「……ありがとう。言葉では謝を表現し切れない」

「いや、別にそんな……あくまで俺のやりたい事、だしさ」

サーガの父になる。

俺は、そう決意した。

その決意を、他人のせい…いや、他人の手柄にしてたまるか。

俺は、俺の本心に従っている。

簡単な道では無い事は承知の上だ。

それでも、やるんだ。

やりたいと、思うから。

「……そう言えば、アルさん」

「何だ？」

「サーガの名前にも、意味があるのか？」

「當然だ」

嬉々として、魔王は語ってくれた。

「あの子は、とある予言をけていてな。將來、『世界を滅ぼす魔王』か『世界を救う英雄』になるらしい」

「魔王か、英雄……両極端だな、おい……」

「で、だ。まぁ、我輩としては、後者になってしい。だから『英雄譚サガ』から名を拝借し、サーガとした訳だ」

「へぇ」

「サーガが生まれる前に、クロエ……我が妻と共に決めた名だ」

「その奧さんは……」

「……もういない。『魔』、だったからな」

「え？」

今の文脈だと、死去の理由が『魔だったから』と言う風に聞こえるのだが……

「知らないのか？　魔の宿業を」

「宿業？」

「魔は子を産むと、死ぬんだ」

「！」

まさか、コクトウが以前言いかけていた『魔がける２つの罰』って奴か。

子を産むと死ぬ、そして死後、記憶を無くして魔剣に生まれ変わる。

それが、魔の運命。

「……辛かったろうな」

せっかく、腹を痛めて子を産んだのに、その子の長を見れずに死ぬ宿命。

それが、魔。

「……それでも、彼は、笑っていたよ。幸せだった、とな」

「そうか」

「……君に、もう１つ頼みがある」

「？」

「まぁ、向こうは記憶を無くしているだろうから、わからんだろうが……もし、もしもだ。クロエと名乗る魔剣を見つけたなら、伝えてしい言葉がある」

そうか、そのクロエさんは魔だった訳だから、魔剣に転生しているはずだ。

「約束は果たせなかった、済まない、とな」

「……わかった。必ず、伝える」

約束とやらが何なのか、聞くのは野暮ってモンだろう。

俺がクロエさんとやらに會える可能は低いが、會えたのなら、必ず伝えておく。

「ところで、どうやってに戻るんだ？」

さっき、この魔王はその手段について考えがあると言っていた。

「魔力とは魂魄から生される。つまり、魂魄だけの今の我輩達は、魔力の源の塊だ」

「ふむふむ……ん？」

魔力の塊だから、なんだって言うんだろうか。

「生霊とは生命活レベルが低下し、魂魄との結合が緩んでいる狀態だ」

「うんうん」

まぁ知らんけど。

「生命活レベルを元に戻せば、自的に魂魄とは再び強く結びつく、そうは思わんか」

「う、うーん？」

もっともらしくは聞こえるな。

すごい安直な発想、と言ってしまえばそこまでだが。

「と言う訳で、今から君に、我輩の持つありったけの魔力をブチ込む」

「あれ、急に意味がわからなくなったぞ」

「我輩の膨大な魔力で、君の魂にエネルギーを與え活化させる。魂が元気になればどうにかなる。後は気合だ」

「おいちょっと待て、あんたが馬鹿なんじゃないかと言う疑が俺の中で急浮上した」

特に最後の一言が不安を掻き立てまくる。

「我輩の魔力量は、あのアリアトとか言うを軽く凌駕するぞ。こんだけ流し込めばどうにかなるはずだ」

「どうにかなるはず、のどうにかの部分を詳しく説明してくれ」

「理屈ではない」

「考えがあるって言ってましたよね！？」

ダメだ、この人、馬鹿だ。馬鹿って言うか雑だ。結構な雑さだ。

「魔力注療法は『古くから』……いや、『古くは』最もポピュラーな心肺蘇生だったと聞く。大丈夫だ」

「いや、今の言い直しは致命的だぞあんた」

「古くから（現代まで）」、では無く、「古くは（使われてたけど現代では……）」と言い換えたって事は、そう言う事だろう。

「細かい事は気にするな。重要なのは結果としてどうなるかだ」

「まぁ、確かに……」

そう言って魔王が立ち上がる。

俺も合わせて立ち上がる。

確証は無くても、確かにこれが今１番「どうにかできそう」な手段ではある。

やるだけやってみよう。

「ん？　ってかちょっと待って。これって魔力上限値の拡張じゃ…」

「何だそれは？」

「あ、いや、……まぁいいや」

この空間では覚が無いし、拡張による激痛もじないはずだ。

……っていうか、程な、心肺蘇生にもなるわな。

ありゃ電気ショックなんかより効くもの。

「では、行くぞ」

「お願いします」

魔王の無骨な手が、俺の額にれる。

おお、流れ込んできた。

すげぇ覚だ。力の濁流、そんなじ。

シルビアの時とは比べにならない。シルビアのよりも、大きくて、熱い。そんなじだ。

もっと的に言えば……そうだな、まるで鼻フックだけで天井に吊るされて全のと言うを暴にむしり取られながらそのを拡張で無理矢理こじ開けられてそこに泡立てとスタンガンとチャッカマンをねじ込まれて出力全開にされた挙句に全を金屬バットと鉄の棒でまんべんなく均等に叩きまれアルゼンチンバックブリーカーを決められつつ全の関節という関節に逆ひしぎをかけられている様なそんな本當にマジで筆舌では盡くせない様なひんぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああうあうあああぁぁぁあああぁああああぁぁどぅふっあべでぅああああぁヴぁあヴぁっヴぁあああひあひあああぁぁっああああああぁぁぁぁああああでゅっはあああぁあああぁぁあああぁぁぁああぁぁあぁっっっ！！！！？！？！？！？！？

「何できっちり痛いんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ！？」

「きゃあっ！？」

「ぬおぉう！？」

って、痛っ！？　全痛い！？

何？　まだ続いてんの……って、違う。

痛みの種類が、全然違う。

全が、鈍い痛みに包まれている。

拡張の、あの容赦無く常に全開の痛覚攻撃とは違う。

「っぐ……」

ここは……醫務室か……？

俺がいるのは、白いベッドの上だ。

隣のベッドには、

「姉貴……」

虛ろな目で天井を見つめ続ける姉貴。

それに、その他のグリーヴィマジョリティメンバー達。

ラフィリアは……いないな。

「……本當に戻って來た……」

魔王の雑理論が奇跡的に的をていたらしい。

うっ……つぅか本當にあの黒いモヤはダメージのフィードバックだった様だ。

俺はミイラ男かよ、と自分で突っ込みたくなるくらい包帯ぐるぐる巻きだ。

そらもう見事なくらい。どこの長州派維新志士だよってじだ。全火傷、って點まで同じとは、笑えない。ヒエンからグレンジンを借りたら完璧だ。

「ろ、ロマンさん！　意識が戻ったんですか！？」

「うぉぉ！　奇跡だ！　マジだよな！？　マジで戻ったんだよな！？」

「あ、お、おう。おはよう、シェリー、ヘル」

重歩兵とパンダ。

畫面的にも本人達の関係の薄さ的にも、何か珍しい組み合わせだな。

……とりあえず、俺の今の狀態を把握しておこう。

全至る所に火傷……特に、左顔面と背中は覚が無くなる程に念りにやられている。

左目は……失明してるかまではわからないが、なくともしばらくは開けないな。

右手の肘から下がギプスで固定され、指先だけが出ている狀態だ。

……ああ、さっきまで瀕死の重って扱いだったんだろうな。

シェリーとヘルのリアクションでもわかる。

痛過ぎて逆に覚が鈍ってるのは、不幸中の幸いと言った所か。

……いや、今さっきの拡張のせいで、火傷の痛みが大した事無い様にじられるだけかも知れない。

一応、全火傷ってモロに生死に関わる重傷のはずだが……

だから拡張って嫌いなんだよチクショウ。

その癖、ゲオルやブルケイオスに拡張を行ったから、バチでも當たったか。

自分がされて嫌な事は人にしてはいけない、という神からの戒めかも知れない。

「コクトウさんも起きてください！　ロマンさんが起きましたよ！」

「んにゃ…？　何を……って、何ぃっ！？」

寢ていた……のかは見てくれではわからないが、壁にかけられていたコクトウから驚いた様な聲がれる。

「おお、うぉぉおおお！　クソガキ！　何死にかけてんだこのボケェッ！」

「いきなり酷いなおい……」

死にかけてた人間にかける言葉では無い。

「って、テメェ……クソガキ……だよな？」

「はぁ？」

何だその質問は。

俺は俺、正真正銘、お前がクソガキと呼ぶロマンだ。

「いや、だって、魔力の量と質が……別人クラスじゃねぇか……！？」

「え、あ、あぁー……」

どうやら、魔王様が流し込んだ魔力がそのまんま俺のに滯留しているらしい。

シルビアによる拡張ではそういう事は無かったが、今回は相手が相手だし、量が量だ。

俺のから抜けきるには時間がかかるかも知れない。

もしかしたら、痛みが軽減されているのは魔王の魔力の恩恵だったりするかも知れない。

……っていうか、今回の拡張で俺の魔力上限値はどこまで行ってしまったんだろうか……

今までにをかけて、「魔力のセーブが効かなくなって魔法が使えない」なんて事にならなきゃいいが……

「……まぁ、何だ。心配かけて、ごめん」

「もう……！　本當に……皆心配してたんですよ！　シングさんなんて大荒れだったんですからね！　アリアトって人を八つ裂きにしてやるって……」

アリアトの名前を何で……ああ、コクトウから聞いたのか。

「っ……まぁ、荒れるわな……サーガが拐われちまった訳だし……」

忘れてはいけない事が、１つ。

ユウカとサーガが、敵の手の中に在ると言う事。

サーガの安全の保証が無い、そら、シングが荒れるのも……

「サーガちゃんの事もですが、ロマンさんの事でもです」

「え？」

「……ロマンさんは、全然わかってないです。自分が周りの人にどう思われているか、ちゃんと把握すべきだと思います」

「あ、お、おう……」

あのシングが、サーガに危機が迫ってるこの狀況で、俺の事まで気にしてくれてたとは……意外だ。

……いや、今はそんな事より、

「っぐ……」

「あ、いちゃダメですよ！」

「そうだぜ、お前はアホみたいな重傷だ」

「だ、い、丈夫……イビルブーストで……」

っ……流石に、立ち上がるのは厳しいか。

それでも、弱音は吐いてられない。

ベッドから降りてコクトウを手に取ろう。

そして、イビルブーストで無理にでもをかす。

さっきも言ったが、サーガが危ない。寢てる場合じゃないんだ。

ラフィリアを探して、キリカの元へ連れてってもらおう。

そして、魔王の言っていた通り、魔剣奧義を……

そんな俺のを、無理矢理、ベッドに押さえ込む２本の手。

シェリーの手だ。

「そういうのが、わかってないって言うんです！　あなたが無茶したら、またシングさんが悲しむんですよ！　シングさんだけじゃないです……皆も…私だって辛いんですよ！？」

「っ……ご、ごめ……っげふ……」

「あ、ああああ！？　勢い良く押し過ぎた！？　ごめんなさいロマンさん！　死なないで！」

「こういう所ではドジッ子屬抑えろよクソノッポぁ！　シャレになってねぇぞ！」

「お、抑えられるなら、こういう所じゃなくても抑えてますよう！」

「だ、大丈夫だから……ゆすらないで……マジで……死……」

「わあぁぁああああ！？　ロマンさんの口からエクトプラズム的なが！？」

「そんなギャグ漫畫じゃあるまいし…ってうおぉぉい！？　お、押し込め！　早く押し込め！　の奧まで押し込め！　手で押し込んで水で流し込め！」

復活早々、また生死の境を彷徨う所だった……

「もう……無茶はしないでくださいよ……？」

「あ、ああ……」

無茶をしようとして、する前に殺されては溜まったでは無い。

それに冷靜に考えてみたら、どうしようも無いんだ。

魔剣奧義習得しても、グリーヴィマジョリティの所在がわからん現狀では。

……でも、どうする？

ユウカとサーガを守ってくれる結界はそう長くは持たない、魔王はそう推測していた。

事は一刻を爭う。

「執事長は？」

とにかく、寢ているだけよりは現狀を聞きたい。

窓の外はすっかり真っ暗、つまり夜だ。

俺がアリアトにやられてから、もう半日近くが過ぎている。

何か、執事長達の調査でわかった事があるかも知れな…

「マコトさん達なら、グリーヴィマジョリティのアジトに乗り込んで行きましたよ」

「あーそうなんだ。じゃあ今は會えな………………んんん？」

「戦力的に、攻めに重點を置く、との事で、屋敷の防衛は私とヘルさんに任された訳です」

「まぁ、連中が防衛そっちのけで攻めてくる可能は低いって話だがな。目的の拐は果たしてる訳だし」

「……ちょっと待って、アレ？　え？　ん？」

「どうしたんですか？」

「……シェリー、ごめん、もう１回言ってくれ」

「戦力的に、攻めに重點を…」

「違う、その前」

かなりの弾発言だった気がする。

「皆さんは、グリーヴィマジョリティのアジトに毆り込みをかけてますよ」

「アジトわかってたんかい！？」

「は、はい。実はですね…」

「こうしちゃいられねぇ！」

「あ！　ダメですって！　大人しくしててください！」

「アリアトの話はコクトウから聞いてんだろ！？」

まともに戦っても、奴には勝てない。

膨大な魔力を元にした再生力と、自由度の高い攻撃。

魔王が言うには、コクトウの魔剣奧義狀態なら、それを打破できるらしいが……

「聞いてます！　マコトさん達が無策で乗り込む訳無いじゃないですか！」

「え、何か策が？」

「はい、魔力切れまで殺し続けるって言ってました」

それ無策に等しいじゃねぇか！

「そんなん無理に決まってんだろって、俺っちも言ったがよ……」

「何でもっと全力で止めねぇの！？」

「いや、あいつらが、あのクソテレポートに頼んだ助っ人の名前を聞いたら、まぁそれでイケるかも知れねぇと思ってよ」

クソテレポートって……ラフィリアさんか？

助っ人って一……

「話に聞いていたより元気そうだな」

「！」

醫務室にってきたのは、キリカだ。

何か、すんごい汗かいてるし、息も絶え絶えで……すげぇ急いできたがあるが……

助っ人って、キリカか。

こいつは見た目のせいで忘れがちだが、魔剣豪の名を継承する人。

これ以上の助っ人は無いだろう。

「キリカ、丁度良か…」

最後まで、俺は言えなかった。

キリカの後ろに立つ、３つの影。

１つは、ラフィリア。

殘りの２つは……

「よう、ダチ公。本當、割と元気そうで何よりだぜ」

「……久しぶりだな、年。こういう形で再會する事になるとは、思っていなかったぞ」

「なっ……お、お前ら……」

……程な……この助っ人組の安心は、凄まじいわ。

……あれ、これもしかして、俺マジで寢てて良いパターンじゃね？