《香川外科の愉快な仲間たち》久米先生編 19

意外過ぎるおいに違った意味で背筋がびた。栄だし、お弁當といっても高級料亭とか老舗旅館に無理を言って屆けてもらうような滅多に食べられない貴重なお弁當らしいし。

「はい。本來ならば、黒木準教授室に屆けるべきところだったのですが今回は特別だそうです」

田中先生が攜帯の畫面を見ていたのは教授からのメールでも屆いたのだろう。そして、研修醫ごときのオレのために「あの」香川教授が気遣って下さったのが嬉しかったのかな……と思ってしまった。

この醫局にれて良かったと何度目か分からない思いがこみ上げてきた。

さらにワガママを言えば、眩しいほど煌めいている香川教授を筆頭とした手スタッフのの中にることだったが、それは実力を認めて貰う機會がいつ來るかはまだ未定だが、なるべく早く來てほしいと心の底から思ってしまう。

「それはとても栄です。オレ……じゃない、私ごときがお伺いしても良いのですか……?」

畏れ多さの余りに、舌を噛んでしまいながら田中先生の顔を見た。

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先ほどよりも優しそうなじの端正な笑みを浮かべているのは、午前の手が無事に終わったからだろうか。

「もちろんです。気にしていらっしゃった日経平均株価の件もその時、教えてくださるかと思います」

ああ、オレの質問を――田中先生からすれば些細な問題だろう――覚えていてくれたのだと思うと何だかとても嬉しい。

「久米先生も教授執務室か……。食堂に案しようと思っていたのですが、それは明日にでも」

醫局長の柏木先生が気さくなじで聲を掛けてくれた。手技に対しては超が付くほど合理的というか真摯なストイックさで臨む教授だと聞いていたが、醫局はものすごくフレンドリーなじなので一安心だ。

それに、午前中に指導してくれた遠藤先生も「手技に參加出來るほどの腕前ではないので、私は教授の執刀例をレポートや論文に纏めるのが喜びです」と吹っ切れたような微笑を浮かべて言っていた。

そういう人格者ばかりが揃っている職場で良かったと心の底から思ってしまう。そしてこの醫局に運良くれた幸運を神様と仏様に謝してしまう。

「今日はあいにく久米先生の歓迎會が出來ないので――と言っても私も歓迎會はしてもらっていませんが――せめてもの償いというか、教授と歓談の場を設けるという趣旨のようですね」

當たり前だが病院は二十四時間態勢だし、香川外科は救急救命室にも優秀な醫師を派遣している関係上、皆が一堂に會するというのは難しいのだろう。

歓迎會は有ったらあったで嬉しいけれども、皆さんの多忙さを考えるとして貰えるのは勿ないと思ってしまった。

しは醫局の雰囲気に慣れましたか?」

教授執務階のボタンを押しながら田中先生が先ほどよりももっと和らいだ笑顔を向けてきた。

やはり、この先生は一見厳しく見えるものの、実際はとても優しいに違いないと確信してしまう。

「はい。皆様とても良い方ばかりで……。研修醫は人間扱いして貰えないと聞いていたので、心どうなるかと思っていたのですが、どうやら杞憂だったようです」

田中先生の広い肩が僅かに竦められた。

何故だろう。

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