《無冠の棋士、に転生する》第17話「夢は大きく」

「こらこら桜花。人様を指差しちゃメッ!」

私は桜花を確保する。すぐにふらっとしちゃうの悪い癖だよ。

つくもんは私と桜花を興味深そうに見比べる。

「……同じ顔が2つ。これはアレですか。雙子ですか。それにしても、あ〜可の子ですねー。んー、ベリーキュート。今日はわたしのイベントに來てくれたのですか?」

「そだよー。つくもん握手してー」

「握手してあげたいのは山々なのですが、……そう、今お弁當食べてて手がベトベトしています。もうしお待ちを」

つくもんは丁寧におしぼりで手を拭く。

そしてシワが刻み込まれた手で桜花と握手をする。

えへへ、となんとも嬉しげな表で桜花は笑う。

桜花と握手し終えたつくもんは私の方へ目を移す。

「キミも握手するかい?」

「えーっと、私は……」

返答に困る。正直握手はしてもらいたいが、こんな押しかけてきたような狀況で握手をしてもらうなど図々しいにもほどがある。

不敵な子どもならともかく私は大人だ。中だけだけど。厚かましい真似は心が痛くなる。

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「武藤先生、そろそろご準備を。ルナも忙しい時に來ちゃダメ。わかった?」

神無月先生が介してきた。

そもそも私達がここにきた時點で開幕15分前と、かなりドタバタし始める時間だったはずだ。そんな時に子小學生の集団が來たのだから迷千萬極まりないだろう。本當にごめんなさい。

「パパー、あのね。ルナ達座るところないの」

「あぁ、それが本題か。わざわざルナが私に會いに來たのにはわけがあるとは思ったが……」

そう、私達は別に邪魔しに來たわけではない。會場に著くのが遅れたのでコネを使ってどうにかしようとしたのが、この騒の原因だ。周りのスタッフが子どもを見守る優しげな目で見ててくれるから良いが、もうし私たちが分別のつく歳ならめちゃんこ怒られてたはずだよ。

「でもごめんねルナ。娘だからといって贔屓するわけにはいかないんだ」

「えぇ〜」

まあ當たり前だよね。

この超満員の會場のどこに新しく席を作るというのか。すでに座っている人の席を盜るなんて事はありえない。そんな事をすれば批判殺到だろう。

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「神無月くん、ならあそこに座ってもらうのはどうでしょうかね」

私たちが諦めて退散しようとした時、つくもんが1つの提案をしてくれた。

■■■

つくもんのトークショーは盛況のうちに幕を閉じた。私たちはそれを特等席で見せてもらった。桜花なんてずっとキラキラした眼差しでつくもんを見ていたからね。

「でも流石にこれは恥ずかしかった」

「そうかしら。ルナは慣れてるわ」

つくもんの提案により私たちはいわゆる関係者席に座らせてもらった。一般の観客席から「あの子達なんだろう」って視線がビシビシと突き刺さってきた。恥ずかった。

「ねぇ、おねぇ。早く並ぼうよ」

「もうし待たない? あれに並ぶの嫌なんだけど」

という事で現在はサイン&握手會。

販で買ったセンスや本につくもんがサインを書いてくれるのだ。

桜花は早く並びたそうにウズウズしている。

「先著順ではないし、ゆっくり待ちましょう。暇ならルナとスマホで將棋でも指しまょ」

「やー。わたしはもう行くもん」

「あっ、こら……」

桜花はあっという間に列の向こう側へ消えていった。

なんか本當に最近姉離れが進んでる気がする。

お姉ちゃん寂しくて心折れそう。

「さくら、一人で桜花ちゃん行かせて良かったの?」

「まぁ、一応列の最後尾はここからでも見えるし大丈夫じゃないかな。ロリコンがもし近づいたら、私がダッシュして両足で蹴りつけるし」

「……あなたって見た目によらず男の子っぽいわね」

「えっ!? そ、そんなことないよ」

キョドッて聲が上る。

だいぶの子らしく振舞ってるつもりなんだけど、やっぱり前世のがたまに出ちゃうのかな。玉だけに。

「桜花ちゃんから聞いたけど、あなた學校では子より男子と遊んでるらしいわね」

「桜花そんなことまでルナに話したの?」

先生方からはわんぱく娘とあだ名されてる私です。雑巾と箒で野球やっただけなのにね。窓ガラスだって一回しか割ってないし。

「まったく。あなたは可いのだから、今日みたいにちゃんとおしゃれして、お淑やかに振る舞えばモテると思うのだけど」

「いやー、別にモテたくないし」

ルナが私の頬をってくる。

ナニコレ、ドキドキが止まらない。

多分背景に百合の花が咲きれてるよきっと。

んー、やっぱり男の子は友達としては良いけど対象としては無理かなぁ。神的な問題で。

まだこのいからそう思うだけで、思春期になったら男の子にしたりするのだろうか。いやー、考えたくない。

「まっ、そんなことよりルナ。將棋しよ」

「はぁ……。私も人のこと言えないけど、あなたも重度の將棋オタクね」

スマホを作して將棋アプリを立ち上げる。

ルームマッチを開いて、パスコードをルナに教えてルームにってもらった。

ルナが先手で角道を開けてくる。

お得意の三間飛車だろう。

「そういえばルナってどうして將棋始めたの?」

「パパの影響よ。パパがテレビで將棋指してる姿がかっこよかったから……」

思ってたより普通の理由だった。

子どもが親の真似をして育つ典型的な例だね。

おっと、危ない危ない。ルナの攻めはちゃんとけないとまた大會の時みたいに戦になってしまう。

「逆に聞くけど、あなたはどうして將棋始めたの? の子が將棋を自分から始めるってとても珍しいわ」

「んー、私は……」

前世の因縁。

魔王の世代に阻まれ屆くことのなかったタイトルの座。

私が今世でも將棋をしている理由。それは前世で葉わなかった夢を葉えること。

將棋界のタイトルの奪取。

そして前世では彼が君臨し続けたタイトルの最高位――

「『名人』になりたかったから」

「名人? それは……流名人ではないのよね?」

「うん。私が將棋を始めた理由で、そして目標……。將棋界最強とタイトル『名人』がしい」

「……私あなたのこと変人だ思ってたけど、大変人の間違いだったわ」

「ひどい」

ルナの言いたいこともわかる。

名人になるにはまずプロになり順位戦を勝ち抜いてA級順位戦と呼ばれる場所まで辿り著かなければならない。

そして今までプロになった棋士の中にはただの一人もいないのだ。

それになりたくて將棋を始める児など大変人と言われても仕方がない。

の子がプロになるのは大変よ?」

「知ってる。でも私はなるよ」

前世でできたことが今世でできないわけがない。

むしろ私は前世よりも強くならなければならないのだ。

なにせ今世は同年代に角淵達……そして彼・もいるのだから。

「ルナは流棋士になりたいんだよね?」

「そうよ」

「……ルナは流で満足なの?」

「……だってそれが普通よ。の子と男の子の差は歴然だってパパが言ってるもん」

將棋の世界において男の差は歴然。

差別ではなく、これは結果から導き出される結論なのだ。

過去に誰一人としてし遂げてない。

だから――無理。

――でも、そんなことあってたまるか。

過去に誰もし遂げでないなら、自分が最初の一人になればいい。

どんな偉業も最初の一人が功するまでは、無理だと思われていたのだ。

どうせやるなら頂點を目指さなくちゃ。

「ルナ。私と一緒にプロになりましょう。將棋は一人じゃ絶対に強くなれない。だから一緒に強くなって、プロになりましょう。流ではなく、本のプロ棋士に!」

「プロに……」

ルナは唖然と私の顔を見つめる。

はプロになれない。將棋を始めた頃からプロである親に言われてきたのだろう。

確かに常識的にはそうだ。でも常識は時間が塗り替える。

今の常識が未來の常識であるとは言えないのだ。

「ふふふっ……」

ルナが微笑する。

おっ、私の言葉に心かされたのかな。

さすが私。40代の大人の語彙力だね。

名言すぎてメモ帳に保存し――

「とりあえず――私に勝ち越せるようになったら考えてあげるわ」

そう言ってルナがスマホをタッチする。

うーん、あれこれ王手……。

あれちょっと待って。これは……こうしてこうして…………詰んでるやん。

ないよぉ〜。

逃げ道ないよぉ〜。

「ひぎゃっ!?」

「おしゃべりに気を取られすぎよ」

し、しまった。

ついおしゃべりに気を取られすぎて頓死してしまった。

キャバクラで年下のの子に囃し立てられて、気持ちよく喋ってつい高いお酒を頼んでしまった気分だ。そんな験したこと無いけど。

「まったく。何がプロよ」

「いいじゃん。どうせ目指すなら目標は高くいこうよ。それにプロになったらルナのお父さんと戦えるよ」

「……あぁ、いいわねそれ」

「でしょー。だから一緒にプロになろうよー」

「……私に勝ち越せるようになったら考えてあげるわって言ったでしょ」

大會では私が勝ったけど、ネット対戦も含めると総合では私が負け越してるもんなぁ。

角淵もだけど、私の同世代強すぎじゃないかな。いじめかな。いや、むしろギフトか。

強い人と戦えるギフト。

「よーし、じゃあルナもう一回しよ。今度は絶対勝つから!」

「はいはい、何度でも対局してあげるわ」

こうして私とルナは結局桜花が帰ってくるまでずっと將棋をしていた。

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