《量産型ヤンデレが量産されました》違和

「チクショウ! 一何がどうなってんだ!」

突然ですが私わたくしこと高瀬雄太は現在追われています。

「待ってよ雄太くん! 何で逃げるの?! 何で逃げるの?! ねえ何でなの?! 何でなの?!」

そして私わたくしのことを追っているのはこの學校のアイドルと言っても過言ではない如月榛名さん。

普通に考えれば彼は誰かを追いかけ回すような人では無く、逆に誰かに追い回される人でしょう。本當ならば私わたくしも追われるまでも無く彼のその満なに飛び込みたい所なのですが……。

「お前そんなキャラじゃなかっただろ! 一急にどうしたってんだ! つかお前がロープ片手に持って追ってくるから逃げるんだよ! 何でそんなもん持ってんだよ!」

明日使えないトリビア、いくら相手が巨でもロープを手に持った相手のに飛び込むのは躊躇ためらわれる。

逃げ回っている俺の聲に彼は律儀にも対応してくれた。

「そんなの雄太くんと私をいつでも繋げるように常備してるに決まってるじゃない!」

「ふざけんな!」

返答の容は碌でも無かったけどな!

――――嗚呼神様、一私が何をしたというのでしょうか………。

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時はその日の朝まで遡る。

高校二年の五月となり新しいクラスメイトの顔も大覚えた頃、五月晴れの名にふさわしい快晴の空から差し込む朝日を浴びて目を覚ました。

「んあ………眩しい………」

「お兄ちゃん起きて! 早く起きないと遅刻しちゃうよ!」

「ん………文か………? お前何で俺の部屋に居んの?」

「ふふん! 久しぶりにお兄ちゃんを起こしてあげようと思ってね! ほらほら、早く起きないとホントに遅刻するよ!」

おかしいな………、俺の妹の文は間違ってもこんな奴では無い。

まず俺のことをお兄ちゃんなんて呼ばないし、「お前の部屋臭いんだよ」といきなり言ってくるような奴だ。

仮に俺を起こすにしてもカーテンを開けてを當てるなどせずに正拳突きなり踵落としなりを當ててきたりするだけだろう。もしくはることすら嫌がって水をぶっかけるかもしれない。

俺の妹はそんな奴だ。間違ってもこんなやつでは無い。

しかし今起きれば遅刻が回避できるのは確定で、ゆっくり朝食を楽しむことも、朝の清々しい空気を堪能しながら登校することも可能だろう。

まあ特に気にすることでもないし、悩んでも仕方ないか。

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そのように疑問を一先ず頭の隅に追いやって起床することにする。

「わかったわかった。起きるから先に下に行ってろ」

俺がきちんと目を覚ましたことを確認すると文は可らしくにっこりと笑い「二度寢しちゃ駄目だからね!」と俺の眠気を吹き飛ばすように大聲で言った後に元気よく部屋から飛び出して一階へと降りて行った。

「あいつ一どうしたんだ………。ふあ………、起きるか………」

頭の隅に追いやっても気になるものは気になる。

しかし文の様子がおかしいことよりも遅刻しないで済むことの方が重要なので、俺はさっさと顔を洗って朝食をとることにした。

朝食の時も文の様子はいつもと違った。

栄養を取れと言って野菜ジュースを渡してきたり、すぐに出られるようにとカバンを部屋から取ってきたりと至れり盡くせりである。

尚両親は既に出勤しているため文に対してツッコミを出來る人は俺以外には今はこの家には居ない。

正確にはもう一人いるのだがアイツは數にはれない。

小さいころから周りの人間を巻き込んだ騒ぎを常に起こし、現在は現在で部屋に籠って何かをしている馬鹿姉、文華。

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まさかとは思うがこのおかしくなった文は馬鹿姉のせいなんじゃ……。いや、俺はこの問題は頭の隅に追いやったんだ。

追いやったんだったら追いやった。決して考えたくないから現実逃避した訳ではない。初志貫徹を実行してるだけ。漢に二言は無いのでごわす。

いつもよりもゆったりと食事を終えた俺は「ごちそうさま」とひとこと言うとさっさと家を出ようとする。

「あ! お兄ちゃん待って!」

玄関でローファーを履いていると背後から文が聲をかけてくる。いや、せっかく遅刻しないで済みそうなんだから面倒事は止めてしいんだけど。

「なんだよ」

俺は不機嫌を隠そうともしないでそういうが、文の方はそれをまったく気にしていない。

「忘れがあるよ!」

「忘れぉ?」

そんなあったっけ、というより何でお前がそんなの知ってんのと俺が思っていると文はトコトコとこちらに近づいてくる。

俺はその様子から文が何かを渡してくるのかと思っていたが、俺の前で立ち止まると思いもよらぬ言葉を言った。

「いってらっしゃいのキス!」

そう言うと文は目を瞑り、長差を考えて顔をし上向きにして自分のを指さした。

「ば! 馬鹿じゃないの! 何言ってんだお前!」

何この生! こんなの俺の妹じゃない!

俺が慌てる様を見て満足したのか文は目を開けて一歩下がってクスクスと笑った。

「じょーだんだよ、じょーだん。いってらっしゃいお兄ちゃん!」

何この……何……?

たった一晩で俺の妹は全く別の何かに生まれ変わってしまったようだ……。俺は恐怖で顔を引きつらせつつ急いで家を出る。起きた當初は見事な快晴だった空が、早くも翳りを見せたのは気のせいでは無いだろう。

「おはよう雄太!」

俺が教室に到著するやいなやそんな風に挨拶をしてくる奴がいた。

「おっす太郎!相変わらずの顔だな!」

「テメエ………屋上行きだ。久しぶりに…………キレちまったよ………」

「お前昨日もそのセリフ言ってたろ」

そいつは俺の親友の田中太郎。あまりにもあんまりな名前であるが、その名前に似合わない顔をしている。

高校デビューを狙っていたかは知らないが、高校生活初日に子と間違われてチャラ男生徒にナンパされたことを筆頭に、何故男子用の制服を著ているのかと別のクラスの先生から注意される。

更に下校までの間に先程のチャラ男が妙な悟りを開いてしまったらしく、「男でもいい! いや、むしろ男なのがいい!」と再度アタックをしかけてきて涙目になるという鮮烈な高校デビューを果たしている。

二次元から飛び出したとしか思えない的な顔をしているが、男だ。それこそ二次元から出てきた存在とも言えそうだが。

そんな田中と俺は一年生の時に同じクラスになり、なんやかんやで仲良くなって、更には運よく二年でも同じクラスになった。

高校で一番一緒にいるのは誰かと言われればお互いがお互いを指さすこと間違い無しである。

そんな風に朝のいつも通りのやり取りを終えてからぐだぐだと喋っていると先生がやってきた。これまたいつも通りにホームルームを終え、いつも通りに授業が始まる。

だが早めに起きた弊害か、眠気が俺を襲ってきたのはいつもよりも早い二限目の授業の最中であった。おのれ……、いつもなら三限目だろうが……。ん? 大して変わらないか。

いつもよりも派手に眠ってしまったことで先生に見つかり注意されるが、眠いものは眠い。眠気に逆らうことが出來ず、再度機に突っ伏して眠っていると今度は頭をスパンと叩いて起こされた。痛い。

そんな風にして二限目を終えるとある人が聲をかけてきた。

「眠そうだね、雄太くん」

その人はこのクラスの、いや學校のアイドルと言える子、その名前は如月榛名。

しさと可さの比率が3:7くらいの顔、いつも明るく元気なの子、彼の眩い笑顔に何人がノックアウトされたことか。あと巨

知り合い以上、友達未満な彼に聲を掛けられたことは今まで無く、それらしい理由も思い至らない。その行に今朝の妹のような違和がちらつく。

しかしそんな些末なことよりも今目の前にある彼の微笑の方が何倍も重要である。彼に変な印象を與えないようにさっさと返事をしなきゃ。

「あ、ああ、俺の妹が朝早くに叩き起こしやがってね、おし眠いんだ」

焦ったせいで噛んでしまった。ちくしょう。

「あはは、それは大変だったね」

だが彼は俺のそんな醜態を気にすることも無く流してくれた。

それに謝しつつ一どんな用事があるのかと思うが、特にそういったことも無く他も無い會話が続き、とうとうチャイムが鳴ってしまった。

先生はまだ來ていないが彼も席に戻るだろうと思っていると、彼が俺の耳に顔を寄せる。

「えっ! 何?!」と、嬉しさより驚きが先立っている俺に彼は囁いた。

「放課後にちょっと話がしたいけど大丈夫かな?」

にそう言われて斷れる奴はいるだろうか。いや、いない。いたらそいつはホモに違いない。無論俺はホモではないので首をぶんぶんと縦に振って了承した。

何ということだろう、あの如月にそんないをけてしまうとは。これはアレだろう、どう考えても伝説の木の下で行うようなイベントだろう。

もしかしたら罰ゲームを彼が食らっている可能もあるかもしれないが、先ほどからじる周りの子からの視線は罰ゲームの様子を眺めるような、厭らしいものではなく、一どうしたことかとこちらの様子を伺うようなものだ。

その視線も演技かも知れないが、そんな演技派は知りません。そもそも俺は罰ゲームに使われるような顔ではないと自負している。いや、使われないというだけでイケメンと言ってるわけじゃないよ? 々中の下くらいから中の中くらいだと思ってるからね? 調子に乗ってないよ?

こうして放課後のイベントに対する期待から眠気など全て無くなり、目を輝かせながら授業をける俺を先生は不気味そうに見ていた。酷い。

そして今日の授業が終わり待ちに待った放課後、一緒に帰ろうという田中のいを「用事があるから」と斷り、逸る気持ちを抑えつつ如月との待ち合わせ場所へと向かったのだ。

「すまん、待たせちまったか?」

「ううん!全然大丈夫だよ!」

人気のない、校舎裏にて、そんなベタな出だし。

チラリと周りを見渡すが誰かがこちらを見ているようには思えない。まあ罰ゲームの道に見つかるようなアホは罰ゲームなど実行しないだろう。

そんな俺の考えを読んだのか、彼し殘念そうな顔をしながら話を切り出す。

「いきなり呼び出しちゃってごめんね? でも、雄太くんにどうしても伝えたいことがあって………。えっと………その………わ、私と付き合ってください!!」

的に「喜んで!」と答えそうになるのを抑える。いや……、その、なんだ、まさか本當に告白されるとは思っていなかったし、俺と彼の接點の無さを考えるとやっぱり罰ゲームでしょ、これ……。

先程は気づけなかったがどうせどこかで仕掛け人がニヤニヤとこちらを伺っているはずだ。そんな奴の思に乗るのも癪に障るし、かといって彼の告白を斷るのも角が立ってしまう。

さてはてどうしたものかとまごついていると、如月の目にじわりと涙が溜まっていく。

「雄太くんは信じられないかも知れないけど、私本當に雄太くんのことが好きなんです! 田中くんや他の人とお喋りしてて楽しそうにしてて、それで皆のムードメーカーになってる所とか、何でも一生懸命頑張ってる所とか、皆に優しい所とか、本當に………好きなんです………。ひぐっ………付き合ってくれなくてもいいですから………私が……えぐっ………雄太くんのことを好きだってことは………信じてください………!」

なんてこったい、接點が無いのは正しかったが、それは別として彼は俺のことをよく見ていたようだ。

ええい、もうどうにでもなれ。本當にこれが本気の告白なら斷った時、彼を深く傷つけてしまう。というより凄くもったいない。

もしこれが罰ゲームなら俺は大いに笑われるだろう。だがデメリットはそれだけだ。

目の前の涙は噓だとは思えないが、もし噓なら俺は不信に陥るだろう。しかしはそんな演技をするのであれば不信など何のデメリットにもならない。

俺の答えは決まった。

「えっと、あの、如月さん、俺も、いや、その、俺と付き合ってください!」

さっきまで冷靜だった奴が何を慌てているんだって? 彼居ない歴=年齢なめんな! そもそも半分以上直観に従っただけだから何も考えてないようなもんだぞ!

慌てたせいでだいぶおかしな返事になってしまったが返事は返事だ。小さな聲で言ったわけではないので彼にも聞こえたはずだ。

その証拠にこの世の終わりのような顔から一転して、いつもの明るい、いや、いつも以上に明るく、それはもう周りに花びらが待っているのではないかと思えるような満面の笑みを彼は浮かべていた。

「あの! あの! ありがとうございます!」

はそんなことを言いながら頭を下げる。いや、頭下げられるようなことしてないから。

「いや、ありがとうはおかしいでしょ」

俺は思わず突っ込んでしまう。彼は俺以上に慌ててしまっているらしくアワアワしながら頭を上げる。可い。

「えっと! それじゃ、その、名前! 名前で呼んでください!」

になって初めてのお願いがそんな可らしいものとは。親さんを呼び出して教育方針を褒めたくなる。

まあ確かに俺は彼のことを如月さんと呼んでいたもんな、彼も俺のことを高瀬くんと前から………アレ?

………まあいいや。

「お、おう、榛名、その、これからよろしくな?」

「うん! うん! よろしくね! 雄太くん!」

俺に抱き付いてピョンピョンと跳ねてる。可い。あとらかい。何がとは言いませんが。

は無意識にそれをしていたらしく、顔を赤くしながら俺からし離れた。そんでもってコホンと一つ咳払いをして俺にこう言った。

「あの、その、雄太くんと人になったらしたかったことがあって」

ちょっとでも威厳を保つために咳払いをしたのだろうが、「人」と言った辺りで真っ赤な顔を更に赤くして俯いてしまった。最後の方は蚊の鳴くような小さな聲であった。可い。

なんだかさっきから可いしか言ってない気がする。仕方ないやん、可いんやもん。

「したかったことって、何? 何でもいいよ!」

「ゆ、雄太君と、手を繋ぎたくて……」

ははは、さっき勢いとは言え抱き付いてきたんだ、それは今更だろう。と俺が言おうとした時、榛名は力強く続けた。

「ロープで!!」

………ん?

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