《異世界イクメン~川に落ちた俺が、異世界で子育てします~》話を聞いとく第18話
「……本當に悪かったな、あんな事になっちまって」
夕暮れ染まる頃。
俺とヒエンは、村の中に設置されたベンチに並んで腰掛けていた。
とりあえずあの決闘の後、ブッ倒れたヒエンを病院へと運んだ。
そして數時間が過ぎた現在、ようやくヒエンが起きてくれた訳だ。
あの一撃が結構な効き合だったのか、ヒエンは額に包帯を巻いていた。
ちなみに、俺は全いたる所に布薬をっている。
「ああ、もう良いって」
「そうか……ところで、テメェの嫁とガキは?」
シングとサーガの事か。
「宿で大人しくさせてる。……それと、嫁とガキじゃねぇよ」
「あぁ?」
「事があって、一緒に旅してんだ」
1から10まで説明するのも面倒なので、この説明で納得してもらう。
「で、聞きたい事ってのは……いや待て、悪いが、そっちの名前から聞かせてくれ」
そういえば名乗ってなかった。
「俺はロマン。魔人のの方がシングで、赤ん坊がサーガ。んでこいつはコクトウ」
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「応よ」
「んじゃ、そっちの聞きたい事ってのを聞こぉか、ロマン」
俺がヒエンに聞きたい事、それはもちろん、
「お前が使ってたあの魔剣奧義っての……」
「魔剣融合ユニゾンフォールか?」
「アレについて、とにかく々聞きたいんだ」
アレが、デヴォラの元で學ぶ予定だった魔剣奧義という。
もし、ヒエンからそれを聞くことができるなら、デヴォラの元へ行く必要は無くなる。
『朝を嫌う林ディープナイト』とかいうA級ダンジョンに挑む必要が無くなる訳だ。
「アレは……俺様に教えられる事はほとんど無ぇな」
「なのです」
「え?」
「俺様も、人に教わったんだ。魔剣豪デヴォラ……魔剣使いの端くれなら、聞いた事はあるだろ」
ああ、聞いた事あるともさ。
つまり、ヒエンはデヴォラの弟子であり、デヴォラから魔剣奧義を學んだ。
そして魔剣奧義を教えられるのはデヴォラだけ。
……人生、そう甘くは無いなぁ……
「人と魔剣によって、融合ユニゾンに至るまでの過程は違ぇって話だ。師匠は魔剣の『質』を見極め、最も最適な修行法を提示してくれる」
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「そっか……ありがとう」
「もしかして、師匠に會いに行く気か? でも師匠はそう簡単に他人を屋敷には……」
「一応、紹介狀が送られてるらしいんだけど……」
俺は、デヴォラの屋敷を目指すきっかけになった、あの差出人不明の手紙の話をする。
「紹介狀か……師匠にそんなもん送りつけて相手にされるとしたら……ラフィリアの姉かゲオルの兄貴くらいだな」
「……ゲオル……? ゲオルって、ゲオル・J・ギウスか!?」
「あ、ああ。何そんな驚いてんだ?」
「いや……え、ゲオルとデヴォラって、どんな関係なんだ?」
「弟子だよ。ちなみに1番弟子だ。姉が2番目で、俺様が3番目だな。4番目以降はわかんねぇ。俺様が屋敷を出てもう6年か7年は経つし」
ゲオルが、デヴォラの弟子だった。
「…………」
あの手紙は、俺がゲオルと戦ってすぐに速達で送られてきた。
そして、デヴォラに紹介狀を出せる様な人間は、ゲオルともう1人くらいだとヒエンは言う。
そのもう1人と、俺には何の面識も無い。
じゃあ、あの手紙はゲオルが……?
待て待て、ゲオルはサーガを殺したいんだろう?
何故その障害になる俺に、強くなる手段を示すんだ?
ありえないはずだ。
「訳わかんねぇ……」
ゲオルには不可解な行が多い。
あの手紙も、その不可解な行の一部なのか?
だとしたら、……罠か……?
いや、こんなやり方、手間と日數がかかり過ぎる。
ゲオルは夕暮れ時にいきなり強襲してくる様なおっさんだぞ。
あの化のどこに、こんな回りくどい真似をする必要がある?
……ダメだ、全然話が見えない。
元々を考えるのは得意じゃないってのに……
「何に頭抱えてるか知らねぇが、師匠の屋敷を目指すんなら、裏道を教えといてやるよ」
「裏道?」
「ああ。普通に屋敷に行こうとしたら、『朝を嫌う林ディープナイト』を結構奧まで行く必要があるが……」
「もしかして、安全に屋敷まで行く方法があんのか?」
「そりゃあな。いちいちA級ダンジョンをまともに抜けなきゃ街と屋敷を行き來できないなんて、不便にも程があんだろ」
まぁ、確かに。
でもんな事を言うなら、そもそもダンジョンに屋敷を建ててんじゃねぇよとも思うが。
「『朝を嫌う林ディープナイト』にる前に、マカジっつぅ街がある。そこで『Dアラカルト』っていう雑貨店の場所を聞け」
「雑貨店?」
「ああ、そこの店主がさっき言った2番弟子の姉でな。姉の魔剣はテレポートが使える。紹介狀の話をすれば、屋敷まで送ってくれるはずだ」
「テレポートって……」
隨分と便利な魔剣をお持ちの様だ。
どうやら、デヴォラはそのお弟子さんをタクシー代わりにしているらしい。
……ってか、その弟子ができるまで、街との行き來はどうしていたんだろう。
さっき言ってた通り、いちいちA級ダンジョンをまともに通ってたって事なんだろうか。
……ゲオルが師事するだけの化な訳だし、そう難でも無いのかも知れないな。
「俺様が話してやれるのはこんなモンだな」
「いや、ありがとう。充分助かった」
魔剣奧義についてほとんどわからず終いなのは殘念だが、仕方無い。
屋敷への安全経路を聞けただけでも充分な収穫だ。
「やっと姿を現したな!」
宿に戻ると、何か逃亡犯の様な扱いの言葉をけた。
言葉の主は、あのリナという。
俺とヒエンが決闘する様に仕組んだ子だ。
その手には何故か、サーガのお気にりの熊がプリントされてるガラガラ鳴る奴。
「だぼん、あい」
「早かったな。話は聞けたのか」
ベッドに座り、俺を出迎えてくれたシングとサーガ。
どうやらサーガはリナに遊んでもらっていたらしい。
「ああ、まぁ……で、何でこのチビっ子がここに……」
「チビっ子言うな! これでも去年より長10センチもびたんだぞー!」
ガラガラを振り回して抗議して來る。
何センチび様が、長が俺の腰程しか無いんじゃチビっ子はチビっ子だ。
「で、何の用なんだよ?」
サーガと遊ぶためだけに來てくれた訳では無いだろう。
「一応、ちゃんと謝りに來たの!」
フン、とリナは偉そうに言い切った。
……謝りに來た奴の態度として、それは正しいのだろうか。
「その……まぁあれよ。今回は、私の思慮が淺かったわ。そのせいでリーダーにも、あんた達にも迷かけちゃった。だから……ごめんなさい」
「…………」
「な、何?」
「いや、意外とちゃんと謝るモンだな、と思って……」
「ちゃんと謝りに來たって最初に言ったでしょ!」
まぁ、何だ。
ドレッドやバンダナと言い、本的にヒートアッパーズに悪い奴はいないのだろう。
馬鹿というか短慮な奴は多い様だが。
「あ、それと忠告! リーダーは今日調子悪かっただけだかんね! 勝ったからって調子に乗んないでよ!」
「へいへい……」
「じゃ、用が済んだから帰る!」
「やーうー」
サーガが「じゃあね」と小さな手を振るう。
短時間とは言え、中々良い遊び相手になってくれたらしい。すっかり懐いた様だ。
「……明日も來るかんな!」
そう言って、リナはガラガラを置いて去って行った。
本當、悪い子では無さそうだ。
今回の件はちょっと勘弁していただきたかったが……まぁ、個人的に謝りに來たという事は、本人も反省しているのだろう。
幸い大事には至らなかったし……若気の至りだったという事で、寛大に対応しよう。
何より相手は子供なんだから。
「調子、大分良くなったみたいだな」
「ああ。熱も引いた。明日の朝には全快のはずだ」
「うい!」
「サーガ様がアタシごときの回復を喜んでくれるなんて……! ああ、喜びの余り目眩が……」
「もう寢とけお前……」
多分その目眩は調悪いのに興したせいだ。
「…………今日は助かった。禮を言っておくぞ、ロマン」
「…………」
「おい、何故窓の外を見る。何だ? 槍でも降るんじゃないかとか言いたいのか?」
その通り。
「大、何の禮だよ突然」
異常気象でこの星を滅ぼす気か。
「本來なら、あのドレッドヘアの漢に魔法をブチ當てた張本人であるアタシが、決闘に応じるべきだったんだ」
それを俺が代理し、どうにか無事に収めた。
その事に関しての禮、という事か。
「……アレだな、晝は素直なお前も悪くないなとか思ってたけど……何か素直過ぎると気持ち悪い」
「よしそうか、殺してやる」
「目が本気!?」
ゲオルがデヴォラの弟子だったという事実。
気がかりな事ではあるが、とにかく俺達はデヴォラの屋敷を目指すしかない。
あの手紙の差出人がゲオルだったとして、その目的は全く見えないのだ。
ただ、ゲオルが俺達をわざわざ罠に嵌める必要は皆無に近い。
差出人がゲオル以外の誰かか、それともゲオルか。
どちらにせよ、差出人の目的は定かでは無い。
ならば、一縷の希を託すしか無いだろう。
虎にらずんば何とやらだ。
とにかく、今日は疲れた。
俺も寢よう。
シングに全力で謝ってから。
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