《量産型ヤンデレが量産されました》軽食

「お邪魔しまーす」

ガチャリ、と榛名が俺の部屋の扉を開ける。男子高校生としては本來「親が居ない時に彼が部屋に來るなんて!」と期待に心臓バックバクになるのだろうが、今の俺は「親が居ない時に彼が部屋に來てしまうなんて!」と不安と恐怖で心臓バックバク。果たしてどのような事態がこれから発生してしまうのか………。と思いながら榛名に続いて部屋にる俺。

田中と妹がこちらを見る。俺と榛名が手を繋いでいることに対してさして揺している様子が無い妹、反対に顔がサッと青くなった田中。

「あ、ああ、雄太、さっさと続きやろうぜ。

今度はちょっと手加減してやるからさ」

ゲームやるためには榛名の手を放す必要があるからね、君がそう言ってくることは予想してたよ。でも榛名がそれを許すとは思えないのだよ。

「ゲームもいいけど、ちょっと休憩してケーキ食べない?

早く食べないと駄目になっちゃうのもあるから、早く食べた方がいいと思うの」

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「あ、じゃあ私下から如月お姉ちゃんの分の飲みと包丁持ってくるね」

「ホールケーキは買ってきてないから包丁はいらないよ~」

「そうなの?

わかった」

流れるようにケーキを食べる方向に持っていく二人。そこに俺と田中の意見は存在しない。そして妹の顔が若干黒いに見えたのは気のせいでは無いはず。隙あらば誰かを刺そうとか考えてたに違いない。怖い。榛名に促されて左手に持っているケーキを機に置き、機の前に二人で座る。榛名は距離が近いとかそんなレベルじゃなくて最早しなだれかかってきている。

妹と違い顔を真っ青にしている田中も既に出來上がった流れには逆らえず俺を挾んで榛名と反対側に座る。流石にしなだれかかることには躊躇するのか、せめてもの抵抗として俺の左手を握る。そして圧力が増す右手。潰れそう。

「痛い痛い痛い痛い榛名さん痛い痛い痛い!」

「む、雄太くんが痛がらせるなんてひどい。

田中君、早く雄太くんの手を放してください」

「え、いやどう見ても痛がらせてるのは僕じゃなくて如月さん―――」

「雄太くん、そうなの?」

更に圧力が増す右手。人ってこんなに凄い握力が出せるんだね。

「があああああああ!!!!

ちがいますううううううう!!!!

田中が手を握ってるから痛いんですうううううう!!!!

だから手を放してくださいいいいいいいい!!!!」

俺の必死の思いを乗せたびを聞いた田中が泣き顔になりながら手を放してくれた。それと同時に右手の圧力が減る。放してはくれないけど。

「あの、雄太の右手を握ったままだと雄太が食べにくいと思うんだけど………」

「大丈夫だよ、『私が』あーんして食べさせてあげるから」

俺の手を握ることは出來ないと考えたのか榛名に手を放すよう促す田中。しかしその程度の抵抗は無意味とばかりにバッサリと斷る榛名。やはりそこに俺の意志は存在しない。

そんなやりとりをしていると妹が部屋へと戻ってくる。手には飲みれたコップがあり、榛名の前に置き元々機の上にあった飲みを他の他3人の前に配ってから俺の対面に座る。

そしてふと気づく。妹と飲み、この組み合わせから思い浮かぶ一つの答え。こいつ俺の飲みを仕込んでいるに違いねえ!よし、榛名のを飲もう。

そう考えた俺が榛名の前にある飲みを奪い取って一気に飲み干す。「てめえの思には乗らねえぜ!」とばかりに妹の方を見るとヤツはニヤリと笑った。ハ、ハメられた!こっちがヤツの本命だったか!

「もう、お兄ちゃんったら、そっちは榛名さんのだよ?

そんなに用意したばかりのが飲みたかったのならいくらでも・・・・・用意したのに」

すげえ恍惚とした顔で俺に語り掛ける妹。くそっ、畜生、別にお前のった飲みを飲みたかったわけじゃねえ!むしろ逆だコノヤロウ!あと隣の田中が真っ青を通り越して真っ白な顔になってる。ヤバい。そんな田中を無視して皆にケーキを配る榛名。

「それじゃ、食べよっか。

はい雄太くん、あーん」

早速とばかりに俺のケーキを俺に食べさせようとする榛名。他二人からの視線が怖い。でも現在榛名には人質・・を取られているため逆らえない。大人しく食べる。

「あーん」

「にゅふう、このケーキ一番人気のケーキなんだよ~。

さ、今度は私のも食べて。

はいあーん」

「お、俺のも食べていいぞ雄太!

はいあーん!」

「お兄ちゃん!

私のも食べていいよ!

あーん!」

「もー、いくら雄太くんでもそんな一杯食べられないよ~。

それに私は結構このお店のケーキ食べてるけど、二人は多分食べたことないでしょ?

二人は自分のをちゃんと食べてしいな。

雄太くんもそう思うでしょ?」

ゆったりとにぎにぎされていた右手の圧力が増し始める。

「あ、ああ!

俺もそう思うな!

遠慮せずにちゃんと食べてくれ!」

俺は今、調教されている。躾のなっていない愚かな犬を躾けるかの如く、彼に躾という名の調教をされているんだ。言うことを聞かなければ右手がお亡くなりになり、言うことを聞けば右手が延命できる。非常に単純だけど効果は抜群。言うことを聞いたご褒に餌ケーキを貰えるけど味なんてわからない。

こうして心ともにダメージを(主に右手に)けつつ放課後を過ごし、そろそろお開きになって解放されるかなと思った頃、自分の考えがまだ甘かったことを思い知ることになった。

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