《貓神様のおかげで俺と妹は、結婚できました!》一話 それ何ですか? おそらく貓の尾です
「今日から學校か⋯⋯」
あの夢はなんだったんだ?
俺はキッチンで朝食を作りながら、今朝見た夢の事を思い出していた。
あの、夢の中での俺の花嫁なんだけど⋯⋯き通るような白い、絹のように艶やかな黒髪、若干つり目ながらも完全に大人になりきれてなく、あどけなさが殘る可く整った顔立ち⋯⋯。
「なんであの時思い出せなかったのか不思議でたまらないのだが、それって──」
結論を出そうとしたタイミングで、見計らったかのように誰かが階段を下る音が聞こえてきた。
いくらか階段を下りる音のした後、次にすたすたと廊下を歩く音、それが自分のいるキッチンと繋がるリビングのドアの前で止まると、ドアが開かれた。
姿を現したを見て俺は改めて確信する。
綺麗にばした黒髪、モデルの様に出るところはそれなりに出て、ひっこむところはきちんとひっこんでるのお手本の様なシルエット、そして兄である俺でさえも見惚れてしまうほどの。
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やっぱりお前しかいないよな⋯⋯こんなそうそう居る訳ないし。
そう、例の俺の花嫁はあろう事か実妹だったって訳だけど⋯⋯。
俺はいつのまにか、妹にするやばい奴になってたのか? いやいや、そんな事は絶対にないんだけど。
「ベーコン」
「ん? あ⋯⋯ごめん」
いつのまにか俺のいるキッチンの方に來ていた妹に指摘され、今自分が何してたのか思い出す。
手に持つフライパンの上には、焼いてたはずのベーコンが黒焦げになっていた。
ただでさえ金銭面やばいってのに⋯⋯。
あの夢の事はなるべく考えない様にしないとな。
俺ら兄妹に限ってそんな事は絶対にありえないんだから。
「それと、気持ち悪いので、こっちをジロジロと見ないでください」
ほらね、こんなじですよ。
「いや、それは⋯⋯はい、すいません」
確かに見てたから言い訳出來ないけど、流石にそこまで言わなくていいじゃないか⋯⋯。
俺は妹の冷たい一言に早朝から落ち込みながらも、作った朝食を簡単に盛り付け、妹が座っている機に運んでいく。
俺は榊 輝夜さかき かくや。
何か得意ながある訳でもなく、どちらかと言えば苦手な事の方が多い。
顔も本當に冷奈の兄か? てほどパッとしない顔をしていると思うし、いわゆるどこにでもいる高校生だ。
そして、學校では友達がほとんどいない⋯⋯。
こう考えると、妹も俺を避けたくなるわな。
よく分からないって言う人は考えてみてほしい、特別なものは何もない、平凡な高校生のあなたが居たとする。
そんなあなたの目の前に、街を歩けば通りすがりの人が老若男構わず振り返る、そんな夢のようなが居たとしよう。
そのは実は同じ中學だったんだ。
で、特に中學での面識もなかったとして、そのが何の特別要素もないあなたに好意を持って話しかけるだろうか? 答えはおそらくNOだろう?
まぁ、そんなじだ。
「あ、冷奈おはよう」
ちなみに冷奈というのは、そこで何も聞こえなかったかのように英単語帳を読んでいる我が妹さんの名前なのだが⋯⋯まぁ、こんなじで言葉を返してくれない事もしばしばある訳で──。
そこで、冷奈は席を立ち一度こちらを睨むと、キッチンの方へ歩いて行った。
あいさつするだけで睨まれるという、素晴らしい嫌われっぷりだろ?
まぁこんなに嫌われてるのも俺が悪いんだけどな。
冷奈は俺と違って、運神経が抜群でどんなスポーツも軽くこなすし、績は優秀だし⋯⋯。
いや、それもあるけど一番の理由は俺があいつを一人にして、逃げた事⋯⋯なんだよな。
今度は冷奈を守るって誓ったはずなのに、結局見てるだけで何も出來てないし⋯⋯本當に俺何してるんだろうな。
俺は自分の無力にため息をついて、醤油を取りに行こうと席を立つ。
すると、キッチンから帰って來ていた冷奈が突然何かにつまずく様にしてふらつくのが見えた。
「大丈夫か? 冷奈」
俺は倒れる寸前、咄嗟に冷奈を抱く形で支えていた。
あの冷奈がこけそうになるなんて、何事だよ、しかも何もないところで⋯⋯何か大変な事でも起きるんじゃないだろうな?
そう思わせるほど俺の妹は完璧なのだ。
「はい⋯⋯も、もう離してください、とてもとても不愉快です」
「あぁ、ごめん」
そう言って放すと、冷奈と目が合う。
うわぁ、冷奈様は大変怒ってらっしゃる⋯⋯。
冷奈は普段からは想像できない事に、目元に僅かに涙を浮かべ、屈辱と憤怒からか、顔を真っ赤にしていた。
しかし、一度顔をそらし數秒後こちらに振り返ると、顔の染まりも落ち著き通常の爽やかな冷奈に戻る。
そして、
「まぁ、あ、ありがとうございました」
冷奈が引きつった笑顔を向けてきた。
「え⋯⋯あの冷奈が俺にお禮を⋯⋯やっぱり天変地異でも──」
「なんか言いました?」
どうして笑顔のはずなのにそんな怖いの!?
しかも、なんか笑顔に違和が無くなったのはなぜ?!
「い、いえ何もないです、ごめんなさい」
「どうして謝るんですか?」
「⋯⋯⋯⋯」
「まぁ、いいです」
冷奈はそう言って席に戻り始めた。
あ、マヨネーズ⋯⋯。
それを渡そうと足を前に出そうとした所で、俺は何かにつまずく様にして、勢を崩した。
「え? あっ、ちょっ」
瞬間冷奈の揺する聲が聞こえ、俺は転ぶ直前に手にれたひもの様なをとっさに握りしめる。
「きゃっ!」
は? どうして冷奈が? それより全然この紐役に立たないし!
そのまま冷奈を巻き込む様にして盛大に転倒してしまった。
「痛てて⋯⋯何が起きたん⋯⋯だ⋯⋯っ!?」
目を開けた俺は、その景に唖然とする。
冷奈、妹に覆いかぶさる様にして転んだ俺は、右手で何か尾の様な、左手はあろう事か、妹様のに手を置いてしまっていた。
意外と弾力があってらかくて⋯⋯て、何考えてんだよ俺は!
「ちょっと、何が起きて⋯⋯輝夜? なな何をしているんですか?!」
うわぁ、怖いから、睨まないで睨まないで!
冷奈の冷たい視線が下から突き刺さり、冷や汗が背中を濡らすのをじる。
「い、いやこれは不可抗力というやつで!」
いや、本當にまずいぞ⋯⋯ますます俺の明日が遠くなって行ってる気がするんだけど。
そこで冷奈は再び目を逸らす、そしてしばしの沈黙、振り返った冷奈は普段通りと言えないまでもクールダウンされたの表に戻っていた。
さすが、完璧冷奈様⋯⋯て、そんな事に心している場合じゃなくね?
「ふーん⋯⋯不可抗力でを⋯⋯さ、流石は変態、無意識にを狙うなんて、気持ち悪いです、そんなに妹が好きなんですか。⋯⋯っそ、それより早くどかしてください」
無表に近いが、口の端をひくつかせ威圧的なオーラを放ってくる妹様。
そして途中で何故か顔を赤くし、早口でまくし立ててきた。
その普段の冷奈らしくない態度がすごく久しぶりでどこか嬉しかった。
「何してるんですか!」
「ご、ごめんなさい!」
そう言って馬乗り狀態のまま左手をどかそうとして、必然的に右手に重がかかる。
「きゃっ!」
突然冷奈が悲鳴をあげた。
「え? どうしたんだ?!」
「や、やめてください!」
冷奈はまたも赤面させキリッと睨んでくる。
いやいや本當に⋯⋯俺今冷奈にってない⋯⋯よな。
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