《量産型ヤンデレが量産されました》逃走
「は、榛名、俺、聞き間違えたかも知れないからもう一回言ってくれないか」
そう、聞き間違い、聞き間違いだ、あの如月榛名が、人になってやりたいことがロープで手を繋ぐとかそんなわけが……。
「私と雄太くんの手をね! ロープで縛りたいの!」
ありましたよコンチクショウ。
「待って、榛名、ちょっと待って、何でそんなことしたいの」
「えっとね、私ね、雄太くんのことがスゴクす、好きだからね、ずっと一緒に居たいの。だからね、一緒に居られるようにしたいの!」
この発言だけ見れば何と可らしい頼みだろうか。顔赤くしながらモジモジしてる様など破壊力バツグンである。しかし言っている容は中々に頭のネジがぶっ飛んだ容。
彼の可らしい願と頭のネジがぶっ飛んでいることが合わさってとんでもないことになっていらっしゃる。
いや、何でも言うこと聞いてあげたいと思ったけど流石にそれはあかんじゃろ。というわけで俺は彼に抵抗する。
「それってさ、単に手を繋ぐだけじゃ駄目なの? 流石にロープで手を縛るってのは………」
「そんなの駄目だよ! 手を繋いだだけじゃすぐ離れちゃうよ! 私は雄太くんと何があっても一緒にいたいの! ずうっと雄太くんのことじて、ずうっと雄太くんの隣に居たいの! 雄太くんのことを考えるとが苦しくなって、どうしても會いたくなって、すごく辛いの! そんな風になるのも今なら幸せかなとか思っちゃうけど、でもそれ以上に雄太くんと離れたくないの! 學校に居る時も家で勉強している時もご飯を食べる時もお風呂にるときもお手洗いに行ってる時も寢る時も起きる時も、ずうっと雄太くんのことをじて居たいの! 私がそうやって雄太くんのことをじて居るように、雄太くんにも私のことをじて居てしいの! 健やかなる時も病める時もだけなんかじゃ全然足りない! 一生、ううん、死んじゃっても雄太くんのことをじていたいの!」
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大佐殿! 報告致します! 頭のネジの吹っ飛び合は「中々」ではなく「凄まじく」でありましたぁ!
「………百歩譲って、百歩譲って縛ったとしてもさ、學校はどうするんだよ。絶対に変な目で見られるって。先生にも叱られるって」
何とも弱弱しい反論であることは自覚している。しかし彼の狂気に圧されている今の俺にはこの程度の言葉しか出てこない。
「そんなの、私と雄太くんのラブラブっぷりを皆に見せつければいいだけだよ!」
あ、これアカンやつですわ。話にならねぇ。どうやっても手を繋ぐ(理)を実行する気だ。
「それに雄太くん、さっき何でもするって言ったよね?」
そう言うと榛名は俺の方ににじり寄ってくる。
可らしく言ってもダメですよ榛名さん。いかんいかんいかん危ない危ない危ない。そう俺の第六が告げる。このままこの子の言うことを聞いては駄目だと。もしそうなったら彼から離れることが本當に出來なくなると。どうやっても離れられなくなると。
俺は本能に従い走り出した。作戦名は「ぼくおうちにかえるぅ」である。容は名前そのまま、走って! 家まで! 帰る! 死ぬ気で走れ俺!
こうしてこの作戦を実行した俺と、それを追いかける榛名との追いかけっこが前回の冒頭なのである。
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「待ってよ雄太くん! どこに行くの?! もうロープは用意してあるから探さなくていいんだよ?!」
と言いながら榛名はロープを片手に追いかけてくる。榛名さんや、太すぎず細すぎず、を縛るのに実に丁度良さそうなロープでございますな。いつの間にそのようなを裝備なさったのですかね?
「そんなどこに持ってたんですか榛名さん!」
「乙のヒミツだよ!」
そんなヒミツあってたまるか!
とはいえ俺と彼は男と、足の速さというかスタミナが違う。おりしていいんだよ、とか私の家に一緒にいようよ、とか魅力的な提案が後ろから聞こえる気がするがそれは孔明の罠だ。そんな都合のいいことがあるはず………いや、あるがそれ以上に危険が危ない。
なんとか途中で彼を振り切り帰宅する。もし彼を家の前までに振り切れなかったら何かがアウトになっていただろう。
家に著き、ふうと一息吐いたところで俺の目の前に仁王立ちしている人に気づく。
小學校の夏休みの自由工作では作品に電気ショックを流す仕掛けを仕込み、先生がそれに引っかかったことから始まり様々な事件――悪戯と言うには々過激であるため事件と言っておく――を起こして他人に迷をかけ続けた俺の馬鹿姉、文華である。
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高校の実験でアルコールランプの炎を火炎放のように扱い、先生の頭を何故か火傷も無く、その代わり綺麗に不地帯に仕上げて以降対外的には大人しくなり部屋に籠こもることが多くなっていたが、珍しく部屋から出ている。
そんな姉の顔を見ると同時に今回のコレはコイツの仕業だと確信する。だってコイツの顔が悪戯に功した時の悪ガキのそれと全く同じだからだ。
「おい、どういうことだよ」
「何のことを言っているのかサッパリわからんね」
この期に及んでシラを切ると申すか。ネタは上がってるんだよ。言ってることはともかく表をなんとかしろ。
恐らく俺に言いたくて言いたくて仕方が無いのだろう。ニヤニヤと実にいやらしい顔をしていやがる。
「言いたくて仕方ないってツラして言う臺詞じゃねえぞ。さっさと言え」
「おや、そんなことを言われては言いたくなくなってしまったな」
表はそのままで微妙に顔をそらすとそんなことを抜かしやがる。殺すぞ。
これ以上コチラから何を言っても話しそうに無い、いや、話すは話すだろうが絶対に無駄に引っ張るので無言で問い詰めるように馬鹿を睨む。
時々プフッとかククッとか笑いをらしていたが我慢し切れなくなったようで、両手を上にあげ首を橫に振り降參する。
「わかったわかった、話すからそんな見つめないでくれ、私にまで薬の影響が出たらどうするんだ」
「薬?」
「そう薬。ある特殊なフェロモンを撒き散らすようになるんだ。で、それの影響は周りの人間、薬を飲んだ人間に対して好意を持つ異に対してだが、その好意を示すのに過剰な行をさせるようになるのさ」
なんかとんでもないこと言い出しやがったぞこいつ。
「おいコラ待て、俺はそんな薬俺は飲んだ覚えは無いぞ。つかなんちゅうを作ってんだテメエ」
「飲んだ覚えが無いのは當然だろう、昨日の夜雄太が眠っている時に飲ませた。そして薬を作ったのは面白そうだからだ!」
「ふざけんな! 勝手に飲ませた挙句にその理由が面白そうだからとかふざけんな! この馬鹿!」
誰だってそんな訳の分からない薬なんて飲まされたくないだろう。俺だってそうだ。だがおれの想いいかりは馬鹿には屆かない。
「褒め言葉ありがとう」
「褒めてねえよ!」
「いいや褒めてるさ。よく言うだろう? 馬鹿と天才は紙一重って。つまり私は天才とほとんど変わらないってことだろ?」
開いた口が塞がらないとはこのことである。前々から馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが本の馬鹿だ。頭のいい馬鹿というか、思いついたことを実行できるだけの能力がある分ただの馬鹿よりよっぽど質の悪い馬鹿だ。
とはいえ茫然としていられない。今までこいつが起こした事件では奇跡的に命に別狀のあるような結果は殘していない。きっと今回のコレも命につながる大事とはならないだろう。と自分に言い聞かせることで無理矢理自分を落ち著かせる。
「それで、その薬の効果が切れるのはいつなんだ」
「ん~、それらを確かめるためのデータ取りの実験という意味合いが強いからな」
「おいおいおい、まさかわからないって言うのか?!」
「正確なことはわからない、ってだけだ。まあ多分一日か二日じゃないか? まあ々頑張ってくれたまえ」
などと勝手なことを言いながら馬鹿は部屋へと戻っていく。あの野郎、言いたいことだけ言っていきやがった。
ただあの馬鹿は噓をつくことはあまり無いため、わからないということも、多分一、二日程度だろうという予測も多分本當だろう。
つまり明後日ぐらいになれば榛名は元通りになるということだ。明日學校を休んでしまえば何の問題も無い。しかも馬鹿の話を信じるならば榛名は元々俺に対してなからず好意を持っていたということであり、それを思うと口の端が吊り上がってしまうのも仕方のない話だろう。
よくよく考えれば明後日には元通り、可い彼もゲットして、しかもそれがあの如月榛名。元々好意を持っていて今回のフェロモンはただのきっかけに過ぎない。つまり誰も損してない。いや、彼のファンクラブは除くが。
あれ?結果だけ見れば上々じゃね?ほう、あの馬鹿もたまにはいい仕事をする。馬鹿という呼び方はやめて姉と呼んでやろう。
などと玄関で一人考えていると後ろから聲がかかる。
「ただいまー。あれ? お兄ちゃん何で玄関で突っ立ってるの?」
おっと、文が帰ってきたようだ。いつもの文ならば「邪魔」の一言で俺を押しのけてっていくはずなのに、わざわざ聲をかけてくるとは。
「あ、文か。おかえり。いや、ちょっとな。すぐどくから」
「うん、ただ……いま…………………………」
「ん? どうした?」
「ねぇ、お兄ちゃん、ちょっとリビングでお話いい?」
いかん、猛烈に嫌な予がする。的に言うと文の顔が笑顔→驚き→悲しみ→無表と遷移した気がする。
しかしここで斷ったとしても俺と文は同じ屋の下で生活をしているので文が俺の部屋に突撃してくるのは目に見えている。
あ、そういや朝からコイツの様子が変だって思ってたじゃん。つまりフェロモンの効果が文に出ているという訳で………やべえよ………やべえよ………。
とか考えながら後ろをついていきリビングへと到著。この間僅か二十秒。何か名案を思い付くわけもなく、焦りでまともに考えることも出來ないままリビングのソファへと座る俺。目の前に座るは無表の文。
「えと、それで話って何?」
榛名の例があるため恐る恐る質問をする。
「その前に乾かない? 飲み取ってくるよ」
「お、ありがとう」
な、なんだあ、フェロモンの効果って言っても文の場合は甲斐甲斐しく世話をする程度か。むしろ過剰な行為を世話することと捉えているその価値観の方が心配になってきたぞ。まあロープで縛りたいとか言い出さないか心配するよりかは何倍もマシだな。
取り越し苦労だったか、と安堵してゆったりと構えていると文が飲みを手にして戻ってくる。
「はいこれ」
「サンキュ、ってまた野菜ジュースかよ」
「だってお兄ちゃん栄養とか々足りてないでしょ? こまめに摂取しなきゃ」
野菜ジュースは所詮ジュースだから栄養なんか取れないとか聞いたことがあるが、そんなツッコミはいまするのは野暮というものだろう。
妹の好意を無駄にするわけにもいかないから野菜ジュースをチビチビと飲む。うむぅ、さっきまで張しすぎたか。何だかジュースの味が変に思える。
文はさっさと話しだすかと思ったが、何故か俺が飲んでいる様子をじっくりと観察している。そんな見られても困るんですけど。
じぃっと見られることに居心地の悪さをじるがなんとか飲み干してこちらから話を切り出す。
「で、話って?」
「うん、お兄ちゃん、さっき玄関に立ってたけど、カバン持ってないからどうしたのかなー、って」
アレ? 表の変化が凄かったからもっとヤバい質問してくるかと思ったのにそんなこと?
「ああ、ちょっと學校に忘れてきちゃってね」
「もー、何やってんのよお兄ちゃん。普通カバン忘れるとかしないよー。何で忘れちゃうのさ」
文はけらけらと笑いながら俺を煽ってくる。だが別に俺を本気で馬鹿にしているというわけでもないので俺も軽い調子で答える。
「いやーそれがさ、あの馬鹿姉が々やらかしたみたいでさ。アイツが作った薬とかのせいで何か々周りに影響が出ちゃったみたいでね。クラスの子に告白されたと思ったら『一緒に居たいからロープで手を繋ぎたい』とか言い出してね、驚いて逃げちゃったんだよ。すんごい勢いで追いかけてきたからさ、カバン持って帰るの忘れちゃったんだよ」
お前にも軽く影響出てるけどなー、とか、明後日になったらこのことをネタにして散々からかってやろうとか思いながら理由を説明する。
しかし俺は悟る。この話をするのは悪手であった。目の前の文の目が完全に據わっている。先程までの和やかな雰囲気は完全に消え去り、絶賛氷河期突である。
「えーと、あの、文?」
「お兄ちゃんさ、その告白ってどうしたの?けたの?」
「………………」
「けたの?斷ったの?どっちなの?」
黙は許さない。聲からそんな意志が伝わってくる。
「け………ました………」
「ふーん、けたんだ………ふーん………へえ………そうなんだ………」
いかんいかんいかん危ない危ない危ない。
俺の第六が告げるまでも無い。ここは危険だ。即時撤退やむなし。しかしがかない。蛇に睨まれた蛙の如く、じろぎすら許されない。
「何で? 何でけたの? 相手は誰なの? お兄ちゃんの相手に相応しいの? 私以上にお兄ちゃんのこと想ってるの? してるの?」
「………………」
文の怒濤の勢いに押され俺は何も言えない。
「黙ってたらわからないよお兄ちゃん。ねえお兄ちゃん、私だけじゃ足りないの? ねえお兄ちゃん、ねえねえねえねえねえねえねえねえねえってば」
いかんぞ、これ。黙ってるとどんどん悪化していくやん。
「あの………、文………そのさ、してる、とか言っても俺たちは兄妹なんだし、そういうのは」
黙るのだけは不味いと思った俺は何とか言葉を絞り出す。しかし妹の二度目の豹変、正確に言えばフェロモンで豹変したんだから一回しか豹変してないんだが、ともかく妹の豹変に大いに焦った俺はまたしても悪手を打ったようだ。
妹がピタリと言葉を発するのをやめる。妹の顔を見れない。怖い。ヤバい。逃げたい。お家帰りたい。あ、ここ俺の家だった。
一何が始まるんです? と俺がびくびくとしていると文は『ドンッ!』と機を叩いてびだした。ちなみに俺はその音にびびって「ひぃっ!」と小さくんだ。
「何で! 何でそんなこと言うの! 私はこんなにお兄ちゃんのことをしてるのに! 昔からお兄ちゃんのこと好きだったのに! してるのに! 結婚したいのに! お兄ちゃんのこと大好きでお兄ちゃんの臭いが大好きで全部全部大好きで! 兄妹とかそんなの関係無いのに! 何でなの! お兄ちゃんのことなら何でも知ってる! お兄ちゃんの部屋に何があるのかも! お兄ちゃんの部屋の臭いがどんな臭いなのかも!」
おいコイツとんでもねえこと言い出したぞ。
「待って、文待って。お前前に俺の部屋臭いとか言ったじゃん。アレなんなの」
「だっておにいちゃんのゴミ箱にティッシュが一杯………」
「オーケーわかったやめてくれ」
やめてくれ文、その話題は俺に効く。でもやめてくれない文。
「あんなに一杯出して、私に言ってくれればどんなことだってしてあげたのに。お兄ちゃんが無駄なことをしてるから怒ったんだよ! わかってよ!」
わかるかボケ。
「お兄ちゃん、私がどれだけお兄ちゃんのことをしてるか教えてあげようか? お兄ちゃんが居ない時にお兄ちゃんの部屋の臭いを嗅ぐのはもちろんしてるよ? お兄ちゃんのものに私の臭いを付けたり、お兄ちゃんに変な蟲が付かないように気を付けたり、お兄ちゃんが知らない時に私頑張ってたんだよ?」
お前の部屋、俺の部屋の近く通らなくても行けるのに、何で俺の部屋臭いとか言ったのかあの時わかんなかったけどそういうことだったのかー、とか軽く現実逃避を行う。
コイツフェロモンの影響とか関係なくヤバい奴じゃん。上手いこと貓を被ってた………、いや、この場合好意を見せなかったわけだから虎を被っていたとでも言うことか。
「今日だってお兄ちゃんがカバンを學校に忘れてたって聞いて凄く悲しかったんだよ? あのカバンにはね、私が作ったお守りをれてたんだよ? 告白けちゃったのってお守りの効果から逃げちゃったからかな? その野菜ジュースだってね、栄養が足りないのだってわかってるから栄養を足してるんだよ? お兄ちゃんのために、お兄ちゃんのことを考えながら私のをれてるんだよ?」
………OH MY GOD !
【書籍化決定!】家で無能と言われ続けた俺ですが、世界的には超有能だったようです
俺には五人の姉がいる。一人は信仰を集める聖女、一人は一騎當千の女騎士、一人は真理を求める賢者、一人は人々の魂震わす蕓術家、一人は國をも動かす大商人。才知に優れ美貌にも恵まれた彼女たちは、誰からも愛される存在だったのだが――俺にだけ見せるその本性は最悪だった。無能な弟として、毎日のように姉たちから罵詈雑言の嵐を受け続けてきた俺。だがある日、とうとう我慢の限界を迎えてしまう。 「とにかく、俺はこの家を出るから。もう決めたんだ」 こうして家を出た俺は、辺境の都市で冒険者となった。こうして始めた新生活で気づく。あれ、俺ってもしかして超有能……!? 実力を評価され、どんどん出世を重ねていく俺。無能と呼ばれ続けた男の逆転劇が、いま始まった! ※GA文庫様より書籍化が決定、1~5巻まで発売中!
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