《無冠の棋士、に転生する》第21話「評価」
空亡姉妹とつくもんの將棋の決著を遠巻きから3人は眺めていた。
プロ棋士神無月稔、その娘神無月ルナ。
そして、フードを深くかぶり意味深にクスクスと笑うユサ。
「ひひひっ……クスクス……イイね、やっぱりイイよ……」
「いきなり気持ち悪い笑い方してどうした?」
「先輩、今の將棋みてたでしょ。あの子……桜花ちゃんはやっぱりイイよ!」
「お前知り合いだったのか?」
「まーね……。というか先輩こそあの子のこと知ってるの?」
「……ルナの友達だ」
ユサの問いかけに神無月稔が、し考えてからそう答えた。
その答えに口の端を釣り上げて、神無月稔の近くにいるルナを見ながらユサは愉快げに笑う。
「そっかそっかー。ルナちゃんの友達なのかー」
意味深に頷きながら、しかし、ユサの瞳は再び桜花を映して離さなかった。例えるならば、獲を見つけ襲いかかる前の獣のように。
「先輩、あの子の他の棋譜持ってませんか?」
「……あるにはあるが」
「ください」
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太々しくユサは両手を突き出し催促する。
しかし、神無月稔は嫌そうに口元を歪ませる。
「お前に渡すと嫌な気しかしないのだが」
「えぇ〜、純粋無垢なボクが悪さするわけないじゃないか。単純な好奇心だよ」
ケラケラとフード越しに笑顔を垣間見せる。何か企んでいないわけがない、そんな笑顔を。
「では換條件でどうかな。先輩は今、娘のルナちゃんの師匠候補を探してる。もし先輩が棋譜をくれるのならボクから近衛さんに話しを繋いであげてもイイよ」
「!?」
その提案に真っ先に反応したのはルナだった。
「あの近衛流三冠ですか?」
「もちろん。君もボクのことを知ってるなら彼のことも知ってるはずだよね。近衛さんは今までは弟子は取らなかったけど、この前喋った時にポツリと『弟子取ろうかな』って言ってたんだよね。先輩の娘である君なら近衛さんにもを張って推薦できるしね」
流棋士を目指す者なら誰もが憧れる存在である近衛流三冠。
ずっと流棋士になることを目指してきたルナにとっても、彼は憧れの存在であった。
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そんな存在に弟子りの話を繋いでもらえるなど願っても無い話だ。
しかし。
「…………」
「友達は売れないか。小ちゃいのに義理堅いな。まぁ先輩、気が向いたら棋譜送ってきてください。いつでも待ってまーす。…………あっ、でも」
そのまま立ち去ろうとしたユサだったが、クルッとを翻し。
「もう1人の子の棋譜はいらないかな。あの子は將棋のお勉強はしっかりしてるみたいだけど…………、ボクは秀才ちゃんにはこれっぽっちも興味ないから」
愉快に、楽しげに、ユサはそう語った。
まるで食べの好き嫌いを語るかのようにあっけらかんとそう言ったのだ。
「にひひっ、次會う時を楽しみにしてるよ桜花ちゃん」
喜に満ち、おしそうに綻ぶ顔でユサはつぶやく。
そして立ち去るその後ろ姿に、神無月稔は思わずため息をついた。
「ルナ、彼の印象大きく変わっただろ」
「……うん。まさかあんなめちゃくちゃな人だったなんて……。テレビだと無口で儚げで清楚なイメージだったわ」
「テレビだと貓被ってるからな。どんなキャラがメディアけするかわかってやっているんだ」
神無月稔は頭をかきながら答えた。ユサのあのギャップに何度も苦しめられた記憶が蘇る。
それを聞いたルナは心底疑わしげな顔つきになる。
テレビで見るイメージと実際會った本人の乖離。その答えは。
「あの人って実は2人いるんじゃないかしら」
「それは面白い考えだね」
神無月稔はルナの頭をくしゃくしゃのでる。
でられるのが嫌な貓のように首を振りルナはその手から出する。
「パパ、桜花ちゃんの棋譜渡さないでね」
「いいのかい? せっかく近衛先生にコネを持てるチャンスなのに」
「別に構わないわ。ルナはあの人に桜花ちゃんを渡したくないの」
ルナは直的にユサが桜花にとてつもない影響を與えそうな気がしたのだ。桜花にユサを近づけてはいけない、確証のない予がチリチリとルナのに生まれた。
「ルナがそうむならそうするよ。パパはルナの味方だからね」
「ありがと、パパ」
「うん。じゃあほら友達が待ってるよ」
神無月稔が指差す先。
つくもんとの軽い想戦が終わり、ルナに手を振ってる雙子姉妹がいた。
「パパは片付けと打ち上げがあるから今日はし遅くなるからね」
「ん、わかったわ」
ルナは父に別れを告げ、友達の元へ走っていった。
■■■
「ルナ、おまたせ。負けちゃった」
「あら、さくら。まさか勝つ気でいたのかしら?」
「途中、これ勝てるかも、って思ったけどやっぱり甘くなかったよ。桜花と一緒なら勝てると思ったんだけどね」
転生を自覚して2年とし。
私も桜花もかなり長したとは思ってたけど、まだまだだね。
もっと強くならなくちゃ。
「…………」
つくもんに負けてから桜花はずっと拗ねてる。
私以上に勝つ気満々だったのだろう。
そんな自信過剰ちゃんには、ほっぺツンツンの刑だ。
「ツンツン」
「…………」
「ツンツ――」
「――おねぇ、邪魔」
「ごめんなさい」
いやー、子どもはの起伏が激しいね。
ご機嫌斜めの桜花ちゃん。みんなハラハラ。
私も負けず嫌いだけど、最近は桜花も私に似てきてとことん負けず嫌いになってきたんだよね。
まぁ、負けて不機嫌な時は心の中の整理がつくまで放置が一番。私だって負けてイライラしてる時は話しかけられたくないもんね。
「さて、これからどうしよう。ルナはやりたいことある?」
「んー、特に考えてなかったわ。ママはアロママッサージ屋さんにいて、まだまだ時間かかるみたいだわ」
おおマダム!
マッサージ屋さんに行くのがマダムなのかは知らないけど、取り敢えずロシア系がアロママッサージけるの容易に想像できる。偏見だけど。
「んー、じゃあ……」
辺りをし見回しながら考える。
マッサージがどのくらい時間がかかるか分からないけど、2時間以上ではないと思う。
となると映畫は時間がオーバーしてしまう可能が高いし……。
ふと一つの看板広告が目に付いた。
「じゃあゲーセン行こうか」
「ゲーセン……って何かしら?」
「えっ、知らないの!?」
お嬢様はゲームセンターに行ったことがないようですよ、爺や。
まぁ、それはそれは。清廉潔白なお嬢様を大衆娯楽に染めるチャンスですぞ、婆や。
脳お爺さんとお婆さんがそんな會話を繰り広げる。
「よーし、じゃあ連れていってあげる。桜花もいいよね」
コクリと桜花はうなづく。
桜花の同意も得られたことで早速ゲームセンターに向かう。
都會にはゲームセンター専用の建があるらしいね。
ここは田舎だからショッピングモールの片隅に區切りもなく広場があるだけだけど。
「ここゲーセンって言うのね。見たことはあったけどったことはなかったわ」
「よーし、じゃあ定番のこれからやろー」
ゲームセンターといえばやっぱりレーシングゲーム。
そしてお子ちゃまでも楽しめるレーシングゲームといえば、排水管工事のおっさんが何故かレーシングカーに乗ってカメやキノコとレースする――『マリカー』だ。
「ねぇ、さくら」
「どうしたのルナ」
「私免許持ってないわよ」
「ゲームだから大丈夫だよ!?」
という一幕がありながら、3人でアーケード版のマリカーをすることにした。
ちなみにみんな背が低くてアクセルに足が屆かないので補助付きだ。
このゲームは多種多様なキャラから使用するキャラを選びカーレースをするゲームだ。
キャラによって乗る車の個が違い、軽いキャラほど加速能力が高く、デ――重いキャラほど最高速度が高いのだ。
私はキャ用達のヨッ◯ー。
中量級で緑の二足歩行しているカメ。
バランスの良い能をしている。
桜花はキ◯爺。
軽量級で擬人化したキノコの爺さん。
初速の速さと小回りの効気安さが特徴だ。
そしてルナはクッ◯。
重量級でトゲトゲの生えたデカイカメ。
見た目通り重いので、ぶつかり合った時に相手を吹き飛ばすことができる。
「ルナ、ルール分かった?」
「大丈夫よ。ここにルールは書いてあったから」
筐にチェーンで繋がれてるペラッペラの裏表一枚の紙を見せてドヤ顔をするルナ。
その紙って容薄すぎて読むより実際にやって覚えた方が早いことで有名な気がする。
「……取り敢えずやろっか」
マリカーのルールはシンプル。
々なコースがあって、そのコースを先に三周した方の勝利だ。
相手の邪魔をするアイテムだったり、加速するアイテムを駆使して相手よりも1秒でも早くゴールにたどり著くことを目指すゲームだ。
ゲームが始まる。
私と桜花は家庭版を遊んだことがあるので、コンピューターとも互角にレースを繰り広げた。
初心者のルナはやはりというか最後尾で1人でツーリングしていた。
レースに參加してるとは言い難いが、それでも四苦八苦しながら楽しそうにハンドルを回しているので良かった。
結果は1位が私、3位桜花でドベにルナ。
「あーもー、コンピュータに抜かれたの悔しー」
桜花はゲームをして気分転換がしたのかご機嫌斜めタイムが終わったようだ。
プンプンしてるが、ゲームで負けた時の平常運転なので何も問題ない。
「ルナ面白かった?」
「ええ、とても! 本當に車を運転してるようだわ。もう一度しましょう、いいでしょうさくら」
ルナお嬢様はだいぶお気に召した様子。
私の心の中の爺やと婆やも喜んでいますぞ。
それから何度か遊んだ。
最初は1人でツーリングしていたルナも、3回目くらいにはレースに食い込めるようになり5回目には遂に。
「やったわ、さくらに勝ったわ!」
「ずっこい! 桜花と結託して私ばかり邪魔するなんて!」
ルナと桜花が協力して集中的に私の邪魔をしてきたせいでルナに抜かれてしまった。私の橫で「おねぇ、ごめんね〜」と桜花が煽ってくる。ムキっ。
協力があったとはいえルナの長は目まぐるしい。長速度が半端ない。やはり天才か。
ひとまずこのゲームはここで切り上げる。
次は何しようかなと考えていると。
「さくら、あのゲームは何?」
ルナが指差す先には太鼓を使うとても有名な音ゲーがあった。
子供から玄人まで多くの人にされるあのゲームだ。
「次はあれにしようか。面白いよ」
それから1時間ほど私たちはゲームセンターで時間を潰した。
初めてのゲームセンターをルナはとても楽しんでくれたようだった。
ちなみにルナはリズムがないようだ。
音ゲーの績が壊滅的だった。ちなみにルナにも苦手なことがあることがわかって安心したのは緒。オシャレで將棋もできてなパーフェクト星人でも苦手なことがあるって分かって、遠い世界の人じゃないんだなって。
「ん、ママから連絡きたわ。そろそろ帰ろうだって」
「わかった。桜花、帰るよー」
絶賛プリキュアのゲームをやっている桜花から「もうしー」と返答がきた。前世私が子供の頃はカブトムシとクワガタのゲームが流行ってたっけ。10年ちょいで々な種類が出たらしい。100円れてね、カードがもらえるよ。
「……ねぇ、ルナ」
「なーに、さくら」
「今日はってくれてありがとね。桜花も喜んでたよ…………もちろん私も」
し恥ずかしいけど、私は謝を言葉にした。し顔が熱くなるのをじる。
今日ルナがってくれたからこんなに楽しい日になった。
友達と一緒に遊びに行くってこんなにも楽しいんだって知らなかった。
桜花とはよく遊びに行くけど、學校の友達とは遊びに行ったことなかったし。
「……ふふっ、ルナも楽しかったわ。また今度っていいかしら」
「もちろん!」
私が即答するとルナも嬉しそうに微笑む。
ルナちゃんまじ天使。將棋の時は鬼だけど。
そんなこんな話しているうちに桜花もゲームを終えて私たちの元へ帰ってきた。
ほくほくと満足げな顔だった。
家に帰り著くと私も桜花も急に電池が切れたように意識を失ってしまった。
今日ははしゃぎ過ぎちゃったみたいだね。
反省反省。
人類最後の発明品は超知能AGIでした
「世界最初の超知能マシンが、人類最後の発明品になるだろう。ただしそのマシンは従順で、自らの制御方法を我々に教えてくれるものでなければならない」アーヴィング・J・グッド(1965年) 日本有數のとある大企業に、人工知能(AI)システムを開発する研究所があった。 ここの研究員たちには、ある重要な任務が課せられていた。 それは「人類を凌駕する汎用人工知能(AGI)を作る」こと。 進化したAIは人類にとって救世主となるのか、破壊神となるのか。 その答えは、まだ誰にもわからない。 ※本作品はアイザック・アシモフによる「ロボット工學ハンドブック」第56版『われはロボット(I, Robot )』內の、「人間への安全性、命令への服従、自己防衛」を目的とする3つの原則「ロボット工學三原則」を引用しています。 ※『暗殺一家のギフテッド』スピンオフ作品です。単體でも読めますが、ラストが物足りないと感じる方もいらっしゃるかもしれません。 本作品のあとの世界を描いたものが本編です。ローファンタジージャンルで、SFに加え、魔法世界が出てきます。 ※この作品は、ノベプラにもほとんど同じ內容で投稿しています。
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