《あの日の約束を》25話 寒い夏の始まり

5月5日。この日は夏の始まりとされ、所謂初夏と呼ばれている日になります。まさに春の終わり頃で暖かさが際立ち始める時期ではないでしょうか。

しかしそんな初夏も昨今ではまだまだ寒いような気もします。

「花ちゃんおはよ〜」

「おはようカナちゃん」

花ちゃんと合流した私はし寒い空気をじながら通學路を歩き出しました。

「まだ寒いね〜」

「うん。もうすぐ夏なのにね」

寒い空気で冷えた両手に息を吹きました。流石に息が白くなるほどではありませんがやはりこの時期にしては寒いです。

「去年とかもあまり暖かい日って無かったよね? 花ちゃんがし震えてたの覚えてるし」

去年、一昨年のことを思い返しながらそう言うと隣にいた花ちゃんの頬がし赤くなりました。

「恥ずかしいからそういうのは覚えてなくて良いのに……」

「ふふ、ごめんね」

個人的に5月と言えば春の終わり頃。が暖かくて風がし寒さが和らいで過ごしやすくなる時期だとじていました。しかし最近はその春らしい日がなくなってしまったなと思いました。

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これは1、2年前の秋も同様で暑い夏がいつまでも続いていたと思えば急に冬並みの寒さが押し寄せて驚いたのを今でもよく覚えています。

春夏秋冬とは言いますが今では夏と冬が主で春と秋はその移り変わりのわずかな時期という程度にしかじられないような気さえします。

そんなふうに考えながら花ちゃんと話していると學校まであと半分の距離のところまで來ていました。

「よ!」

「おはようカナちゃん、花ちゃん。」

そこからし進んだところで後ろの方から私たちを呼ぶ聲が聞こえてきました。立ち止まって振り返ると修くんと鈴音ちゃんがこちらに歩いてきました。

學して直ぐの時は私と花ちゃんの2人で登校していましたが、1ヶ月たった今では修くんと鈴音ちゃんも一緒になって4人で通うようになっていました。

「おはよう修くん、鈴音ちゃん」

「おはよう。いつものとこで會わなかったけど何かあったの?」

修くんと鈴音ちゃんは普段學校まであと半分くらいといった場所あたりで合流していました。なのでし不思議に思った私は率直に聞いてみました。すると鈴音ちゃんが困ったような笑みを浮かべました。

「えっとね、修くんがなかなか起きてくれなくて時間がかかっちゃったの」

「いや〜寒いし眠かったからベッドから出られなかった」

修くんは笑いながらそう言い、対して鈴音ちゃんはそんな修くんを呆れた目で見ていました。

何かまずいことでもあったのなら手助けをしようと思っていました。でも修くんがただ寢坊していただけのようなので安心です。そのあとは普段通りに雑談をしながら私たちは通學路を歩きだしました。

高校での生活はやはり楽しいものですがまだまだ慣れないことばかりです。的には1日が2日に長引いたような覚になります。今日までたった1ヶ月しか過ぎてないのにまるで1年が経とうとしているかのような気持ちにさへなります。

しかし、いずれはこの高校生活に慣れてあっという間に時間が過ぎていくようにじることになるのでしょう。その時私はどうしているのかなんて考えても今はわからないのでしょう。

時間は有限で巻き戻すことはできないのです。だから私は今という時間を全力で生きていきたいと思っています。

………

……

その後學校に著いた私達はいつも通り授業をけていきました。休み時間は4人で集まって話をしたり図書室で本を借りたりしていました。

校舎での様子も當然學時とはだいぶ変わりました。最初は知り合いであろう人同士でのみ集まっていましたが、今では殆どの生徒が新しい友人を作ってあちこちでそれぞれ話をして笑ったり冗談を言ったりしています。

そんな學校での時間もあっという間に過ぎて下校時間になりました。夕に照らされた道路を私は1人辿っていました。

「1人で帰るのって久しぶりだなぁ」

3人は部活をしているところでしょう。私もいつもなら同じように部活に打ち込んでいるところでしたが今日は週に數日ある部活が休みの日でした。いつもなら時間が合わなくても皆が終わるまで待っているところですが、修くんは夏の大會に向けて忙しくなるらしく、花ちゃんと鈴音ちゃんも時間がかかるから先に帰っていてと言われてしまいました。

ということで私は普段4人で帰る道を1人で歩いていましたがやはりこうなるとある気持ちが頭に浮かんできます。それは寂しさです。修くんが冗談めいた話をしてくれて私と花ちゃんは笑みをこぼして、鈴音ちゃんは修くん相手にはし強気にツッコミをれて。こんな時だからなのか思い浮かんでくるのはそんないつもの帰宅時の様子ばかり。振り返ればまさにそんな様子の私たちが見えてきそうです。

寂しさを振り払うように視線を逸らすと公園で遊んでいる子供達が目にりました。砂場で遊ぶ子たちとそれをし離れたベンチで會話をしながら見守っている母親が數人ほどいました。子供達の方はおそらく稚園に通っているくらいの歳でしょう。

子供たちは皆楽しそうに遊んでいて、そんな様子に私は思わず『羨ましいなぁ』なんて呟いてしまいそうになりました。考えを変えようと思ってたのに結局また同じことを考えてしまっています。そう気づいた私は力したような力ない笑みを浮かべました。

「(早く家に帰ろう)」

足早に帰路を辿ろうとした時、公園の隅の遊の方に目が止まりました。先ほどまでは誰もいないと思っていたそこには小さな男の子が靜かに座り込んでいました。見たところ近くで集まっている子たちと同じくらいに見えますがあまり活発な雰囲気はじられませんでした。

し気にはなりましたがただ靜かな子なのだろうと私はそう思ってその場を立ち去るのでした。

私が立ち去った後、じっと靜かに……いえ、何かに集中していたその男の子はふと私が立っていた場所を振り向くと小さく何かを呟きました。

「あのお姉ちゃん、こっちを見てどうしたんだろう」

男の子は人差し指をこめかみにあてて考え込むようなそぶりをしました。その様子は可らしくもありますが年相応とはしいい難い景です。

「分かんない……けど、優しそうなお姉ちゃんだった」

話しかけられたわけでもなく、ただ遠くからし視線をじただけ。それでも男の子は私がどのような人間なのかを的確にじ取っていました。

「ーー明日も來ないかな」

最後に呟いたその聲はとても小さく、周りにいた人には聞き取ることは出來ませんでした。

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