《香川外科の愉快な仲間たち》久米先生編 15

何事も無かったような雰囲気が醫局の中に戻った。あんな大きな音は――あくまでも主観の問題だが――この、名だたる醫局には相応しくないので、一安心した。

局者でもある俺を見ている先生方とかナース達も當然居たが、皆の視線は好意的だし「あの」香川教授の醫局員は外科醫に有り勝ちな育會気質とは――俺にとっては天敵的概念だ――縁がないと黒木準教授からも、そして同級生達のウワサでも聞いていた。

そもそも香川教授自、靜謐で溫和なじしかけなかったし、どんな切羽詰まった手技の時にも憐悧で落ち著いたじの聲で話していたのを聞いていた。そういう人が率いる醫局なので、皆が紳士的なのだろう。

「初めまして。久米先生ですよね。醫局長の柏木と言います」

元に寫真りの公式分証をかざしながらハキハキと自己紹介してくれた。

「こちらこそ初めまして。ご迷をたくさん掛けてしまうと思いますが何卒宜しくお願い致します」

「初対面の人には禮儀正しく」というのも両親の教えだったが「あの」香川教授の醫局の一員なので――まだ研修醫だとはいえ――親の教え以上に禮儀正しくしたいと思った、晴れがましさと共に。

「そして、この人が『教授の懐刀』とウワサに名高い田中先生……。ああ『あの』時に知り合っていましたよね……」

思い出したように柏木先生が溫和で人の良いじの笑みを浮かべて、田中先生を手招きした。

醫學部というのは、他學部と異なって學部と職業がほぼ一致する。だから病院のウワサは雑草のタネのようにどこからかって來るので、教授の凱旋帰國という太の輝かしさに対するように影も深くて騒が起こった。闇は駆逐されて、より輝かしい存在になるために最も奔走したのが田中先生だったということも聞いていた。

確か、柏木先生は香川教授と同級生だったとかも耳にっていて、そして取り敢えずは様子見で――ぶっちゃけ日和見と言う方が正確かも知れないが、ただ、大學病院が「お綺麗なモノ」でないこともお父さんからも聞いていたし、その言全てが卑怯だと斷罪する資格なんて俺にはない――その余波で田中先生の株が上がっているのだろうな……と思った。

それに、同級生が海外に行って雲の上の存在でもある教授職に就いたとしたら誰だって戸うだろう。

俺が選ばれたせいで――と本人は言っているらしい――「不本意な」脳外科に回った井藤が一念発起したとかそんな理由からアメリカなりヨーロッパなりで素晴らしい実績と名聲を得た上で、自分の遙か上の職階で戻って來たらと思うとその當とか嫉妬などが芽生えるのも良く分かる。

ただ。

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