《異世界イクメン~川に落ちた俺が、異世界で子育てします~》★エンカウントする第10話
……何の真似だ。
まだ俺は、貴様に一撃すられていないはずだ。
なのに何故、地に膝を著く?
――――!
…………そうか。
……フン……羨ましい、だな。
俺も、貴様の様な父がいれば……違ったのかも知れんな。
……いいだろう。
その『頼み』、確かにこのに留めておこう。
……『約束』だ。
安心しろ。
確かに俺は道端のクソにも劣る人生を歩んでいた時期もあった。
だが、……いや、『だからこそ』、この約束は破るまい。
破れる訳が無い。
「……夢か」
らしくないものだ、と中年は欠を噛み殺す。
プライベートでも余り気は抜かない主義なのだが、知り合いのラーメン屋のカウンターでいつの間にか眠ってしまっていた。
小鳥の囀りが聞こえる。朝だ。
「……あと數分で読み取れるから……という話はどうなったのだ」
數日前、中年はここの店主にある依頼をしていた。
知り合いである店主は「もう、今日中には絞り込めると思うから、ウチでラーメンでも食いながら待ってなさい」と中年を呼びつけ……
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この現狀である。
店主の姿は無い。
おそらく奧の部屋で水晶玉とにらめっこでもしているのだろう、と中年は予想を立てる。
しが渇いた。水を飲もう、そう手をばした時、カウンターの奧から店主が現れた。
「おまたー! いやぁ、水晶の調子が急に悪くなっちゃってさー! 安は參っちゃうよね!」
「……貴様の稼ぎなら、いくらでも良い水晶が買えるはずだろう」
「正直あんなんにあんま金かけたくないのよねー」
「あんなん、か……貴様の生命線とも言える商売道では……」
「道は所詮道よ。はい、これ。お依頼の『息子さん』の居場所と、ここ數日分の『行予知』」
そう言って、店主は中年に2枚の折りたたまれたメモ用紙を渡した。
「謝する」
「……でさ、ぶっちゃけ、『魔王の息子』なんて探して、どうすんの?」
「…………」
「っていうか、探すくらいなら何で逃がした訳?」
逃がした、事については話していないはずだが。
どうやらついでに『占った』らしい。
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……なら事までまとめて見とけよ、とも思う中年だが、この店主の効率の悪さが天の才能なのは知っている。
「前にも言っただろう。『約束』だ」
丁度良いから借りるぞ、そう言って中年は壁にかけられていたバー時代の殘骸達から、鉄パイプを1本だけ取り上げる。
「……しばらく泳がせて、場合によっては『始末する』。そういう『約束』だ」
夕暮れの閑散とした街の中。
俺はサーガを抱き、シングと共に歩いていた。
「へぇ、魔王の息子ねぇ。大したモンじゃねぇか」
「だい!」
「そうだ! サーガ様は大したモノだ。よくわかっているな魔剣」
「…………」
サーガとシングは、何の違和もありませんよと言うじで、俺のベルトから吊るされた魔剣と會話する。
この漆黒の魔剣、名をコクトウと言うらしい。
コクトウには、定期的に「持ち主から大量の魔力を吸収する」習があるそうだ。
俺は平気だったが、常人に取ってそれは生命に関わる程の吸収量らしい。
だからあの癡さんもお怒りだったのだろう。
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結局、俺はあの後、武屋の店主に無理矢理これを押し付けられてしまった。
せめて他にまともな剣を買って帰りたかったのだが……
シングが「剣は1本あれば充分だ」とどっかの海賊狩りの人に喧嘩売る様な発言をして、帰宅を提案してきた。
理由は簡単。
そろそろ夕食時。
サーガが空腹を訴える前に家へ帰りつこうという事なのだろう。
本當、サーガに対しては々気が回りやがる。
それにコクトウも「俺っち以外の剣なんぞ買ってみろ! お前ごとその剣ぶった斬るからな!」とか言い出したので、もう俺は観念する事にした。
「ところで魔剣よ。魔剣であるからには、何かしら能力があるのだろう?」
「おうよ」
「そうなのか?」
「ああ。喋るだけなら奇怪な剣で終わりだろう。魔剣には魔剣と呼ばれるなりの理由があるだ」
「へぇ」
それは良い。
うるさいだけの剣を押し付けられたと落膽していたが、
もしこいつが「斬撃を飛ばす」とかバトル漫畫に有りがちでも強力かつシンプルな能力を持っていれば、俺が冒険に出る際に大きな助けに……
「俺っちは、『持ち主の能力やら強度を數倍に跳ね上げる』能力があるのさ」
「……そっち系はいらないんだよ……」
強度やら筋力は事足りてる。
これ以上強化するってなんだ、完全に戦士or剣士ルートじゃないか。
モンスターとガチンコ弾戦で生命を削り合うなんて免だぞ俺は。
……まぁ、いざという時の生存率は上がるからいいや、と前向きに捉えよう。
どうやら、俺はまだまだ魔法について必死に學ばなければならない様だ。
「……ん?」
急に、シングが立ち止まった。
「おい? どうし…」
「久しぶりだな」
その聲は、前方。
ガタイの良い、ハンサムな中年。
その手には1本の鉄パイプ。
久しぶりだな、と言われても、俺はこのおっさんに面識など無い。
という事はシングの知り合いか?
でもこのおっさん、人間だぞ。
つい先日まで人間を嫌いし避けていたシングに、人間の知り合いがいるとは思えないのだが。
あれ、というかこのおっさん……どっかで見た事ある気がする。
し記憶を辿ってみる。
そして、思い出した。
「ゲオル・J・ギウス……!?」
そうだ、このおっさん、テレビで見たんだ。
魔王を討った冒険者チームのリーダー、ゲオル・J・ギウス。
間違いない。
「あい?」
誰あいつ、と言いたげなサーガ。
どうやらサーガは、ゲオルが自分の父の仇だという事を知らないらしい。
「っ……走るぞロマン!」
「え、えぇえっ!?」
シングは俺の手を引き、ゲオルと反対方向に走り出す。
まぁ確かに、魔王を討った奴に魔王の息子を抱えて接、というのはヤバそうだ。
あれ? でもあいつってサーガを見逃してくれたって話じゃ……
しばらく走り、俺とシングは予定していた道とは別の道から森へとった。
この森をしばらく歩けば牧場に帰れる。
「っ……何故、奴がこんな所に……!」
「つぅか、あのおっさんって……サーガの事見逃してくれたんじゃねぇの……?」
なら何故逃げる必要があるんだ。
偶然でくわしてしまっただけで、別にこっちに戦意があると決まった訳では無いだろう。
……まぁ鉄パイプ持ってたけど。
でも、一流の冒険者が鉄パイプを武にするなんて考えにくい。
あれは別の事で所持していただけ、では無いのか?
「あいつがアタシとサーガ様を逃がしたのは、あの場の気まぐれだった可能がある。避けて損は無い」
避けて損は無いって……し可哀想な気もする。
まぁでもシングに取ってゲオルは、敬すべき君主の仇。
そして、毆りかかる事すら許されない実力差がある。
避けたくなる気持ちもわからないでは無い。
「……おいクソガキ共。どうやら向こうさん、殺る気みたいだぞ」
「え?」
コクトウの聲の直後、信じられない景を見た。
俺達の目の前に、いつの間にか、立っていたのだ。
あの、鉄パイプを持った中年が。
「!?」
「殘念だが、俺は足が疾い。逃げきれるなどと思うな」
反的に、俺は後方へと跳ね退いてゲオルから距離を取る。
「人気の無い所まで導する手間が省けて、助かったぞ。……さて、そちらから聞かれる前に、用件を伝えておこう」
スっと鉄パイプを構えるゲオル。
まるで、剣か何かを扱う様な構えだ。
「その魔王の息子、始末させてもらう」
「……なっ……!?」
「嫌なら、守ってみろ」
「當然だ!」
シングが構えた両手がる。
魔法だ。
しかし、
「言ったはずだ。俺は疾いと」
シングが、吹っ飛ばされた。
比喩抜きの一瞬で間合いを詰めた、ゲオルの肘鉄で。
「……え?」
シングは大木に背を打ち付け、かない。
気を失ってしまったらしい。
「さて、貴様は隨分と悠長だが、いいのか?」
聲は、俺のすぐ後ろから聞こえた。
気付けば、そこにゲオルが立っていた。
「っ……!?」
何なんだこいつは、さっきから消えたり現れたり。
本當に人間か。
とにかく距離を取ろうとしたが、間に合わなかった。
衝撃が、俺のを貫く。
ただのパンチだ。
なのに、俺は心臓が一瞬止まる程にダメージをけた。
筋の繊維が千切れる様な音。
骨が砕け散ったのではないかと思える程の衝撃。
そのまま、俺のが後方へと薙ぎ払われた。
「がっ……ぁっ…!?」
「あぶい!?」
「うおぉう!? 大丈夫かクソガキ、チビっ子!?」
大丈夫な訳あるか。
そうコクトウに言い返してやりたかったが、ダメだ。
聲が出ない。
が痛い。いや、正直痛みそのものは大した事ない。
常人なら即ショック死クラスの痛みかも知れないが、俺はそういうのには慣れてる。
……どっかのお姉さんの『拡張』のおかげで。
それに、今日の晝、ゴウトさんの全力の突きが鳩尾にクリーンヒットした時の方が痛かった。
ただ、呼吸がおかしい。心臓のき方が普段と違うのが自分でもわかる。
り所が非常に悪かった様だ。
……いや、そういう急所ツボを、狙ったのか。
何はともあれ、シャレになってない。
よくもまぁ意識が殘っているだ。
我ながら心してしまう。
しかし、ギリギリ保てているだけで、朦朧としている。
サーガを抱く手から力が抜け、ころん、とサーガが転がり落ちてしまう。
「だぶっ!? ……だぼん!」
痛ぇな! 何しやがる! と訴えている様だが、マジごめん、無理。
今だって俺は立ち上がろうとしてるんだ。
まぁそうは見えないだろう。
だって、傍から見れば今の俺は、もぞもぞと小さく足をかしているだけなのだから。
ダメだ。立てない。
全に力がらない。
呼吸すらまともにできない。
酸素が足りない。赤球が働きたくても働き様が無い。
……もう無理。
パンチ1発で、こんなダメージけるなんて聞いてない。
「……っぅ……」
ゲオルが近づいて來る足音が聞こえる。
ヤバい、殺される。
このままだと、多分全員殺される。
でも、どうすればいい?
薄れる意識の中で、そう考えた時だった。
「!」
急に、四肢に力が戻った。
意識も、安定する。
いつもの呼吸ができる。
の痛みも引いた。
「……世話が焼けるクソガキだぜ」
聞こえる、魔剣の聲。
「『イビルブースト』……俺っちの能力だ」
「……そういや、そんなんあるって…言ってたな!」
ありがとう、と心の中でつぶやき、俺は跳ねる様に立ち上がる。
そして、コクトウを鞘から引き抜いた。
「ほう、立てるか。元々の鍛え方も良い様だが……その剣の『力』が大きい様だな」
「良い見立てしてるじゃねぇか、クソジジィ」
「俺はまだ31だ。ジジィでは無い」
気にしているのか、コクトウの発言に対し、ゲオルは即座に訂正をれた。
まぁそんな事はどうでも良い。
「いいかクソガキ。今のお前は、ロクにかねぇを無理矢理かしてる狀態。活限界は10分ってとこだ。それ以上やると、全の筋がブッ千切れるぞ」
「時間制限付きかよ……!」
相手は魔王を倒す様な化人間。
魔法もロクに使えない俺が、魔剣1本でそいつに挑む。
しかも制限時間は10分。
無理ゲーなんてモンじゃないぞ。
「さて……足掻いてみせろ」
「っ……待てよ! あんた、サーガの事見逃したんだろ!? 何で今になって殺しにくんだよ!?」
「……答える必要がないな。さっきも言っただろう。嫌なら守ってみろ、と」
鉄パイプを構えたゲオルが、消え… !
「うらぁっ!」
「!」
右から毆り掛かってきたゲオルに向け、俺はコクトウを振るう。
両腕を使った全力のスイングだった。
真剣を容赦無く振るって大丈夫か、そんな事も考える余裕は無かった。
相手の生死にまで気が回らない、とにかくを護るための全力攻撃。
しかしゲオルは、それを片手で構えた鉄パイプでけ止めてみせた。
「……ほう、見えたか」
どうやら、コクトウの能力は神経系にも作用するらしい。
かろうじてだが、ゲオルのきを追う事ができた。
これならば、一方的にタコ毆りにされるという事は無い。
そう安堵すると同時に、俺は戦慄する。
このおっさん、マジだ。マジで足が疾いだけだ。
瞬間移魔法とか、そういうのを使ってんじゃねぇか、と思っていたが、違った。
本當に、ただ走って移しているだけ。
先程のパンチの威力といい……
「あんた、マジで人間かよ……!」
「さぁな。斷言はできん。親を知らないからな」
ゲオルが人間かどうか。
もうこの際それすらどうでもいい。
俺は、どうにかしてこいつに勝たなければいけない。
夕焼け空が藍へと移りゆく中。
俺はこの世界に來て初めて、『戦闘』に挑む。
相手は、ゲームで言えばラスボス級。
……ああ、俺、今日死ぬかも。
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