《異世界イクメン~川に落ちた俺が、異世界で子育てします~》ナンパされちゃう第15話

「へぇ、A級冒険者さんなの」

付にて、ナースに冒険者手形を見せると、心した様な言葉が返ってきた。

別に見せびらかしてる訳じゃない。

A級冒険者への特別待遇、診察代の割引をしてもらうためだ。

「はぁ、まぁ一応」

「でも……こう言っちゃ失禮かもだけど、何か雰囲気無いわね」

まぁそりゃそうだろうな。正攻法でA級認定された訳では無いし。

「この村には旅か何か? それとも『ヒートアッパーズ』にるために?」

「旅の途中ですけど……ヒートアッパーズ?」

「知らないの?」

割引価格の診察代を支払いながら、俺はナースから話を聞く。

ヒートアッパーズとは、この村を拠點とする『C級冒険者チーム』なんだそうだ。

C級、と言っても、そのリーダーは腕の立つA級冒険者で、『炎神えんじんのヒエン』なんて異名を取る程の方らしい。

何か明白に炎使い丸出しだなおい。

「A級冒険者が率いているのに、チームはC級なのか」

不意に、シングが口を挾んできた。まだ足元がおぼつかないじだが、大分マシになっている。

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最近まで魔王軍で暮らしていたシングは、俺と同じで冒険者制度には余り詳しく無い。

「チームランクは所屬者のランクの平均で決められますし」

「そうなんだ」

じゃあ、ゲオルの超S級チームってのは純正の化集団って事か。

「あら、あなたもチームについては詳しく無いの? もしかして、チームに所屬せずにA級に?」

コクりとうなづいて見せると「すごーい」と益々心される。

何かが痛い。

「普通はチームに所屬するモンなんすか?」

「ええ。チームに所屬して、経験と実力を付けて、そして単獨でダンジョンを攻略してランクを上げる、ってのが一般的じゃないかしら」

冒険者手形が発行されるのは単獨攻略時のみ。基本、チームというのは昇級目的では無く、安全に冒険するための手段。

なので、下級冒険者は大まずチームにり、実力を付けてからダンジョンの単獨攻略に乗り出すのが定石らしい。

全く知らなかった。

「ありがとうございます」

「どうも。あ、これボクにあげるねー」

「やぶぅ!」

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ナースから小児患者用らしい飴玉をけ取り、サーガが大喜びする。

「でも若いのに大変ね……頑張ってね。その子のためにも、円満な夫婦関係を維持するのよ」

「はい?」

「シングルはマザーでもファザーでも、親子共々辛いからね」

あー……何か、おそらくすごい勘違いされてるな。

……そうか。そう言えば考えた事も無かったが……

魔人のが連れで、魔人の赤ん坊抱いてんだから、そういう風に見られててもおかしくないのか。

「……まぁ、気を付けます」

訂正するのも面倒だし、もういいや。

「じゃ、これ」

「うす」

會計を終え、念のためという事で2日分の風邪薬とマスクももらった。

「さて、とりあえず宿を探すか」

療養させるにゃまずそれだろう。

確かさっき病院へ向かう途中にそれっぽいのが有ったはずだが……

「お、おいロマン、何か腹が……」

「はぁ? おい大丈夫かよ?」

まさか風邪から胃腸炎に発展したのか。

「いや、この覚は、ただ単に用を足したい時の腹痛だ……」

「……ああ」

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まぁ、座薬ってかケツに異突っ込むと浣腸に近い効果が現れる事もあるらしいし、それだろう。

しっかしこいつ、この病院に來てから乙的な何かがズタズタだなおい。

「すまないが、先に宿を取ってきてくれ……結構長期戦になりそうな気がする」

「長期戦ってお前な……まぁわかったよ。じゃ、宿取ったら迎えに來るから、先に終わってもここで待ってろよ」

「うむ」

「じゃ、行くか、サーガ、コクトウ」

「けっ」

「だう」

それはいいけど飴玉の包裝紙開けて、とサーガは飴玉を俺にパスしてきた。

包裝紙を開封しながら、俺は宿の方へと向かう事にする。

「今日は散々だ……だがまぁ、悪いは多方吐き出せた様だ」

不機嫌そうではあるの、それなりにスッキリした顔で、シングは病院から出てきた。

まだ若干頭がボーッとしてるし、足元もフラフラだが、大分調子が戻ってきている。

「……む……ロマンめ、まだ來てないのか」

シングは結構長きに渡る戦いを繰り広げたつもりだったのだが、ロマンはまだ迎えに來ていなかった。

どうしたか、とシングは考える。

宿に向かおうにも、ロマンがどの宿を目指したのかは定かでは無い。そもそもこの村の宿の分布をシングは知らない。

ロマンに運ばれている最中はもう本當限界が來てて、何を見てきたかなんて覚えちゃいないのだ。

まぁ村の中を練り歩く程度なら可能なくらいに回復している。

ロマンはここで待っていろと言っていたが……

「……いや、大人しくしておこう」

柄にも無く、シングはそう決斷を下した。

ロマンの注意を聞かずに風邪を引いてしまった事に、何か思う事があったのだろう。

しは奴の言う事も聞いてやるか、とシングは判斷した。

という訳で、病院の前で待つ事にしたのだが……

「あんれぇー、見ない顔だねぇ」

「この辺で魔人とか超レアじゃね。しかも人で良いしてらぁ」

「……何だ貴様らは」

何やらチャラチャラした若い男の2人組が、シングに聲を掛けてきた。

片方はドレッドヘアが特徴的で、もう片方は真っ赤なバンダナが印象深い。

「俺達? これ見てわかんね?」

スっとドレッドの方が自の首筋を指す。そこにあるのはファイヤーパターンのタトゥー。

よく見れば、バンダナの方の右手の甲にもお揃いのタトゥーがっている。

「わからんが」

察するに、そのタトゥーはただのファッションでは無く、何らかの証としての役割があるらしい。

「えぇー、疎いねぇお嬢さん」

「仕方ねぇなぁ。俺達ぁ闘魂燃える男前集団『ヒートアッパーズ』の者よ」

「まぁ男前集団って言っても、の子も何人かいるけどね」

「ああ、それならさっき聞いたぞ」

さっきのナースが言っていた、この村を拠點にしている冒険者チームだ。

「で、そのヒートアッパーカットが何の用だ?」

「微妙に間違ってるよお嬢さん……」

「チーム名じゃなくて何かの必殺技だな、それじゃ」

「何の用だと聞いているだろう」

「ああ、いやまぁ用とかじゃないんだけど、人さんだからちょっと聲かけようかと思ってね」

「まぁアレよ。いわゆるナンパって奴だよ」

「ナンパ?」

シングはその単語にしだけ聞いた覚えがあった。

確か、目的で男がり寄る行為の事だ。

「斷る。貴様らはどちらも好みでは無い」

「手厳しいねぇー」

「くぅ、だけどよぉ、1回斷られたくらいじゃあ引けねぇのが男ってモンよ」

「しつこい男はモテんぞ」

「本當に手厳しいねぇー」

「まぁ、そう言わずによぉ」

何だこいつら面倒くさいな、吹っ飛ばしてやろうか。

しかし、いくらなんでもしつこいナンパくらいで魔法ブッ放すのは不味いかと思い留まる。

さっさとロマンが來てくれれば、男連れだと思って撤退してくれそうななのだが……

「んお?」

「あい?」

ようやく宿を取り終え、病院へと戻ると、何かシングが2人組の男に絡まれていた。

見たじ、荒々しい雰囲気は無い。

ゆるーいナンパってじだ。

「まぁあいつ人っちゃ人だしな……」

格とか面が諸々アレだが、その辺はナンパで引っ掛ける際にはわからない事だから仕方無い。

とりあえず穏便に解決するためにも、ここは人同士を裝って切り抜けるのが良いだろう。

シングだって馬鹿じゃないし、適當に合わせてくれるはずだ。

「おーい、シング」

「おお、やっとか」

「ありゃー、男?」

「おいおい、ガキまでいやがるぜ」

特に芝居を打つまでも無く、2人組は々察して「シラケるわー」的なじに。

察しが良いな。っていうか絶対こいつら悪い奴らでは無いな。

「殘念だねー」

「ああ、ガキまでいるんじゃな」

帰ろ帰ろ、と去っていこうとした2人、だったのだが……

「しっかし、可気の無ぇ面のガキだな」

「サーガ様に何か文句あんのかコラ!」

「はぃんっ!?」

疾風の如く駆け抜けた、シングの衝撃魔法。

ドレッド男の腰へ、見事にクリーンヒット。

「シングさぁぁぁぁん!?」

「はうあっ、しまった……さっきからイライラしてたからつい……」

自分が風邪を引いたせいで々と旅に支障をきたしてしまった事に加えて座薬の件。

そしておそらく、こいつらのナンパもしつこかったんだろう。

今日1日、シングのストレス蓄積量は半端なでは無かったのはわかる。

それはわかるが、ちょっとサーガを貶されただけで衝撃魔法ブチ當てる事は無いだろう。

ああ、ドレッドの人がめっちゃ腰を抑えてうずくまってるよ。

「あ、あの、ウチの馬鹿がすんません」

サーガを可くないとか言いやがったこいつもこいつだが、明らかにやり過ぎである。

とりあえず駆け寄って聲をかけると、

「あ、い、いや、大丈夫って事よ……そら自分の子供貶されたらキレるよな……良い母親じゃねぇか。鑑って奴だな」

何その良い笑顔。

お前の方が數段良い奴だって絶対。

「それにこちらこそねー、君の連れにちょっかい出してた訳だしねー」

「悪かったな。よく見りゃこれはこれでのあるガキだ」

「ぶい?」

ドレッドはサーガにも優しく謝りながら、その頭を軽くでた。

本當にこの2人何なんだ。聖人か何かか。

「んじゃ、フラれた男はさっさと退くとしますか」

「それにしても、いい加減、彼しいねー」

「だな」

それだけ言って、2人組は本當に去って行ってしまった。

「…………何だろう、アタシは今、すごくが痛い」

「俺も正直驚いてるが……痛く反省しろこの野郎」

「あう?」

「ん? どうしたサーガ?」

「あいあ、うー」

「誰かに見られてた?」

サーガはそう言って、その小さな指をある方向へ向ける。

しかし、そこには人っ子1人いやしない。

「……? 気のせいなんじゃねぇの?」

「うー?」

おかしいなぁ? とサーガは首を傾げるが、いないモンはいない。

……もし、気のせいじゃなかったとしたら?

「誰かに……見張られてる……?」

「気にらないわ」

から、その人は自の親指の爪を噛む。

「あの、気にらないわ」

その大きく見開かれた瞳が捉えるのは、銀髪の魔人

連れには剣を攜えた人間の青年と、魔人の赤ん坊。

「気にらない……」

そう言いながら、その影はあるを取り出した。

白紙に複雑な図形、いわゆる魔法陣が刻まれただけの

それは、『通信魔法』と呼ばれる、遠くの者にメッセージを送る魔法の一種。

「……『リーダー』、聞いてください、今……」

「んじゃ、宿に行くぞ。もしまたあの2人に會ったら、ちゃんと謝れよ」

「ああ、當然だ」

宿へと向かい、俺達は歩き出す。

しかし、

「おっと……」

「あ、おい!」

シングのが、大きくフラついた。

サーガを抱いているため、俺は片手だけでそれを抱き止める。

「大丈夫かよ?」

「う、うむ……どうやら、魔法を使える程には回復していなかった様だ……」

本當、こいつ今日は良い所無ぇな……

「ったく……おぶってやるから……」

「ここかぁっ!」

「は?」

何か、溫度差のある荒々しい聲が響く。

若い男の聲だ。

直後、上空から違和じた。

クーラーの効いた部屋から野外に出た時の様な、急速な溫度の変化。

まるで、頭上からストーブをかざされた様な覚。

「なっ……!?」

見上げた瞬間、俺の視線とすれ違う様に、1本の剣が降って來た。

柄には朱の布を巻いており、刃は怪しく輝く紅。峰がある。日本刀に近い形狀だ。

その剣は俺達の目の前の地面に突き刺さる。

そして、その剣の上に、1人の青年が舞い降りた。

「テメェらだな。今さっき、ギールの野郎に手ぇ出したならず者ってのぁ!」

剣の柄先と鍔に足を掛け、その青年は腕を組み、堂々と立つ。

燃える炎の様な紅蓮の頭髪。その頬にはファイヤーパターンのタトゥー。年齢は俺と同い歳くらいか。鋭い八重歯が、どこか獣を思わせる。

「何、呆けてやがる」

いやいやいや、そら呆けるだろう。

いきなり空から刀と青年が降ってきて、特に何事も無く振る舞える程俺達の常識はブッ壊れてないぞ。

「あの……どちらさん?」

「あいう!」

何か知らんけど登場の仕方がかっこいい! とサーガが興している。

まぁちょっとバトル漫畫の助っ人っぽい登場の仕方ではあったが、今はそれどころじゃない。

「おいロマン、あのタトゥーは……」

「あれがどうかしたのか?」

青年の頬には、ファイヤーパターンという嫌でも目立つタトゥーが……

あれ、そういや、アレと似た様なタトゥー、さっきの2人組もれてた様な……

「俺様はヒエン! ヒートアッパーズのリーダー、『炎神のヒエン』様だ!」

ヒエンと名乗る青年の足元、あの紅の剣から、勢い良く炎が吹き出す。

「炎……!?」

吹き出した炎は何本かのロープ狀にまとまり、ヒエンの周囲で揺らめく。

何だろう、あの、海底から生えてる紐みたいな魚……あ、チンアナゴだ。

アレだ。アレの群れを炎で再現しているじ。

「こいつは……!」

「え、何か知ってんのかコクト……っ!」

そんな中、俺は気付いた。

俺の首元。あのイコナというロリ霊からもらった「危険を察知するネックレス」。

その先端の魔石が、黒く濁り始めている事に。

「っ……!」

それは、1つの証明。

目の前にいる炎を従える青年の意思を示す濁り。

「聞いたぜ……テメェら、俺様のチームメイトに隨分な真似してくれたそうじゃねぇか」

ヒエンの赤い瞳に宿るのは、ただ真っ直ぐに研ぎ澄まされた、敵意。

「覚悟、できてんだろぉな」

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