《異世界イクメン~川に落ちた俺が、異世界で子育てします~》出プレイな第20話
ラフィリアに斬られた直後、俺の視界は空のに満たされた。
そして浮遊。
気付けば、転送は終わっていた。
「……お……」
暗い。
まだ真晝間のはずなのに、とても薄暗い。
薄暗さの要因は、辺りを埋め盡くす草木の。
真っ黒だ。
草1本、木の葉1枚に至るまで、真っ黒。
その黒葉の天井は、通常の木の葉の天井よりも遮率が高い。
土も真っ黒だ。
黒黒黒、黒一辺倒。
夜になったら、マジで何も見えなくなりそうだ。
「……って、何だこの狀況……!?」
俺、だ。
もう表現の問題とかじゃなくて、マジで文字通り一糸纏わぬ姿。
しかも、しっかり抱いていたはずのサーガや腰に刺していたコクトウもいない。
あらゆる旅の必須を詰め込んだあのエナメルバッグも、イコナにもらったネックレスも無い。
一貫とはこの事か。
「サーガ! コクトウ! ってかシングも!」
返事は無い。
何がどうなっている?
……まさかあの酔っ払い……しくじって俺ら全員バラバラにテレポートさせちゃったとかか……!?
シャレになってない。
ってヤベェ、真っ暗な森の中で素っとか、人に見られていい狀況じゃ……
いや、そんな場合じゃ……でも居心地悪ぃ、この格好でき回りたくない。
つぅか何でなんだよ意味わかんねぇよ。
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とにかく、とにかくだ、狀況を整理しよう。
俺は、あのラフィリアって人に、猟奇的な絵面の手法でテレポートさせられた訳だ。
その結果、サーガやコクトウ含め、につけていたを全て失った狀態で森の中に1人。
うん、訳わからん。
とりあえず察するに、この黒葉の森……『朝を嫌う林ディープナイト』って奴か。
……察して、俺はちょっとの気が引いた。
辺りをどれだけ見回しても、目にるのはうんざりする程に真っ黒な大自然。
屋敷なんて、どこにも無い。
つまりここは、『朝を嫌う林ディープナイト』の最中……A級ダンジョン。
そして、俺は。丸腰を極めし姿。
この狀況で良いを保てる程、俺は強者ではない。
どうしよう、一刻も早くサーガ達を探すべきなのはわかる。
でも本音を言うと、を掘ってでも今すぐの安全を確保したい。
その時だった。
茂みの揺れる音が、俺の耳に屆いた。
「っ」
何かが、近づいてくる。
サーガやシング、だったら嬉しい限りだが、余り期待しない方が良いだろう。
……いや待て、こういうパターンって、大抵「うわぁ、獣が來るぅ!」とか思ったら、普通に人が出てくるパターンだろう。
「がうぁ」
漆黒の茂みから姿を現したのは、大型犬くらいのサイズの山貓。
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大きさこそ大型犬程度だが、そのは筋骨隆々。加えて目が3つある辺り、明らかにただの山貓では無い。
その鋭く真っ白な牙は、漂白剤でも使ってんのかと思えるくらいの驚きの白さだ。周りが黒で埋め盡くされているだけに、余計にそうじてしまう。
「…………」
「…………」
無言で見つめ合う俺と山貓さん。
わかってた。フィクションと現実は天と地どころかスッポンと冥王星くらい違うってわかってた。
でも希的観測をしたかったんですよ。
まぁ、何だ。
走るか。
「うわぁぁぁぁっしゃああああああああああああああああ!!!」
「がうがうがぁぁぁぁぁぁああああああああああああああ!!!」
森の中で丸腰狀態のままネコ科の獣に追われる。
すごいデジャブなじだが、懐かしんでる場合では無い。
つぅかの男が暗い森の中で獣に追われるとか誰得だよこの狀況。
幸いなのは、あの頃より俺の能力が大分向上している事。
振り切れる程では無いが、距離が詰まっている覚は無い。
でも、どうしよう。
どこに逃げれば良い?
ダンジョン、という事は、奧地に行けばゼンノウがいた様な安全地帯があるはずだ。
ダンジョンの管理者である霊は、自の生活空間には『モンスター避け』の魔法をかけていると、イコナから聞いている。
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モンスターが「何となく空気を読んで近寄らなくなる」という便利魔法だそうだ。
ゼンノウのあの空間に大虎がって來なかったのは、この魔法の効果。
発準備作業がかなり大規模かつ時間のかかる魔法だそうで、手軽に使えないのが難點だそうだが、一度発させれば魔力供給の続く限り持つ魔法らしい。
まぁ、それは置いといて、どの方向に行けばその安全地帯なのか、それがわからん。
つまり、どうしようも無い。
「のっはぁっ!?」
不意に、木のっこにつまづく。
どうにか転ばずに走り続けるが、むっちゃ足の指痛ぇ……っ!
森の中が薄暗いため、視界が余りにも悪い。
極力走らない方が良い狀況だ。
でもそんな事を言ってらんねぇんだよ。
悲しいけど今、命懸けなのよね。
「くっそ……!」
何か奇跡的に諦めてくれたりとかしてくんねぇかな、とちょっと後方をチラ見してみる。
増えてた。2匹増えてた。
「くっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
まぁネコ科だもんね、群れるよね。
不意に、が見えた。
お、まさか……アレか、ゼンノウの時と同じパターンか。
獣がってこれないの空間、ダンジョンのゴール。
「よっしゃぁぁぁぁ!」
喜び勇んでの方へ飛び込むと……
「……へ?」
……何か、綺麗な空が見える。山脈さえ無けりゃ地平線も見えたかも知れない。
そして、気のせいだろうか、
地面が無い。
いや、正確に言うと、あるにはある。
遙か眼下、気が遠くなる程に下の方に、黒葉の木々が見える。
「あ」
程、あのはただ単純に。斷崖絶壁になってて、黒葉の森が途切れてただけか。
あー……これアウトだわ。
そう思った次の瞬間、俺のが重力に従い、落下運を開始した。
「っ! あれは……!」
「う……ん? ……うおっ」
一瞬、意識が飛んでしまっていた様だ。
……つぅかよく生きてたな俺……
上空を見上げると、黒葉の天井には俺がぶち抜いたらしい小さなが空いていた。
「っぅ……」
漫畫とかで、木の枝葉がクッションになってくれて助かった、なんてのをよく見る。
あれはどうやら都合の良いフィクションでは無く、現実的な事象だった様だ。
ただし、無事という訳では無い。
骨折とか重度の損傷が無いだけで、きっちり打撲と裂傷は負っている。
を起こすと、それらが痛みの信號を脳に送ってきた。
……もう何だろう、泣けてきた。
何が悲しくて、で森を駆けずり回って挙句に高所から落下してボロボロにならにゃいかんのだ。
つぅか獣に追われたり高いとこから落ちたり……今日は何だ、デジャブの日か。
「……とにかくだ……」
とりあえず、痛むを起こし、歩き出す。
宛も無く、では無い。
さっき、落下中、俺は確かに見た。
し離れた所にある、大きな『屋敷』を。
あれがデヴォラの屋敷に違いない。
確か、この方向だ。
テレポートさせられてから畳み掛ける様に災難続きだったが、ようやく運が向いてきた様だ。
「つぅか、サーガ達はマジで大丈夫か……?」
本當に、それだけが気がかりだ。
しかし、今の俺にできる事などありはしない。
最善策は、一刻も早く屋敷に辿り著き、自分のの安全を確保しつつ、デヴォラさんとやらからサーガ達を捜索するための助力を得る事だろう。
それと出來れば類もお借りしたい。
本當、ゲオルと言いヒエンと言いラフィリアと言い……俺はデヴォラの弟子と相悪いのかも知れない。
関わるたび災難に見舞われてる気がする。
とりあえず次にラフィリアに會う機會があれば、最悪の場合ぶん毆らせていただくとしよう。
……毆りかかった時點で返り討ちにされる可能が高いが。
まぁそんなじで歩き進んでいく。本當に運が向いてきたのか、特にモンスターと遭遇する事も無く、木々が開けた場所にたどり著けた。
黒い草原が広がっており、木々が無いため普通にが降り注いでいる。
そしてその先に、あの屋敷が見えた。
「おお!」
結構な距離があるはずだが、それでもかなり大きく見える。
あの屋敷は超でっかいという事だ。
何だろう、ゴールが見えたおかげか、力が湧いてきた。
もう走っちまおう、そう思った時だった。
俺は、気付いた。
視線に。
「え」
俺のすぐ傍に、1人のの子がいた。
日向ぼっこでもしていたのだろうか、黒い草原にブルーシートを敷き、その上で寢転がっている。
俺と同年代、高校生くらいだろうか。それくらいの年齢のの子。
白銀の頭髪に加え、薄水の豪壯なドレスという服裝が、とても不思議な雰囲気を醸し出している。
そのどこか人を舐めている様な、やる気の無いジト目は、サーガに通じるがある。
何故こんな所にこんなの子が……?
ここは仮にもA級ダンジョンのはずだ。
それに、舞踏會會場ならまだしも、ブルーシートの上なんてビビるくらい似合ってないぞ。
「…………」
の子は寢転がったまま、何か「ふむふむ」と小さくつぶやきながら、ある一點を食いる様に見つめていた。
その視線を追うと、そこには俺の息子(暗喩)がいた。
「のわぁっ!?」
忘れてた。俺、今だった。
急いで息子を手で隠すと、の子は「あ」とし殘念そうな聲をこぼす。
「……何で隠すの?」
上を起こしながら、の子がそんな事を言った。
聲量は小さいし、聲圧は弱い。そんな靜かな聲。
しかし、不思議と聞き取りやすかった。
「いや、何でって、そりゃ……」
「こんな所でって事は、『見せたい系』の人じゃないの?」
「斷じて違う!」
これには本當に々あるんだ。々。
「……ちなみに私は、そういうのに『興味がある系』というかお年頃。という訳で、その手をどけてくれるとし嬉しい」
「斷る」
淡々と何口走ってるんだこの。
「……ケチ」
「出狂よりはケチの方がいくらかマシだ、この野郎」
「私は、『この野郎』より、『このアマ』という表現が的確」
とか言いつつ、ちょいちょいと首を傾ける。
角度を変えて、どうにか俺の息子を観察できないかと試みているらしい。
何だこの子、新手の変態か。
……いやまぁ、素っで森を走り回ってきた俺が言えた義理では無いかもだが。
「ちなみに名前はユウカ。このアマとかこの野郎とかより、名前で読んでくれた方が、かなり嬉しい」
「あ、おう……えーと、俺は、ロマン」
「そう、ロマン」
覚えとく、と小さくつぶやき、ユウカは尚も俺の手に隠された息子を凝視し続ける。
絶対見せてやるものか。俺にだって恥心ってモンがあるんだよ。
「っと、そうだ、ユウカ、この辺で魔人のの子と赤ん坊を見なかったか!?」
「見てな…………あ、見た」
「どっちだよ?」
「正確には、今まで見てなかったけど、今見てる」
そう言って、ユウカがある方向を指差した。
すると、俺が來た方向とは別の方の森から、人影。
「シング! サーガ! コクトウ!」
「だぼん!」
「ロマン!」
「おおクソガキ!」
シングが、サーガを抱き、エナメルバックとコクトウを抱え、尚且俺の類一式を持って、そこに立っていた。
「探したぞ馬鹿者! サーガ様から離れるとは何事だ! それでもお世話役か!」
「やうあうあー!」
「いや、俺のせいじゃないと思うけど……ごめん」
サーガもシングもご立腹だ。
ってか素っな點はスルーか。本當にお前は俺を男として見てないのね。
「……って、何で俺の服とか、全部お前が持って……」
「知らん。さっき、サーガ様とコクトウと共に、アタシの所に転送されてきた」
その時、ひらりと俺の類群から、1枚の紙が舞い落ちた。
何か、文字が書かれている。
手紙らしい。
拾い上げてみると、
『ごめーん、手元狂っちゃったみたい。ロマンくんだけ別のとこ送っちゃった(てへぺろ)。ほんとごめんねー』
「やう! だぼん、なう!」
「いきなりテメェが俺っち達と服だけ殘して消えちまってな。あの後、俺っち達はこののとこに送られたんだ」
サーガ&コクトウの証言によると、あの時、転送されたのは俺だけ。正確には、服や裝飾品を除いた、俺のだけ。
それはラフィリアのミスだったそうだ。
とりあえず、「どこに飛ばしちゃったかわかんないや」とラフィリアは軽く流し、飛ばした場所がはっきりしているシングの方へサーガ達を飛ばした、という流れなんだそうだ。
「雑過ぎる……」
酔っ払いにしても、人命に関わるレベルのドジは控えていただきたいものだ。
「……まぁ何だ、無事で良かった」
「うむ。この周辺はどうやら強力な『モンスター避け』の魔法がかけられているらしくてな。特に危険は無かった」
デヴォラの屋敷の周辺だし、そういう安全確保の魔法があるのは不思議ではない。
本來なら、俺もその安全領域に送られるはずだったんだろう。ちゃんと服著た狀態で。
「ん?」
ラフィリアの手紙、まだ続きがある。
『あと、転送代としてロマンくんのトランクスは頂戴しました。まぁ非処でも肴くらいにはなるかなと。大事に使うよ』
「俺のトランクスゥッ!」
今日履いていたのは、この世界に來る前から履いていたトランクスだ。
大切な同郷の徒が、あんな酔っ払いのみに……!
「ちなみにアタシとサーガ様もやられた。スースーする」
「なうぅ……」
親方の言っていた通り、本當に見境いが無い様だ。
ってかパンツやオムツだけ殘して転送したのか、ある意味すげぇな……
「って、お前のノーパンはともかく、サーガのノーオムツはヤバイだろ! 今催したら……」
「……うい……んち」
ごめん、出る。じゃねぇ!
「サーガちゃんお願い! 良い子だから10秒待って! お願い!」
「む、むい……」
「シング、バッグ! 早くオムツを! 事態は一刻を爭う!」
「わかっている! ただ、お前はそろそろ服を著たらどうだ?」
「それどころじゃ……いやそれどころだけど! 背に腹は変えらんねぇの!」
ユウカが完全に俺の息子を観察モードだが、もう良い、好きにしやがれ。
同年代のの子に全を見られる恥心か、大便の付いた服を洗う手間か。
俺の中の天秤は、後者を回避する事を選んだ。
決して前者に前向きなを抱き始めた訳では無いぞ、決してだ。
こうして俺は々と犠牲を払い、何とかサーガの糞前にオムツを裝著させる事ができた。
……ただ、數秒後にはまたこれを引っペがして新しいオムツを履かせる訳だが。
「ねぇロマン。もう通常時は充分。次はってる狀態が見たい」
「もう見せねぇよ!」
サービスタイム終了じゃボケ。
「ケチ」
「で、ロマン、この娘は?」
「ユウカっつぅらしい」
あ、ってか々とバタついて失念していた。
何故こんなが1人、A級ダンジョンの中で日向ぼっこなんてしてるんだ?
アレなのか、こいつ涼しい顔して実は強者系なのか……?
「まぁいいや……」
と言う割には不満そうに口をへの字に曲げ、ユウカはゆっくりとまた寢転がった。
……ドレスを著たに、テレビの前で転がるおっさんみたいなポーズって死ぬほど似合わねぇな。
本人は似合う似合わない全く気にせずくつろいでいるが。
「なぁユウカ」
「見せてくれるの?」
「斷固として見せません」
俺は確かに人並にエロス好きだが、変態度はそんなに高く無いんだよ。
「お前、こんなとこで転がってて平気なのか?」
「平気だからこうしてる」
それもそうだわな。
それにさっきシングが言ってた通り、ここら一帯にモンスター避けが効いてるなら、危険もあるまい。
聞くだけ野暮だった。
「っと、いい加減に服著ねぇと……」
なんかでいるのにも慣れてきたが、まさにそれこそ不味い兆候だろう。
覚醒してしまう前に服を著よう。
「そうだな、流石にで屋敷を訪ねる訳には行くまい」
「うぶい」
ノーパンとオムツ裂中の奴に言われたくねぇ、と思ったが、悔しい事に現狀、俺の格好が一番禮儀を失している。
……さ、サーガのオムツを取っ替えてさっさと服を著よう。
「屋敷に行くの?」
「ああ、そのつもりだけど」
「ふぅん 」
「何かあんのか?」
別に、と軽くつぶやき、ユウカは続けた。
「あそこ、私の家でもあるから、し気になっただけ」
「……お前の?」
「うん」
「……まさか、お前が、魔剣豪デヴォラ……?」
「違うけど」
……ま、そらそうだわな。
こんな小娘がゲオルやヒエンの師匠とか、絶対にありえねぇ。
「私はユウカ。デヴォラの娘」
「娘……」
娘さんがいたのか。
魔剣豪って響きの勝手なイメージだが、何かこう孤高なイメージがあったので意外だ。
「あと、孫」
「は?」
「それと妹でもある」
「……待て、一、どういう……」
「私はデヴォラの孫で娘で妹。よろしくね」
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