《異世界イクメン~川に落ちた俺が、異世界で子育てします~》暗躍し始める第33話

床や壁に、刀剣の様なで裂いた様な細長の跡がいくつも殘っている。

それだけじゃない。

まるで大きなスプーンで抉ったかの様な、ぽっかりと綺麗に空いたも、無數に點在している。

老人の刃が切り裂いた跡と、ラフィリアが武として使うために床や壁をくり抜いた跡だ。

「テレポートというが、こんなに厄介なとはのう」

雷撃を纏う雙剣を振るいながら、老人は辟易した様に溜息を吐く。

その類はボロボロだし、ところどころに裂傷や打撲も負っている。

しかし、その表は、余裕。

「っ……」

対して、肩で大きく息をするラフィリア。

その腹部には、致命傷とも思える深い斬撃の跡。

「本能型の戦士タイプ……ゲオルと言い、この手の相手は本當、やってらんないわ……!」

「ツレない事を言うな、嬢さん」

老人が、床を蹴る。

常人ならば、防を起す事すら不可能であろう瞬速の太刀筋。

大理石の床すら斬り裂く、常軌を逸した破壊力を誇る斬撃。

しかし、雷撃を帯びた青白い刃は虛空を斬る。

ラフィリアが、消えた。

しかし、老人は顔1つ変えない。

瞬時に片手の剣をくるりと回して逆手に持ち替え、後方へ突きを放つ。

まるで後頭部に目が付いている様な、そんな迷いのないき。

その突きが頬をかすめ、ラフィリアは後退。

頬をかすめた拍子に、電撃がその全に流れ込み、側を痛めつける。

「っぐぅ……!」

頬と、その周りの神経が、消える。

さっきからだ。

あの刃にれた場所、つまり雷撃をモロにけた傷の周辺が、麻痺を起こしている。

そういう特なのだろう。

おかげで、腹の傷も深さの割にはラフィリアの行を妨げる程の痛みでは無い。

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だからこそ、慎重にかざるを得ない。

痛覚が鈍っているからと言って、派手にいて腸とか飛び出したら、戦闘どころでは無くなってしまう。

きっと、この老人の狙いはそこだ。

痛みとは、の限界を報せる信號。

それを遮斷する事で、相手自に自分のを破壊させる。

本能任せの剛の攻めに加えて、相手の自う麻痺……本當に、タチが悪い。

「上方、後方、斜め後方、視界的な死角のどこを取ろうと無駄じゃと、何回言わせる?」

振り返らず、老人は肩越しにラフィリアへ言葉を投げかける。

どこへ転移しようと、老人は本能で察知するのだ。ラフィリアの気配を。

「……あら、私が一辺倒な策に頼り切りだと思ってたら、痛い目見るわよ?」

「何?」

老人は、気付く。自の目の前に、何かが転移させられた。

気配はある。だが、見えない何か。

「奧の手ってのは、相手が油斷し切るまで取っとくよ」

老人が回避行に移る間も無く、それは起する。

ラフィリアの魔剣、ソラギリの能力は、『テレポート』では無い。

テレポートは、あくまで副産。その真髄は、『空間作』。

空間を灣曲させるだけでは無い。

空間と言うを、質として捉える事ができ、尚且それを自在に加工する事ができる。

その質を超高度で限界まで凝し、一気に開放するとどうなるか。

された質が、急速に拡散すると、どうなるか。

巨大な風船が弾けるのを想像すると良い。

急速な拡散効果は、大きな力を伴う。

明な風圧弾の出來上がりである。

「ぬ、ぅ!?」

その瞬間的突風に、人を裂く力は無い。だが、強烈だ。

老人のが、宙に浮く。老人の四肢を、千切らんばかりの勢いで圧迫する。

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老人の目の前に、ラフィリアが転移する。

既に、貫手を振りかぶった狀態で。

老人はラフィリアを斬りつけようとするが、突風に驚愕したのと、その両腕を後方に煽られた影響で、間に合わない。

鋭い空の手甲が、老人の腹を刺し貫く。

直後、老人のはラフィリアからし離れた場所に転移させられ、その刃はまたしても虛空を斬る。

「がほっ……老人の腹にを空けるとはのう……老は、もっと労わるべきじゃぞ」

「労わってしいなら、老人ホームで茶でも啜ってなさい」

「厳しいのう」

やれやれ、と老人は雙剣を構え直した。

ドテッ腹に風が空いているとは思えない、余裕のあるきだ。

痛みには慣れている、と言う事か。

いや、ありえない。あの傷は腹のど真ん中を貫通している。確実に、何かしらの臓を傷つけているはずだ。証拠に、老人は派手に吐している。

を損傷して、全く意に介さないなんて事が、ありえるのか?

さっきから、ラフィリアが小細工に小細工を重ね、どうにか一撃を叩き込んでも、ダメージとして勘定していない様子も気になる。

「まさか……痛覚制、とか、その辺の魔法も使ってるのかしら……?」

「ふむ、勘が良いな。正確には、この魔剣『ソウハク』の微弱な雷撃で、自らの痛覚神経のほとんどを麻痺させてある」

「自壊覚悟って訳?」

「歳を取ると、割と生命への執著が軽くなる。いずれわかると思うぞ」

「……厄介な事で……」

つまり、このジジィはどれだけダメージを重ねさせても無駄。

しずつ相手を削っていくラフィリアとは、ハナっから相最悪だった訳だ。

こっちはもう、腹部の痛覚が戻り始めている。

あまりの激痛に、意識が朦朧とし始める。

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これは、ヤバイな、とラフィリアは舌打ち。

「しかし、頑張るな嬢さん。流石は『魔剣豪』の弟子、と言った所か」

魔剣融合ユニゾンフォールを使っている事から、魔剣豪の弟子だと判斷したのだろう。

「その奧義を見ていると、が騒ぐわ…デヴォラには散々煮え湯を飲まされたからのう……」

「……年齢的に、初代のお知り合い、ってとこかしら。今回の襲撃、そことも関わりがあり?」

「いいや、あいつとの事は今回の襲撃には関係無…」

『ミスターゼア』

「!」

その時、老人のコートのポケットから、若い男の聲が響いた。

紳士的な印象をける聲だ。

「シャンドラか、何じゃ、令嬢の拉致に功したのか」

『逆の様です。リゼとイザラ、ガドウが「こちら」に逃げ戻って來ました。他の者は応答すらしません』

「ほう、撃退された、と」

『そう考えるべきでしょう』

「ふむ」

『そちらに戦力が集中する前に、撤退を推薦します。誠に殘念ではありますが』

「わかった……と言う訳じゃ、魔剣豪の弟子よ。今日はここまでじゃの」

「……大人しく、退かせると思ってるの?」

「強がるな、わかっとるぞ」

老人は、相変わらず笑みを崩さない。

「もう、まともに戦えないのだろう。そろそろ腹の傷の麻痺も解けてきているはずだ」

「…………」

「どれだけ気を付けても、痛覚が無ければ知らずのに無茶はしてしまうだ。かなり悪化しているんじゃないか? その傷」

「っ……タチ悪いわね、本當」

「まぁ、他の戦力が集まれば、確かにいくらワシとて厳しい。じゃが、その前に嬢さんを微塵に斬り刻むくらい、できる」

命拾いするのはお互い様だ。老人はそう言い殘し、ラフィリアに背を向けた。

魔剣を収めないのは、萬が一のラフィリアの追撃を考慮しての事だろう。

「……っ……」

悔しいが、ラフィリアは老人との戦闘を継続する事も、その後を追う事もできなかった。

老人の、言う通りだからだ。

魔剣融合を解除し、ラフィリアはその場に倒れ込む。

「ははっ……クソジジィめ……」

「ま、マスター! 大丈夫かぬ!?」

「……大丈夫な訳無いでしょ、ソラギリ……」

腹部の激痛に、かきたくも無い脂汗でビショ濡れになりながら、力無く笑う。

「こりゃ、厄介な事になりそうねぇ……」

「……満足……」

「このクソ姉……」

執事長が貸してくれたハンカチで、俺は自の顔面に付著した姉貴の唾を拭う。

押し倒されたと思ったら「犬かお前は」とびたくなるくらいペロペロされた。

っていうか俺はんだ。それに抵抗もした。

が、やたら凄まじい膂力で組み敷かれ、もがく事すらできなかった。

執事長達は余りに異様な景に「……これは、助けるべきなんだろうか」とかなり迷い、結局靜観に徹する事にしたらしい。

いや、早く助けてくれよと本気で思った。

シングはシングでサーガだけサルベージしやがって……

「う」

俺が解放されたのを見て、シングに抱っこされていたサーガがこっちに戻って來た。

「で、ロマンのお姉さん。こちらに敵意は無いと見て、よろしいか」

「敵意なんてある訳ない」

姉貴は俺の頭をワシャワシャとで回しながら、執事長の質問に笑顔で返す。

……ああ、なつかしいわこのじ。本當にウザい。

一時期はこんな姉でも會いたいなぁとか思ってたけど、やっぱり撤回するわ。

つぅかマジで何が悲しくて親の唾でベトベトにならにゃならんのだ……

「……そうだ姉貴、々と聞きたい事が……」

「お姉ちゃんは今でもロマンちゃんが大好きよ。そしてこれからも」

ああ、知ってるよ。っていうか今さっきを持って験したよこのブラコン野郎。

相変わらずで本當にもううんざりだよ。そんなんだから嫁の貰い手つかねぇんだよ。

いい加減に弟離れしろよ。俺が中學の頃から七夕の短冊になんて書いてるか、お前知らないだろ。

で、當然ながら俺が聞きたいのは実の姉の異常癖についてでは無い。

「あの、姉貴が一緒に行してたピアス……」

俺がピアスを指さそうとしたその時、ボゴァッ! という発音が響き渡った。

「なぁっ!?」

その場にいた全員が、騒然となる。

音源は、今まさに俺が指さそうとしていた方向。

煙が晴れると、壁に大きなが空いており、ピアスの姿が消えていた。

「逃げられた……!?」

「ランドー、追うぞ! ロマンとシングはお嬢様の警護を頼む!」

「お、おう」

そう言って、執事長とランドーはピアスが空けたから飛び出して行ってしまった。

「……姉貴、一、何なんだ、あのピアス…それと雙剣じいさん。……姉貴、あいつらの仲間なのか?」

「仲間…と言うか……こっちの世界に來た時に、この組織のボスに偶然會って……それから、し世話になったってじ、かな」

「あ、そうだ、つぅか何で姉貴までこっちの世界に……」

「それはね」

姉貴の口から語られたのは、衝撃の経緯。

こっちに転移してから、俺は向こうの世界で予想通り失蹤者扱いになっていたそうだ。

そしてこの姉は「弟のいない世界なんて」と自殺に踏み切り、俺がこの世界に來るきっかけになった川に飛び込んだのだと言う。

「……っの馬鹿姉が……!」

「あれ? ロマンちゃん、怒ってる?」

「怒るに決まってんだろ!?」

「あ……ぅ、ごめん……」

この姉は、本當にブラコンをこじらせている。

呆れを通り越して怒りすら覚える容だった。

ここまで盲目なブラコンだとは思わなかった。

俺の知らない所で家族が死のうとしていた、それも、俺が原因で。

もし、姉貴があの川に飛び込む以外の方法を選択していたら……

確かに、俺の姉は死ぬほどウザい。でも、死んでしいと思う程では無い。

「お前がそんなに怒る所なんて、初めて見たな……」

「うい……」

シングが意外そうな表でそんな事を言う。

そら俺だって怒る時は怒るわ。

普通のがあるのなら、簡単に生命を斷つ選択をしたこの姉に対して、怒りを覚えるなと言う方が無茶な話だ。

全然元の世界に戻れなかったどころか、元の世界に戻るための努力をやや後回しにしていた俺も悪いだろう。

それでも、怒りが抑えきれない。誰が悪いとか、そういう問題じゃない。

どんな経緯があろうと、自ら生命を斷とうなんて馬鹿な発想、認められるはずが無い。

「……2度と、そんな馬鹿な真似しないでくれ。例え、本當に俺が死んだとしてもだ」

「…………」

「返事!」

「……うぅ……ヤ…」

「はいかYESだ!」

「そんな約束しても守れないもん! そして私はロマンちゃんとの約束は破りたくない! だから約束しない!」

「ワガママ言うな!」

「……姉弟というか、兄妹?」

ユウカの言う通りだと思う。

この姉は、神的に未な面がある。

「……私、絶対に約束しないから」

「っの……」

自分がどういう馬鹿な意地を張っているのか、わかっているのか、こいつは。

一瞬、ぶん毆ってやろうかとさえ思った。

こんなに頭に來たのは、本當に久々かも知れない。

……でも、落ち著け。毆ったって、この姉は改心しやしないだろう。

無意味なドメスティックバイオレンスは趣味じゃない。

この話は、後でじっくりこってり絞る様にお説教と共にしてやった方が良さそうだ。

この姉のブラコンっぷりはいつか矯正しなくてはと思ってはいたが、ここまで深刻だとは思わなかった。

今後、徹底的にやるしかない。

「……もういい、この話は後だ。あの連中…組織? について、続きを聞かせてくれ」

「……うん……」

……俺に怒られたためか、姉貴が完全にしゅんとしてしまっている。

すごく悪い事をした気分だ……いや、でも、今後の姉貴の人生を考えると、厳しくいくべき事柄だろう。

甘やかした結果が、自殺未遂なんてとんでもないだったのだから。

「組織の名前は『グリーヴィマジョリティ』。アリアトさんって人を中心にした、魔法武裝組織」

「グリーヴィマジョリティ……聞いた事無い組織」

「で、その何とかマジョリティってのは、何が目的なんだよ? 確か、ユウカを拐するとか、戦力を削ぐとか……」

その2つは、明らかに『最終目的』へ至るための『手段としての目的』だろう。

、その目的の先に、何とかマジョリティは何を見ているのか。

「『伝説の魔剣』を、手にれるためだって言ってた」

「伝説の魔剣……?」

これも、ユウカは知らない様子だ。

「この屋敷のお嬢様を拐して、『伝説の魔剣』を代金として要求するつもりだったみたい」

程、その取引の最中に萬が一が無い様に、こちらの戦力も削ごうと考えていた訳か。

「ってか、伝説の魔剣って……?」

「その魔剣で、アリアトさんの『魔法を完させる』って……」

「魔法を完……どういう意味だ?」

いや、シングさんよ、魔法関連の事を俺に聞くのは嫌がらせってかイヤミと違うか。

「もうちょい詳しく……」

俺は、最後まで続けられなかった。

原因は、突然に起きた異変。

姉貴が、倒れた。

「……え?」

突然の出來事に、俺は一瞬理解が及ばなかった。

姉貴は、倒れたきりかない。き1つ上げない。

虛ろな、の無い目で虛空を眺め、ただそこに転がっている。

「……姉貴?」

さっきまで、何の異常も無かったはずだ。

「姉貴!」

、何が起きてんだ……!?

「嘆かわしい」

暗い部屋の中で、青年は獨り、つぶやく。

その手には、古びた1冊の本。

「何故、世界とはこうもままならないなんでしょう。どうして、『あなた』の様にしく展開し、集約し、語にピリオドを打つ事が、できないのでしょう……」

「また獨り言か、シャンドラ」

「ミスターゼア……」

暗闇から現れたのは、黒いコートを纏った老人。

その腹には、大きなのシミが滲んでいる。

「……何度も言わせないでください。獨り言ではありません」

この世で1番の寶を見せつける様に、青年は本を掲げる。

「合理的でしい、僕の人の分と心通わせているんです」

「確か、お前の人が死に際に書いた能小説だったな。よくもまぁ、人前で堂々と読めるだ」

「何も恥じる事は無いでしょう。彼は死の間際に、セックスと言う生命を創造する高尚な行為を、生命の奇跡を文章としたのです。しい。流石は僕の選んだです」

「あーあー、ノロケ話は傷に響くわ」

軽く笑いながら、老人は自の腹の傷の手當を進める。

「……ミスターゼア、あなたはいい加減、自分が掛け替えのない主戦力である事を自覚した方が良い」

「こちとら老い先短いじゃ。生命の使い方くらい好きにさせとくれ」

「……全く、あなたは、この先の世界が見たくはないんですか?」

「見たいさ。じゃがの、ワシぁ我慢弱い。ついつい、目の前の楽を優先してしまう」

「……死のリスクを背負う事が、楽ですか?」

「理解できんか? ゾクゾクして癖になるぞ、死神の鎌という奴が見え隠れする、あのは」

「……年配の方の考えは、我々若輩には理解し難い、と言う事ですね」

「まぁ、あくまで楽しいのは『リスク』じゃ。死亡確定の闘いはごめんじゃな」

「要するに、博打が好きと言う事ですか?」

「おお、まさにそんなじじゃのう」

ケラケラと楽し気に笑う老人。

そんな老人に呆れた様に、青年は溜息。

「そういえば、戻ってない者はどうなった?」

「……レディ、バリス、テルマ、イギン……捕獲されたとみられる者達は、『セーフティ』を起しました」

青年が、しだけ寂しそうな口調で告げる。

「……人の心を作する……決して、気分の良いではありません。それが仲間ともなれば、尚更」

「殘念だが、仕方の無い。いずれ取り返せば済む事じゃ」

「……魔剣豪の屋敷の戦力、正直、侮っていましたね」

令嬢を拐するだけなら、寢込みを襲うのが1番楽だっただろう。

しかし、それでは『危険』を殘す事になる。

取引の際に、向こうがこちらに対し、「不意打ちまがいな手を使わなければならない程に弱い集団」という認識を持っていると、危険なのだ。

取引では無く、実力行使で令嬢を奪い返そうとするかも知れない。

それは、できれば避けたい。

だから、執事メイド達を正面から叩き潰し、力を誇示しておく…と言うプランでもあったのだ。

誤算だったのは、執事メイド達の戦力が、青年達の予想を遙かに上回った事。

こちらの2人1組を一蹴する様な、化達だったという事だ。

おかげで、今回の作戦は完全失敗。

何1つ目的を達できなかった。

見積もりが甘かった。

時期尚早過ぎた。

「よくもまぁ手練を何人も集めただ。いや、手練に育てあげたのか」

「結局、第1目標どころか第2目標すらほとんど達できず、こちらは半數近い仲間を失う結果となりました」

「……『ここ』がバレると、更に厄介じゃのう」

「それは、心配に及ばないかと」

青年は自慢気な笑みを浮かべる。

「『持つ者』は、足元の『持たざる者』には興味など示しません。だからこそ、その足を掬うチャンスが訪れる」

次の策を練りましょう。そう、青年が提案した時だった。

「私がやるわ」

「!」

暗闇から響く、の聲。

「最近、調が良いの」

「ですが、あなたは……」

「これ以上、同志を失いたくは無いわ」

「……すまんのう、ワシらがもうちょっとしっかりやれとれば……」

「気にしなくて良いわ」

暗闇から現れたそのは、ニッコリと、ひだまりの様な暖かな笑みで、笑った。

「私が、ご令嬢を連れてくる。そして……力も、誇示してくる。1人か2人、『使って』ね」

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