴らした。

そして、その扉がゆっくりと開きだす。

次の瞬間──

俺はそこから現れた、そのしさに思考の一切を忘れてしまっていた。

いくらかの間、心地よい伴奏と歌聲のハーモニーだけが場に響き渡る。

ようやく、意識を戻した俺は既に目の前までしっかりと歩みを進めているの晴れ姿を目に焼き付けるべく頭のてっぺんからドレスの端までゆっくりと見ていく。

純白のウエディングドレスに雪の様に白く綺麗なが見事に調和し──。

「そ、そんなにジロジロ見ないでください⋯⋯恥ずかしさで失神してしまいそうです」

そのは、俺の思考を遮るようにして、頬を朱に染め上目遣いを向けてきた。

俺はその天使の一言に再び心臓を跳ね上げさせる。

だが、らしく思えるその顔が、優しく全てを包んでくれそうなその雰囲気が、俺には分からないでいる。

脳がそのが誰なのかを理解してはいけないと訴えかけてる、そんなじだ。

そんな気持ちの悪いような不快を無視し、俺は決められたシナリオに沿うようにして言葉を紡いでいく。

「あ、あぁすまん⋯⋯あまりにも綺麗すぎて」

確かにそのは、小柄で華奢なつきは儚げで、綺麗にまとめた黒髪はシルクのようだ。

とても近くて、とても遠い⋯⋯どうしてかそんな覚が沸き起こる。

先程から、の事を思い出そうと努力はするのだが、空虛に襲われるだけなのだからどうしようもない。

「っ! ⋯⋯⋯⋯う、嬉しいですけど今はダメです! か、顔がにやけてしまうじゃないですか!」

「はいはい、ごめんな」

まぁ、既にだいぶにやけてるようにみえるのだが⋯⋯。

そのの顔は幸せそのもので満面の笑みを浮かべているのだ。

「あ、あの⋯⋯今のうちに言っておきたいことがあるのですが⋯⋯いいですか?」

「ん? あぁ」

突然どうしたんだ? そう思いつつ首肯すると、は數度こちらをチラチラと見ると、ようやく決心がついたようで、手をぎゅっと握りしめる。

「ほ、本當に⋯⋯こんな私を選んでくれて⋯⋯ありがとうございます⋯⋯私は今、本っ當に幸せです⋯⋯私は昔からの夢が葉ったのですから。私は今までもこれからも、永遠にお兄ちゃん・・・・・の事が大好きです」

そう言ったは、目にうっすらと涙を浮かべながら最高に可いらしい笑顔を見せた。

そういう話は普通結婚式の後とかにする気がするのだが⋯⋯。

それより今(お兄ちゃん)って⋯⋯ふと、この喪失の核心に迫るであろう何かが思考の海から浮上しかける、だが、次の瞬間再び沈んでいくようにして分からなくなってしまった。

「俺もだよ────」

(ジリジリジリジリジリジリジリジリ⋯⋯⋯⋯)

突然の大きな雑音に、俺は意識ごと引っ張られるようにして言葉を切られたのであった。

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