《香川外科の愉快な仲間たち》久米先生編 10

先ほどの騒で零れたコーラとポテチの上にもろに腰を落としてしまい、部おしりに違和を抱いたが、それも一瞬のことだった。それよりも「局おめでとうございます」とものすごい達筆の――ちなみに母さんも京都の人間の嗜たしなみとして書道の師範なので、筆跡の麗しさくらいは分かる――手書きの文字の下に「心臓外科教授香川聡」と書いてあった。書の字かとも思ったものの、筆跡は男っぽい。まさか香川教授直々の文字とは思わなかったが、誰か上手い人でもいるのだろうか?

そんなことを思いながら部屋の中を走り回った。といってもそれほど広くない上に醫學書やら雑誌やらであちこちに山が出來ている。その山脈を崩しながらのダンスだった。

「お父様もとてもお喜びに……。って、おにコーラをつけて……この子はもう、本當に……。

ま、今日は大目に見ましょう。お祝いは、『例の』フレンチでいいかしら?それとも手作り?」

大學に學した時とか醫師國家試験にかった時などに行く特別なレストランのことだろう。

家族の誕生日などはもうしリーズナブルなフレンチで行っていて、「例の」とはつけない。

「ありがとうお母さん。念願の香川外科にって……親孝行するから」

コーラの獨特の香りが立ち込める中で母親に謝の言葉を述べた。

厳粛さは欠片もなかったが、俺もお母さんも涙ぐんでいる。

日経平均株価を聞かれて答えられなかった時點でこの世の終わりを見た気分だったが、どうやら気のせいだったらしい。

「どうせ明日は水曜日よ。午前の診察だけで終わりなので、仕事は楽なハズ。明日お祝いをしましょうね。

ああ、その前にお仏壇にお線香を上げて、あと親戚とか友達とかにも連絡しなきゃ。大変だわ。あなたはとにかくコーラまみれのパジャマを平服に著替えなさいね!!」

普段からテニスだジムだのに通っている母親だけに軽に階段を下りていく。確かに、お仏壇にパジャマ姿で報告したらバチが當たりそうなので、慌てて著替えた。ちなみにパンツにまでコーラが沁みていたので、シャワーを浴びることにした。

そういえば、あの面接試験で(ダメだ)としょぼくれて帰った時からお風呂はおろかシャワーも浴びていないことに気づいた。

本當に引きこもりのニート狀態だったな……と思いつつ、そうやって後で笑える幸せに浸ってしまう。

所でパジャマをぐと、ポテチだのジャガリコだのの欠片がパラパラと落ちてくるのもご敬だ。

パンツも夏だと蟻が集まって來そうなほどコーラまみれだった。

しかし。

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