《獣と共同生活!?》第二十八話 訴え
その日の夜。俺は早速計畫を進めた。
まず、──雪ちゃんを家に一度帰した。
そして、寢靜まる深夜3時。俺は、雪ちゃんの住む屋敷へと來ていた。
流石に不法侵はマズイので、門の前で待機。すると、時間通りに雪ちゃんが門の反対側からやってきた。
ギィィッと音を立て、門がゆっくり開く。雪ちゃんは、開けた門の間を通ると門を閉めた。
「すみません、遅くなりました」
雪ちゃんは、俺が待っていたのを見るとそう言った。だが、俺が來たのも10分前くらいなので、それほど待ってはいない。
「大丈夫。それより、誰にもバレずに出來たか?」
「えぇ。ちゃんと部屋には手紙を置き、誰にも見られずに來ました」
そう言いながら、雪ちゃんは屋敷を見る。燈りも全て消えており、言った通りに部屋の窓だけは開けてきてくれていた。
俺の計畫は、簡単に言えば親さんが雪ちゃんをどう思っているか。それを明確にするだけのものだ。
しかし、人の気持ちはそう簡単に分かるものではない。ならば、どうすればいいのか?
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大切か大切ではないか。それは無くせば分かるのだ。
人間、そこまで大切ではなければ、無くなっている事すら分からなかったり、他のもので代用したりなど別の方法を探したりする。
しかし、本當に大切なものだとそうはいかない。必死に探したりしてしまうものだ。
今回の場合、雪ちゃんには自分で置き手紙を描いてもらい、それを部屋に設置。
容としては、場所と今までありがとうとだけ書いてあるだけ。そんな不自然な手紙だが、不安を煽るなら十分過ぎる文だ。
そして、俺と雪ちゃんはその場所──昨日出會った海岸の茂みにテントを張り、來るタイミングを見計らう。
更に不安を出してもらう為、雪ちゃんには予備の靴を持ってきてもらい、崖に靴を設置。周りから見れば、誰かが自殺をしたように見える様にしたのだ。
「しかし、この作戦で本當に大丈夫なのですか?」
「恐らくな。まぁ、來るかは親さん次第だがな」
雪ちゃんは、テントについてすぐにそう聞いてきた。
俺は斷言したものの、実際は不安だってある。
もし、ここで警察を頼ってしまったら?使用人しか來なかったら?そんな不安が。
しかし、俺は信じる。雪ちゃんの親さんは、きっと雪ちゃんを大切に思ってくれている。必ずここに來る、と。
しかし、寢靜まった今では來るはずもない。ここは朝に備え、仮眠を取ったりした方がいいだろう。
「とりあえず、計畫は日が登らないと始まらない。それまでは仮眠を取るといいよ」
俺は雪ちゃんにそう言うと、コクリと頷いてくれた。
テントには寢袋が2つ。ベットや布団は用意出來なかったが、そこはなんとか我慢してもらうしかない。
しかし、雪ちゃんは寢袋が初めてなのだろう。寢袋の使い方を教えている途中、ずっと目を輝かせていた。
そして、雪ちゃんはテントにり、俺は木で念の為に海岸を確認。いつ來るか分からないので、一応寢ずに監視を続けるとするか……。
そして、午前10時。すっかり日は登り、恐らくあちらも手紙に気付いてはいるだろう。
晝まで寢ているのは考えにくいので、判斷基準は晝までに來るか。もしかしたら夕方かもしれないが、する娘ならば直ぐにでも來るだろう。
すると、慌てる足音が2つ。良かった、しっかり來てくれた様だ。
そこには、雪ちゃんの両親らしき人が2人。崖に靴があるのを見つけると、急いでその靴を手に取った。
……そろそろ、か。
敢えて分かりやすく草音を立て、注意を引く。そして、俺はゆっくりと2人の前に出た。
「……誰だ、君は」
警戒心剝き出しの父親。そりゃ、こんな時に怪しい男が現れたら誰でも警戒するよな。
俺は平然な顔をして、2人に頭を下げた。
「初めまして。雪さんのお父様とお母様……でよろしいでしょうか?」
その言葉を聞いた瞬間、警戒心から別のに変わったのがすぐに分かった。
これは、俺に怒りを向けている。
登場のタイミング、第一聲が雪ちゃんの事。事を知っている者でなければ、こんな偶然など起きないだろう。
そして、父親は怒りを聲に乗せて俺に話しかけた。
「貴様……、雪に何をした?」
「いえ、何も。ただ、彼の嘆きを聞いただけです」
「嘆き……だと?」
その言葉に、父親は戸いを隠せない様だった。
そして、俺は確信した。雪ちゃんは、この親の元に居るべきだと。素直になれない親だが、大切にしてくれている……と。
しかし、俺が分かっても雪ちゃんが納得するまでは付き合うつもりだ。雪ちゃんだって、きっと素直になれないだけで、本當は気づいているのかもしれないが。
俺は一呼吸置いた後、父親の目を見て話し始めた。
「雪さん、とても悩んでいました。もしかしたら、私は要らない存在なのかもしれない。そんな事も言っていました」
「雪……どうしてそんな事を……」
今まで口を開かなかった母親も、聞かずにはいられないくらいの衝撃だったのだろう。暗い表のまま、そう呟いていた。
「雪さんは、貴方がた2人のとある呟きを耳にしました。それから、貴方がたからされていないのではないか……と、思うようになったそうです」
「私達の……呟き?」
「えぇ。パーティがあったある日、『あの子は私達の役に立っている。これからも私達のためになってくれなければ』。そんな言葉を呟きませんでしたか?」
「──ッ!」
心當たりがあったのだろう。2人は青ざめた表になり、やがて膝から崩れ落ちてしまった。
しかし、これで辭めてはいけない。2人の本心を言葉にしてもらうまで、俺は訴えかけ続ける。
「その結果、雪さんは親のり人形──駒なのではないかと考え始め、最後にはこの様な事になってしまった訳です」
膝をつき、母親は泣き崩れ、父親はを噛んでいた。
人の心は脆い。心にも思っていない言葉、たまたま聞いてしまった言葉、勘違いで自分に対してと思ってしまった言葉。そんな一言で、心はいともたやくす折れてしまう。
そして、その折れた心を癒すのは難しい。謝罪などで済む問題ではないのだ。
しかし、今回は癒せる筈だ。勘違いをしっかり訂正し、雪ちゃんはされていたのだと分からせる。今回はまだ傷が淺かっただけだが、もうし時間が遅ければ、取り返しのつかない事になりかねなかっただろう。
「私は雪さんの家庭を知りません。どの様な生活をし、どの様な會話をしていたのか。しかし、一つだけわかる事があります」
「……教えてくれ。私は……どうしたら良かったんだ……?」
父親は、やがて俺に縋る様に聞いてきた。
しやり過ぎたがするが、これで雪ちゃんも分かってくれた事だろう。
そして、俺は優しい笑顔を2人に向け、こう言った。
「もし、雪さんが帰ってきたら今まで以上にして下さい。もう、貴方がたの元を離れたくないと思える位に」
その言葉を聞き終えると同時に、2人は大きな聲で泣いた。『雪』と、名前を呼びながら。
隠していたテントの方へ視線を向けると、雪ちゃんも泣いていた。聲を必死に出さない様に、渡した枕を抱きしめながら。
その後、雪ちゃん達は仲直りした。
雪ちゃんが自分だと思っていた聞き間違いは、どうやら他の企業の話らしく、仕事が忙しかった両親は雪ちゃんに冷たい態度を取りがちだったらしい。
雪ちゃんも、両親も暫くは泣きながら謝りあっていた。そして、していると伝え合っていた。
俺はそれを見守った後、雪ちゃんに招待されてお屋敷に。両親からも手厚く歓迎された。
そして、その夜。俺は、案された部屋のベランダで夜空を見上げていた。
脳裏には華さんの出來事が浮かび、俺は気づいた。
──そうか、華さんを助ける方法。上手くいくかは分からないが、やってみる価値はある……!
そう決意し、俺はベットにって寢るのであった。
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