《リーンカーネーション 小學生に戻ったおれ》壯行試合

キン!!

痛烈なナイナーはショートよりやや右側を鋭く抜けて誰もいない左中間へ転がっていった。

俺の予想通り、矢部っちは角高めに投げてきたのだ。投げた瞬間、足をもと通りにして、フルスイング!!打った瞬間、やったとんでしまったほど、正反対に矢部っちは口を大きく開けてマウンドに呆然と立ち盡くしていた。左中間に転がっていったボールは転々と転がり、俺がサードを回ったころにようやくセンターが捕り抑えることが出來たくらいで、余裕でホームインが出來た。もちろん、子達が喜んだのは言うまでもない。

こうして、再び2點差で迎えた最終6回裏、これを抑えると子チームの勝ちとなるのだが、流石にそうはならなかった。まず、橋本さんがランニングホームランを打ったのだった。これは仕方がない。ソロホームランだったことが良かったと思うべきだろう。差は1點しかない。マウンド上にナインが集まった。するとみんな俺の方を見ていた。

「俺?」

黙って頷く子達。

「今田さんは?」

すると

「さっき投げたからコーチがダメだって」

「みんなピッチャーやったことないし」

「俺もそうだけど・・」

「佐藤君しかいないの」

すると箭さんが俺の耳もとで

「後で何でも言うこと聞くから」

そして、俺にボールを手渡した。こうして、今田さんから審判に

「ピッチャー代、ピッチャーは佐藤、箭はライト」

と言うとキャッチャーの森さんを除いたナインは、守備位置へ戻っていった。

「へいへい!!男(おとこおんな)がピッチャーか?」

「ライパリ渉(わたる)のボールなんて目を瞑ってでも打てる!!」

男子チームからヤジが飛んできた。すると森さんが

「気にしないで」

ミットで口を隠して話をしてきた。

「私、ちゃんととるから」

「わかった、サインなんだけど、グーと指1本順で出してくれる?」

「どういうこと?」

「グーは、これから練習で投げる普通のボール、指1本は、山なりのボール、これは1球目に投げるから」

「そんなボール捕れないよ」

「山なりの遅いボールだから心配しないで」

「わかった」

こうして、森さんが戻ろうとした瞬間、パンとおを叩いた。

「きゃっ!!」

を抑えて振り返る森さんに俺が聲をかけた

「頼んだよ」

「わかったわ」

こうして、俺が練習投球を終えるとプレーが再開となった。ノーアウト、ランナーなし、バッターは1番の外やんからだ。俺のボールを見て打ちごろと思っているのか顔がにやけている。

第1球目、森さんへの予告通り超山なりのボールを投げた。そのボールを見た外やんは呆然と見送った。多分、ボールだと思ったんだろう。そのボールに驚いた森さんは一度立とうとしてボールにあわせる様に座って捕球をした。運命の一瞬

「ストライク!!」

審判の聲に俺も安心した。その聲に驚いた男子たちは

「ボールだ!!」

んでいたが判定は覆らず、2球目、外やんは戸った表をしている。そして、森さんの指一本のサインに頷いた。

2球目、再び超山なりのボール

「くそっ!!」

外やんはタイミングが合わないで空振りをした。こうして、3球目も同じ球で三振を奪ってワンアウト。続く2番も同じボールで三振、そして、最後のバッターは三番の矢部っちだった。

「そんな球、ホームランにしてやる!!」

1球目、再び超山なりのボール

「くぁ!!」

空振りをする矢部っち

「矢部っち、ボールは遅いぞ!!落ち著いてボールをよく見て當てろ!!」

絹やんの聲が飛んできた。矢部っちはネクストバッターサークルにいる絹やんに視線を送ると軽く頷いた。

2球目、再び超山なりのボール

「くぁ!!」

キン!!

「ファール!!」

矢部っちは辛うじてバットに當ててファールにした。

「落ち著け!!」

「當たる當たる!!」

その聲を聞いた矢部っちはバットを短くした。俺はそれを見逃さなかった。こうして、森さんのサインがグーになった時に頷いた。

3球目、普通のボール

「え?・・・くそっ!!」

慌ててバットを振ったが振り遅れて矢部っちは、あえなく三振をしたのだった。そして、俺をバットでさして、

「汚ねえぞ!!」

そうんだのだった。

「ゲームセット!!3対2で子チームの勝ち」

審判のコールで試合は幕を閉じたのだった。そして、恨めしそうに俺を見ている矢部っちは、今にも泣きそうな顔をしていた。

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