気なメイドさんはヒミツだらけ》気なメイドは聲がでかい

歓迎會當日。

金曜日の放課後、場所は霜月さんの希により、カラオケで行われる事になった。

……この子、何を歌う気なんだろうか。いや、今はそれより……

「あの……やっぱりメイド服はがないんですか?」

「はひゃあっ!?ぬ、ぬ、げなんて、ご、主人様、何を考えてるんですか!?」

「言ってない。言ってないよー」

このメイドさんは俺をやたら変態扱いしてくるが、それ以上に、この人こそドスケベだと思えてきた。だって、やたらそっち方向に持っていきたがるんだもん。

くだらないやりとりをしながら歩いていると、いつの間にか店の近くまで來ていたらしく、クラスメートが店の前でワイワイガヤガヤと話をしていた。もちろん、全員來ているわけではないが、半分の20人くらいはいそうだ。まあ、新しいクラスの懇親會も兼ねているのだろう。

橫田が俺に気づき、片手を挙げる。

「あ、來た來た!おーい!」

やたら爽やかにこちらに向け、大きく手を振っている。できれば子にやってもらったほうが嬉しいんだけど……まあ、とりあえず乗っかってやるか。

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「ごめーん、待ったー?」

「ううん。今來たとこ」

そんなお決まりのやりとりをしていると、霜月さんが「ほえ~」と店の看板を見上げていた。

「いい、非常にいい……!」

「やめい。そんなキャラじゃないでしょうが。てか、挨拶忘れてますよ」

「は、はい……あ、あの本日はお日柄もよきゅっ!?」

思いきり噛んだ霜月さんに、溫かな笑い聲が溢れる。

しかし、俺達はまだ知る由もなかった。

この後、とんでもない目にあう事に。

……まあ、霜月さんだし、何かおかしな事が起こるとは思ってたけどね?

*******

宴會用の大部屋にり、それぞれ適當な席に座ると、當たり前のように隣にいる霜月さんは、キョロキョロと室を見回していた。その瞳は、初めて新幹線や飛行機を見た子供のようで何だか微笑ましい。

そして、いつの間にか右隣には夢野さんが座っていた。

「どうしたの?」

「いや、なんでもない」

この前の謎の行については、結局理由はわからずじまいだが、自分からあれこれ聞く気にはならない。ていうか、あまりに現実味がなさすぎて、半分くらい思春期の幻覚だと思っている。

「はわわ……中はさらにすごいです……。主人様、カラオケ、カラオケですよ!」

「そうですか。てか本當に大丈夫ですか?」

「な、何がでしょうか?」

「いや、カラオケに來たのはいいけど、歌える歌なんてあるんですか?」

「…………だ、大丈夫だと思います。ほら……私、主人様と違って、キチンと音とれますし……」

「…………ん?今聞き捨てならない事言われた気がするんだけど」

「いや、あの……すいません!たまに主人様の部屋から歌聲が聴こえてくるのですが、これがまた絶妙に音を外していまして」

「えー、またまたー……マジですか?」

「……マジです」

「…………」

何ということだ。カラオケそんなにいかないから、あんま気にしてなかったのだが……そんな外してたのか。

まあ、これはカラオケ行かないやつあるある……かな?

「まあまあ、稲本が歌下手なのは周知の事実だし」

「…………」

新事実発覚。

まさか皆からそう思われていたなんて……ショック!幸人ショック!

すると、フォローのつもりだろうか、夢野さんが口を挾んできた。

「……まあ、聲は悪くないんだけどね?うん……」

「…………」

……ナイスフォロー。

「霜月さん、何歌う?」

「私、霜月さんとデュエットした~い♪」

「何か食べたいある?」

「こ、今度、ウチでメイドしない?」

あれ?霜月さん、もしかして本當に人気者?主人様を差し置いて?

すると、霜月さんと目が合い…

「……ふっ」

「っ!!」

今、鼻で笑いやがった!しかも、すげえドヤ顔!

そんな周りの空気に背中を押されたのか、彼はマイクを持ち立ち上がった。

そして、可らしいイントロが響きだす。割と最近の曲だ。こういうの聴いてたのか。

だが、そこでふっと頭に浮かんだ。

あれだけのパワーを持つ人は、どんな聲量なのだろうと……。

「すぅ~…………ーーーー!!!」

『っ!?』

不安がをよぎった頃には、もう遅かった。

発音のような聲が響き、俺の意識は途絶えた。

*******

「はっ……!」

目が覚め、慌ててを起こすと、倒れたクラスメートとポカーンとしている霜月さんが視界にった。

は気まずそうに頬をかき、下手くそな想笑いを浮かべた。

「あの……これはどういう演出でしょうか?」

「……とりあえず現実を見ましょうか」

「は、はい……あわわ、どうしましょう、どうしましょう!」

普段はマイペースに流す霜月さんだが、今は珍しく慌てていた。まあ、これはさすがに予想していなかったのだろう。

しかし、すぐに何かを思いついたように「あっ」と手を叩いた。

「……あっ、帰ってお掃除しないと」

「待てい」

ナチュラルにゲスい!さっきまで仲良くやってたじゃん!

霜月さんは、「うぐぅ……」と落ち込んだ顔を見せ、肩を落とした。ころころと表が変わるのは微笑ましいが、今はそれどころではない。

「ていうか、無駄に聲でかかったんですけど、誰を意識したらあんな聲出るんですか?」

「は、はい、カービィとジャイアンです……」

「最悪じゃねえか!」

ツッコミをれながら時間を確認すると、幸いまだ10分しか経っていなかった。

……よかったぁ。殘り10分とかだったら、シャレにならんかったわ。

「……とりあえず、皆を起こしますか」

「……はい。ごめんなさい」

その後、霜月さんはマラカスとタンバリンを懸命に鳴らし、盛り上げ役としてのポジションを確保していましたとさ。めでたしめでたし……という事にしておこう。

「ご、主人様……」

「はい?」

「……私達はもっと、加減を覚えなければいけませんね」

「しれっと俺まで含めんなや!」

あまり反省はしていないようだった。

まあ、でも……ちょっとくらいはクラスに馴染んで……きたよな?

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