《無冠の棋士、に転生する》第16話「つくもん」
「桜花、何か言うことは?」
「ごめんなさい」
「まったくまったく。私とても心配したんだよ。桜花がロリコンに拐されたり、ヤンキーに絡まれたり、階段からすっ転び落ちて怪我したり、トラックにはねられて異世界に転生したりしたんじゃないかって!!」
「いやいや、さくら。流石に最後のはファンタジーが過ぎるわ」
「ルナは黙っててっ!」
「はい……」
場所はショッピングモールに出店している有名飲食チェーン店の中。機を囲い、晝食が運ばれてくるのを3人で待っている。
私の対面では、私に叱られた桜花がショボーンと俯いている。それを桜花の隣に座るルナがかばっている形だ。
あれから私は待てども待てどもトイレから帰ってこない桜花を心配して探して回った。ルナには桜花が自力でアニメイトまで戻ってきたときのために留守番しててもらった。
迷子センターやインフォメーションセンターに行って迷子がいないか探してもらったり、ゲームセンターや可いものショップ(英語の店名なので私は読めない)などの桜花がふらふらと立ち寄りそうな場所全てを回ってみた。桜花のスマホに連絡しても全然出ないし。まったくまったく何やってるの、と焦りと不安で頭が真っ白になった。
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一人で行かせるべきでなかった。桜花はまだ小學一年生なのだから付いてやるべきだった。そんな後悔が生まれ始めていた時、一通の通知がスマホにる。ルナからだった。それは桜花が戻ってきた、というメッセージだった。
「桜花が方向音癡なのは私が一番知ってる。でも方向音癡なのはしょうがないとして、困ってたら連絡してよ」
「にゃはぁ、スマホ持ってたの忘れてた……」
「まったくもう。……それで、一時間近くずっと迷子でさまよってたの?」
「ううん。変なお姉さんと將棋してた」
「「はい?」」
私とルナが同時に素っ頓狂な聲を出す。
変なお姉さんと將棋してた。まるで意味がわからない。えっ、桜花は一全何してたのか。
そのあと桜花から迷子の間の話を聞いたが、さっぱり理解できない。二十歳の子供ファッションお姉さんが大金はたいてガチャガチャしてて、そのガチャガチャで揃った將棋セットを使って將棋を指した。桜花の作り話だと思う方が無理がない気がする。
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「これしょーこ」
そう言って桜花がポケットから取り出したのは飛車と書かれた服を著ているフィギュア(ガチャガチャサイズ)。いや、まあこれだけだと桜花がガチャガチャしただけだろと思うが、しかし桜花は絶対こんなイロモノ買わないんだよなぁ。私なら買うかもしれないけど。
「まぁ、優しいお姉さんで良かったじゃない。ねぇ、さくら」
「何言ってるのルナ。これは事案だよ。私の可い桜花が知らないおばさんの手に落ちる所だったんだよ!!」
「あなたが何を言ってるのかルナにはわからないわ!? あと二十歳のお姉さんにおばさんは失禮と思うわ」
「そもそも子供ファッションってなに。ケモ耳パーカーを大人で著てるとかイタイだけじゃん! そんな格好してる人が優しい人なわけない! 通報通報!」
「あっ、これ興しすぎて何も耳にらないやつだわ」
きっと私の桜花を手篭めにして拐するつもりだったのよ。桜花と將棋で友を深めて、懐いたその隙にハイエース。間違いない。桜花の話だと一人稱が「ぼく」らしいし、もうかして裝した男なんじゃないかな。今すぐ110番しよう。変態死すべし慈悲はない。
「ちょっと桜花ちゃん。あなたのお姉さん暴走してるわ。何とかして」
ルナが桜花に耳打ちをする。聞こえてるよ。別に暴走してないし。こら桜花。コクリってなに。だから暴走してないから。
桜花が私の方へを乗り出した。
「おねぇ、心配かけちゃってごめんね。今度から気をつけるから落ち著いて、大好きだから」
「…………でへへ、しょーがないなぁ」
桜花に両手を握られ、首をコテっと橫に傾げて大好きと言われたら何でも許してあげちゃう。ちょろいぞ私。
「とにかく、今度からは気をつけてね。この世界は変態ばかりなんだから」
「おねぇみたいに?」
「そうそう。……って、私は変態じゃないから!」
ノリツッコミのスキル獲得……功しました。
流石賢者さん。仕事が早い。……冗談です。最近観たスライムアニメの影響です。あのアニメ桜花はあまりハマってくれなかったけど、私は好き。
「はい、梅雨の晴れ間風ペペロンチーノでお待ちのお客様。お待たせしました」
「ルナのだわ」
ルナが注文した料理が屆いた。どっからどう見ても普通のペペロンチーノだ。梅雨の晴れ間風って何。貴重ってこと?
「それから、南國のデイライト風お子様ランチでお待ちのお客様」
「はーいはい、わたしのー」
続いて桜花の料理。ロシアの國旗が刺さったお子様ランチだ。南國とは一……。
「そして、カツ丼でお待ちのお客様」
「あっ、はい」
最後に私のカツ丼。コメントのしようがないくらい普通だ。しいて言うならこれ親子丼だと思う。
ごそごそとルナがカバンを漁る。何を探してるのだろうかと思っていると、スマホが出てきた。そしてパシャと寫真を撮った。これが噂のインスタ映えってやつか。被寫はただのペペロンチーノにしか見えないけど、これインスタ映えするのかな。
「せっかくだしみんなの寫真撮るわよ」
ルナはスマホを遠くに離して、自撮りのようにする。私と桜花が畫面にるようにして寫真をパシャりと。
「えへへ、いいじだわ。あとでグループラインに上げておくわね。ついでに角淵に自慢しよっと」
哀れなぶっちー。
でもなんだか角淵に寫真を送るルナは楽しそうだった。ドSなのかな。
「ルナってなんだかんだ言って角淵くんと仲良いよね」
私に問われ、ルナはキョトンとした顔をして。
「……えっ、何言ってるのさくら。眼科に行きたいのかしら?」
「今も角淵くんに嬉々として寫真送ってたし、それに角淵くんとルナって馴染だよね」
「……たしかに角淵とは馴染だけど」
ルナは苦蟲を噛み潰したような表で、嘆息をつき言葉を続ける。
「あいつはただのパパの弟子よ。生意気でムカつく……ね」
「ふーん、そんなものなのか」
「そんなものよ。それより早くご飯食べましょう。ちんたらしてたらイベントに遅れるわ」
桜花が角淵を嫌いな理由は大會で負けて嫌な思いをしたからという子供っぽい理由なのだが、ルナはなんか違う気がする。
これは……もしかしたら嫉妬なのかもしれない。角淵が父親の弟子になって、大好きな父親を取られた……そうじたのかもしれない。
一度付いた嫌悪はそう簡単には拭えない。忘れるくらい長い年月が経つか、それか嫌悪の本自がなくならない限り。
「さすがに妄想が過ぎるか……」
「ん、おねぇ親子丼食べないの?」
「いやいや、これはカツ丼だから……。いただきます」
桜花に急かされて、私はカツ丼に手をつける。
うん、これは親子丼だ。
■■■
時間は一時十五分。
イベント開始まであと十五分と迫っていた。
會場には子供からおじいちゃんまで、多くの將棋ファンが詰めかけていた。用意された椅子は全て埋まっていて、二階や三階からも多くの人が立ち見している。
「もぉ〜、おねぇが食べるの遅いから座るところもう無いじゃん」
「そのあとルナがトイレに引きこもってたのも原因だし」
「桜花ちゃんだって、また迷子になってたでしょ」
三者三様。他人のせいにする。
でも私は一番悪くないと思うよ。カツ丼が多いのが悪いし。うんうん。
しかしこの混み合だと一階は無理かもしれない。
私達の長だと前の方を譲ってもらわないと見えないもんなぁ。
「どうしようか。二階からみる?」
「ふふふっ、さくら。ルナを誰だと思ってるの」
「……ルナはルナでしょ」
「そうルナはルナ、パパプロの娘よ。見せてあげるわ。『コネ』の力……をね」
ルナが自信満々な様子で不敵に笑う。
……あっ、こら桜花。フラッとどこかに行かない!
ルナに連れられて向かったのは控え室のテント。
えっ、今開幕前で一番忙しい時間でしょ。っていいのかな。
ってうわぁ、正面から堂々とっていった!
「パパ〜、お疲れ〜」
「る、ルナぁ!? 今日來るっていってなかったよね」
「サプラ〜イズだわ」
ギュッとルナの父親――神無月稔さんに抱きつくルナ。
なんかルナ格変わった?
聲もいつもの落ち著いたじではなく、テンション超高め。
「お、おじゃましまーす」
「……まーす」
こっそりと私たちもルナに続く。
急なたちの襲來に驚きを隠せない運営の方たち。本當に申し訳ないです。
「神無月先生。その子たちは……」
「すみません。オレの娘たちです。……ルナに、後ろの子は友達かい?」
「そうよ。彼たちがあの『空亡』姉妹だわ」
「…………ほお」
ん、なんか神無月七段から見られてるんだけど。もしかして怒られる?ちょっと桜花。逃げましょうか。
……あれ、桜花?
「つくもーん!」
「うひょっ!?」
いつの間にか私のそばを離れていた桜花。
子どもらしい純粋な笑みを浮かべて、桜花が指差す先。
味しそうにケーキを食べる、つくもん――武藤九十九九段がいた。
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