気なメイドさんはヒミツだらけ》メイドさんは右から來たものを左へけ流す

「なあ、幸人。もうそろそろ歓迎會やろうぜ」

「え?」

「え?じゃないよ。霜月さんの歓迎會、やろうぜ」

「……ああ。そうだった」

そもそも同居がいきなりだったから、歓迎會とか完全に忘れてた。何なら、あまりの毒舌で傍若無人なメイドっぷりに、歓迎ムードなぞなくなりそうだ。むしろ、そろそろ上下関係をきっちり叩き込むまである。無理だけど。

「……もしかして、何も考えてなかったのか?」

「そ、そんなわけないじゃん?いつやろうか、常々考えてたし?」

「……ま、まあいい。じゃあ霜月さんにも話しといてくれよ」

「おう。わかった」

歓迎會か……まあ確かにいいかもしれない。

まだ俺も霜月さんの事、よくわからないし。

*******

帰り道、さっそく霜月さんに話す事にした。

予想どおり、彼はきょとんと目を丸くした。ちなみに、車道を挾んで向こう側にいるサラリーマンは、霜月さんのメイド姿を見て、目を丸くしていた。

「歓迎會……ですか?」

「ああ、クラスメイトと企畫したんだけど……」

「そ、そうなんですか……でも、クラスメイトと企畫したんだけどって言ってましたけど、間違いなく主人様の提案ではないですよね」

「ぎくっ!ま、まあ、それは置いときましょう」

「わかりました……でも、いいんですか?わ、私、ただのメイドなんですけど……」

「まあ、別にいいんじゃないですか。俺にとっちゃメイドでも、クラスの奴からしたら、変わったクラスメイトだし」

まあ、普通のメイドとは違うけど。いや、そもそも普通のメイドとは?これは中々奧が深いな。今度考える必要がありそうだ。

「あ、あの、主人様……くだらない事を考えている最中申し訳ありませんが、ちょっといいですか?」

「失禮だな、オイ!」

「あわわ……ごめんなさいっ、それより、場所は……ど、どこでやるんですか?い、い、居酒屋ですか?」

「いきなりそこチョイスするんですか……いや、居酒屋はないですよ。俺達未年ですから」

「そ、そうですね……ふぅ」

「ていうか、こういう時って、『メイドの意地を見せます!』とか言って、はりきって料理するんじゃないんですか?」

「え?何言ってるんですか?頭おかしいんですか?私、時間外労働はしない主義なんですけど」

「…………」

うわあ……言ってることは悪くはないのに、ドヤ顔が無に腹立つ。しかも、こういう時だけオドオドが減るのも腹立つ。

あと未年の癖に、酒飲めないのが殘念そうなのは何でだよ……。

「そ、そ、そういえば、主人様……」

「?」

「さっき……私がクラスの皆さんから、変わったクラスメイトと思われてるとか言ってましたけど……ほ、本當ですか?」

「はい」

「そ、即答ですか!?」

「そりゃあ、クラスどころか、學校全で」

「……がっでむ」

「やめい、はしたない。ていうか當たり前でしょうが。理由はあえて言いませんが」

「……あの、どうすればいいんでしょうか?このままでは、私も主人様みたいに変人扱いされてしまいます」

「さらっと失禮な事いってんじゃねえ!!……でも、そう考えると俺達って変人コンビなのか……」

「ふぅ、ま、まあ仕方ないですね。あまり気にしないようにします。それに、じ……実は、単純に私にモテ期がきたのかもしれません」

「ポジティブになるの早いですね。てか何すか、その無駄にデカイ自信。ありえないでしょ」

「……うぅ……ご、主人様のいじわる」

何でこの人との會話はいちいち脇道に逸れるんだろうな。もうだいぶ慣れてきたけど……慣れたくない。

*******

その日の夜……。

主人様、しよろしいですか?」

「はい?どうかしましたか?」

「あの、よろしかったら……い、一緒に……」

頬を染めて、モジモジと恥じらう姿からは、同い年とは思えない気が漂ってくる。

……うわっ、なんかエロっ。この前も思ったんだけど、ちょいちょいこういう姿見せるんだよな。

……い、いかん。危うく毒舌メイドにするとこだったぜ……。

ここは主人とメイドの間柄を保つべく、毅然と振る舞わねば。

「あ、あの……本當にいいんですか」

「はい……こ、攻略してください」

おっと、自分からヒロイン宣言してくるとは。

「……どうしても、ですか?」

「……はい。私、もう我慢できないんです」

もう発していらっしゃるとは!これはこれは!

「私、こういうの初めてで……」

俺も初めてですよ!心配しないで!一緒に勉強していけばいいじゃないか!

「だから……お願いします」

「わかりました」

「このゲーム、途中まで攻略してください!」

「…………」

いや、もちろんわかってましたよ?気づかなかったのは読者くらいのもんじゃないですか?だって手にゲーム機持ってるし。

「まあいいですけど……ていうか、攻略しちゃっていいんですか?」

「よろしくお願いします……」

「いや、言い直します。アレを倒してしまって構わんのだな?」

「……ってますよ?で、でも、応援してます……主人様の數ない特技を見せてください」

「やかましいわ!まだ他にも々あるだろうが!」

「えっと……右から來たものを左へけ流すくらい、でしょうか?」

「…………」

……ちょっと懐かしいネタ出してんじゃねえよ。

てか、俺の話を右から左へけ流してんのはアンタじゃねえか。

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