《異世界イクメン~川に落ちた俺が、異世界で子育てします~》剣を買う第9話

常識を捨て、本能にを任せる。

そのコツを摑んだ俺の長は、我ながら目を見張るがあった。

「これが、魔法……」

俺の掌で躍る小さな炎。

炎というのもおこがましい小さな燈火だが、火である事には違いあるまい。

不思議な覚だ。

りまくった下敷きを頭にかざし、靜電気で髪のを逆立てるアレ。

アレの際に頭皮にじる違和が、掌にある。

若干の熱もじるのだが、熱くは無い。

……まぁ、自分が出した火で火傷なんてしたら、無様にも程がある。

「……やっと……魔力の現化……屬付加の基礎……出來たね……」

「ああ……本當に長かった……」

「あだい」

「その程度で何を泣く程しているのだ」

「シング……お前にはわかんねぇよ」

シルビアさんに魔法を習い始め苦節約1ヶ月、俺はようやく魔法を使えたのだ。

この小さな燈火をひり出すまでに俺の意識が何回飛んだ事か。

まぁ、修行と関係無い要因で気絶した事も多かった気がするが、記憶に殘ってないから無かった事にしておこう。

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無理に思い出す事はないさ、と俺の記憶を管理する脳の俺が言っているし。

「……何事も……基本は、気合……」

「そうみたいだな」

「まぁ何にせよ、サーガ様のお世話役が魔法の1つも使えないんじゃ話にならんからな。進しろよ」

「だう!」

「…………」

相変わらず、この魔人共の中で俺は世話役というポジションらしい。

一応サーガの世話は慣れてきたし、たまに癒される事もあるのできちんとやってはいるが、世話役になったとは絶対に認めんぞ俺は。

「よし、何はともあれ魔法の方も一歩前し…」

喜びかけた時、俺の意識は一瞬だけ、燈火から離れた。

「どわっ!?」

途端に掌の燈火は制れ、一瞬アホみたいな豪炎と化し、虛空へ霧散した。

俺の魔力が、炎へと流れ込み過ぎたせいだ。

風船に空気をれ過ぎると側から弾けるのと一緒だ。

「…………」

「やっぱり……魔力が多いと……維持するのに、集中力必要……みたい」

「今のは軽かったからいいが、下手に暴発すると危ないでは無いか」

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「あだい」

「……気をつけます」

……半歩前進、という事にしておこう。

「……そうだ……ロマン……ちょっとお使い……頼んでいい……?」

「ん? ああ」

シルビアさんの個人的なお使いを引きけるのは初めてでは無い。

……まぁ世間一般でいうお使いよりも、いわゆるパシリに近いだが。

シルビアさんはチラシを取り出すと、

「……この……マンドレイク薬を……」

「また怪しげなを……」

渡された黒地のチラシには、人型の大みたいな植が描かれている。

その傍に並ぶ煽り文は「新製法により、従來の5倍の催効果が!?」とか書かれている。

……何に使う気だ。

まぁいい、人の趣味趣向に口は出すまい。

「あう」

「あぁ?」

何か、サーガが「出かけるなら連れてけ」的な事を言っている気がする。

まぁ行きたいというのなら、連れってってやりたいのは山々、なのだが……

「なっ、サーガ様、町は危険ですよ」

そう、シングの言う通り。こいつは一応魔王の息子。

生命を狙われる理由はごまんと在るのだ。

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「あいあ」

「……そうですか、ならば、當然アタシも付いていきます」

「説得諦めんの早ぇよ」

もうちょい頑張れよお世話役。

「サーガ様は貴様とお出かけする事を切している……危機が迫れば、アタシが生きた盾となれば良いのだろう」

「その決死の覚悟を説得に活かす気はないのか……」

「……まぁ、……大丈夫、じゃない……サーガちゃんの事、…公にはなってない……みたいだし……」

確かに、不思議な事にサーガの存在は未だ世間には知られていない。

でも、だからと言ってそんな気軽に連れて歩いていいものか……?

「あぶぅ」

「連れてかないと、久々に夜泣きしちゃうぞ。今夜は寢かさないぜ☆、と仰られているぞ」

「この野郎……」

本當、困った奴だ。

「準備オッケーだな」

「あぶぉ!」

「完璧だ! どんと來い!」

外出用に帽子で角を隠し、尾も服のに収めたシングとサーガ。

町には普通に魔人もいるそうなので、尾や角を気にする必要は無い、とシルビアさんは言っていた。

が、どうしても念には念をれておきたい、そうだ。

まぁ本人がむなら好きにさせよう。

サーガを抱き、買い袋をシングに預け、俺は家の戸を開けた。

「ん?」

牧場には、大量の羊達に散歩をさせているゴウトさんとセレナがいた。

セレナは羊を椅子にして読書しているだけ、にも見えるが。

「お前ら出かけるのか?」

「ああ、ちょっとシルビアさんのお使いに」

「……あ、そうだ、丁度良い。ロマン、ちょっとUターンして、俺の財布から金取ってけ」

「……? 何かお使いか?」

「お前も、そろそろモノホンの剣…しくないか?」

「え…いいのか!?」

真剣が與えられるのは、もうちょい実力が付いてから、とばかり思っていた。

「木刀と真剣は勝手が違う。早いに買っといて、振り慣れとくのも良いだろう?」

「お、おう、ありがとう! で、いくら持ってけば良いんだ?」

「お前のA級冒険者手形の割引があれば、1000Cコルトで充分良いのが買えるはずだ」

「安っ!?」

Cというのはこの世界の通貨だ。

日本円に例えるのは難しいが、市場でのりんご1個の相場は大100C前後だった。

つまり、A級冒険者はりんご10個分のお値段で剣1本買えるという事だ。

おそるべし、冒険者への優遇措置……

小さく、古臭い。そんな一軒の武屋。

店の名は『アメイジング・ミーツ』。

シルビアさんのお使いで向かった薬局の店員にオススメの武屋を聞いた所、ここを紹介された。

「なんつぅか……レトロだな……」

まぁ俺のいた世界に比べると、どの建も大分レトロなじだが。レンガ造りが主で、次いで木製が多い。建築技はやや進歩が遅れている様だ。テレビとかはある癖に……

「掘り出しというのは大抵こういう所にあるものだぞ」

「だう」

いや、別に逸品を掘り出しに來たワケじゃないんだが。

それなりに良い剣であればそれで良い。

俺は職業:戦士だの剣士だのになるつもりは頭無い。

だって危険では無いか。

は萬が一の護用。

俺は主に魔法を使ってそこそこ安全に立ち回るスタイルで行きたいのだ。

……今の所、カナヅチが水泳選手になりたいと言っている様な狀態だが。

とにかく、そういう訳なので、「100人斬っても大丈夫」とかいうイナバチックな凄まじい良品は要らない。

こう「それなりに手れしていれば、無茶しない限り何年も使い古せます」とか、そういう控えめな売りの奴で良いのだ。

「さてと…お邪魔しまーす……」

片手抱きでサーガを抱えながら、俺は店のドアを開け…

「ふざけないでよ!」

何だ、俺達は店しただけだぞ……と思ったが、どうやら俺達に向けられた言葉では無い様だ。

は、外観を裏切らない古臭さ。

20畳分も無いかな、くらいの空間。

その壁にはまばらに斧や剣の類が飾られているが……

「おお、懐かしいな! 魔王城の近くでも売られていたぞ」

「だぶ」

「魔王城とかうっかり口にしてんじゃねぇよ……」

「はうあっ」

シングが手に取っていたのは、簡素な包裝のキャンディ。

何か明らかに「ポイズンですよ」と主張するドクロマークがプリントされているのは気のせいか。

そう、この店、壁にかけられた武よりも、棚に並ぶ駄菓子類の方がラインナップが充実しているのだ。

で、さっきの騒な大聲の原因は何だろうか。

聲のした方向は、レジカウンター。

そこにはやたら出の多い服……というか、と腰から太にかけてしか隠せていないナイスな

そのとカウンターを挾んで向かい合うのは、この店の店主らしい魔人の男。

白髪と白い髭から見て絶対に若くは無い。角も片方折れてしまっている。

「なんじゃい。大聲出さんでも聞こえるぞい、癡のねーちゃん」

「私は癡じゃない! この格好は、出してると野郎どもの視線が集まるから、それが楽しいだけよ!」

じゃねぇか。

なんだあの心躍る素敵なお姉さんは。

「って、話はそこじゃないのよ! なんなのよこの剣! こんな気味悪いの、いらないわ! 返品よ返品!」

「ねーちゃんよ、これ昨日買ってったばかりじゃないか。即日破局ってのは、いくら武相手とは言え可哀想じゃあないかい?」

「冗談じゃない!」

「仕方無いのう」

店主は「やれやれ」と言ったじでレジから金を取り出し、の方へ。

「もうこんな店、二度と來ないから!」

はプンスカ怒りながら金をけ取ると、俺達の橫をさっさとすり抜け出て行ってしまった。

「何なんだ、今のは」

「俺に聞かれてもな……」

「お、珍しいのう、1日に2組も客が來るなんて」

店主らしい老魔人が俺達に気付き、店の不況っぷりが伺える発言をする。

……薬局の店員さん、何でこんな店を勧めて來たんだ……

「ところでお客さん、武をお探しなら、この剣とかどうじゃ」

「……今のやり取り見てて、買う訳ねぇだろ」

老魔人が手に取ったのは、先程の癡さんが返品してったらしい、カウンターに置かれていた剣だ。

漆黒の柄と鞘を包む様に、植の蔓をイメージした様な金の裝飾が走っている。

「カッコイイぞ、これは」

店主は見せつける様にその刀を抜く。

すると、中二病を刺激する漆黒の刀の両刃の剣が現れた。

なんつぅか、暗黒騎士とか、魔王とかが好んで使いそうな印象だ。

その印象は間違いでは無かったらしく、「あぶっし!」とサーガのテンションが上がりである。

……いや、でもあれ問題あるっぽいぞ。

だってさっきの癡、相當頭にキテたっぽいし。

「サーガ様がお気に召したぞ! あれで決まりだな!」

「ふざけんな」

「なぜだ?」

「そうじゃぞ。今なら10萬Cの所を5Cで売ってやるわい」

「おい凄まじい値下げだぞ! 買うしか無いんじゃないか!?」

「だう!」

「その値下げ幅がものすごく不安を駆り立てるんだよ……」

一気に値段が2萬分の1になるとか、曰くつきどころか確実に何人か死んだレベルの呪いかかってるだろう。

「絶対にあれだけは買わん」

「でう! あやう!」

「お前があれで颯爽と闘う姿が見たい、と言っておられるぞ」

「って言われてもな……」

確かにデザインはカッコイイっちゃカッコイイのだが……

「じゃあもういい。タダでやるからもってけ」

「本當かご主人!」

「いやいやいや! 今ので確信した! それ持ってるだけで危ない系の代だ!」

じゃなきゃ武商人がタダで人に剣をやるなんてあり得るか。

「大丈夫じゃて。たまにちょっと奇聲を発するくらいで、害は無いぞ」

「奇聲を発する時點で害の匂いがプンプンするんですが!?」

とか何とか言ってたら、件の黒い剣から「クキキキキキ……」という不快な笑い聲が……

「夜は寢室に持ち込まない様にな、寢首を……いや何でも無い。ほれ」

「いらねぇぇぇぇぇ!」

「なぜだ、タダでくれるというのだから、もらっておいて損は無いだろう」

「いや、絶対そいつ災厄とか運んでくる系だって! っていうかサラッと言いかけてたが持ち主の寢首をかく可能あるっぽいぞ!?」

「いいからいいから」

剣を鞘に収め、店主はなんと、それをポイッと放った。

「なっ!?」

手元に飛んできたそれを、俺は思わず空いている片手でキャッチしてしまう。

次の瞬間。

「……ん?」

何か今、一瞬、違和があった。

こう、この剣の接部分から、何かを吸い上げられた様な……

「……ほう、俺っち全開の魔力ドレインをけても、平然としてるたぁ大したタマだ」

「……!?」

どこからか聞こえた、不思議な聲。

……気のせいだろうか、今、俺の手に握られている剣が、喋った様な……

「気にったぜ。俺っちを持っていけ、クソガキ」

気のせいじゃ、無いっぽい。

「おお、喋る剣か。魔剣の類だな。珍しい」

「あう」

「なっ! おいチビっ子! 俺っちに気安くんな! おいクソガキ! こいつどうにかしろ!」

「……いや、待て、々理解が追いつかない」

魔剣……魔剣って、あれか?

妖刀、的な……

「おお、『コクトウ』がそれだけ元気になるとは……お前さん、相當の魔力を持ってる様じゃの」

「お、おい…これ、一なんなんだよ……?」

「『これ』たぁ何だクソガキ! 俺っちは泣く子もショック死する天下の魔剣『コクトウ』さ…やめろってばチビっ子! あ、そこっちゃや…あっ――」

「あいー、あう!」

右手には魔王の息子、左手には喋る魔剣。

……何だろう、俺は今、一どういう狀況に置かれているんだろう。

冷靜に考えてみても、よくわからない。

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