《香川外科の愉快な仲間たち》久米先生編 16
あのプライドだけは高いものの手技の才能は余りないとかに思っていた井藤はまかり間違っても香川教授のような赫々たる功を摑まないだろうが。
「香川教授の懐刀の田中です。これから『も』宜しくお願いします。
一応先輩ということで教授や準教授から指導役を頼まれましたので、厳しいことも申し上げるかも知れませんが」
勝気そうな眼差しではあったものの、引き締まったは優しそうな笑みを浮かべていたのが印象的だった。
「はい。なるべく早く醫局の即戦力になるように頑張りますので、ご指導ご鞭撻の方を宜しくお願い致します」
ペコリと頭を下げた。ただ、禮儀作法にも五月蝿いお母さんに――ちなみに、小笠原流禮儀作法の師範の資格とか、お茶お花、そして料理も最高峰まで極めている――躾られたので失禮なことはしていないと思う。
「教授へのご挨拶とか、そういう久米先生絡みのことは午前の手が終わってから片付けましょうね。歓迎會とかも出來れば良いのですが、あいにく皆が揃わないので……」
醫局だけの勤務でも宿直などで全員が一堂に會する機會は取れないと聞いていた。そういう仕事なのだから仕方ない。それにこの醫局の場合、優秀だと教授が判斷なさった醫師に限って救急救命室勤務も出向扱いで賄っているから尚更だ。
「あの!!一つ伺っても良いですか?」
田中先生は、何だか可笑しそうなじで眩しい笑顔を浮かべている。
「はい。何でしょう?」
ずっと気になっていた疑問を香川教授の懐刀と呼ばれている先生なら知っているかもしれない。
「何故、オレ……じゃなくて私が選ばれたのですか?相當な難関でしたよね」
田中先生の黒い瞳が面白そうなを宿して見下ろしてくる。
「倍率が高すぎたので、そして教授曰く『ごく一部を除いて皆優秀な外科醫になれそうなじだった』と……」
多分、ごく一部の中に井藤もっているか、勘ぐり過ぎかもしれないが彼一人だったかも知れない。
「病院の看板ですので、優秀な志願者が集まるのは當然のことだと思いますが……」
だから、何故自分が選ばれたのか分からなかった。しかも日経平均株価を聞かれた時にあんな頓珍漢な答えをしてしまったので尚更だ。
「だから、ごく一部の人の志願書は抜いて後は扇風機の前で散らして……そして最も飛んだ志願書、つまり久米先生に決定したのです」
え?そんな……つまりは扇風機のお蔭なのか……と、むしろ途方に暮れてしまった。
田中先生は更に可笑しそうな表になっていた、オレの顔を見下ろして。
しかし。
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