《香川外科の愉快な仲間たち》久米先生編 26

香川教授は思いっきり怪訝そうな表でオレを見ている。

「お父様は……存命ではなかったのですか?」

遠慮がちで、かつ戸ったじの聲が重厚な雰囲気の部屋に小さく響いた。

そんな表を田中先生が、先程オレに向けていた時よりも暖かい、そして和らいだ目で見ている。

「久米先生が言い間違っただけですよね?」

田中先生は柚子のシャーベットを掬っていた手を止めて、確認するじでフォローの言葉を重ねて來た。

「すみません。間違えました。草葉のではなくて実家のクリニックで診療しながらです」

晝休みのこの時間なので――ただ、患者さんが多數の場合はまだ診療中だろうが、そうでない時は晝食を摂っているだろうが――この言葉が當てはまるかは分からない。

「ああ、なるほど。ただ、生死に関することは特に言葉に気を配ってください。

患者さん相手ならなおさらのこと。醫師の言葉一つで患者さんは一喜一憂しますので。

それに聞き返そうにもその醫師が居ない場合も有ります。言はくれぐれも気を付けてください」

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田中先生の言いたいことはとても良く分かったし、オレの失言を責めているというよりアドバイスを與えているという親切心での言葉だということも雰囲気で分かった。

「はい。すみません。患者さんと接する時は気を付けますし、間違ったら即座に言い直します」

ただ、先程の失言は「あの」香川教授と、こうして晝食を摂るというとても栄な時間のせいで張のあまりテンパってしまっていたからだろうとも思ったが。ただ、確かに病気の人に対して――しかも、心疾患というのは生死を意識する機會も多いだろう、ウチのクリニックの患者さんなどは風邪とかインフルエンザ、そして骨折とかの生死に関わらないモノが多いのも事実だった――配慮に欠けた失言は確かにマズい。それに、さっきまで遠藤先生に付いて患者さん巡りをしていた時には、一人に割く時間は5分から多くて10分程度だったし、各病室を回るという関係上そんなに長い話しが出來ないじだったので、失言をしたら取り返しがつかないことになりそうだ。

「分かったならそれで良いです。人間なので間違いをすることも有るかと思いますが、それが大きな問題に発展する前に必ず柏木先生や私に相談して下さいね。

間違っても一人で抱え込まないで下さい。

久米先生は、會話のキャッチボールも上手な人だと思いますので大丈夫そうですが、尤も困るのが醫師の獨善的な言で……、そういうタイプの人はウチの醫局には必要ないのです。

そうですよね、教授」

田中先生のフォローめいた発言には大きな教訓が隠されているじだったので、心の中のメモ帳に書いておこう。

「そうですね。先ほど久米先生が気にしていらっしゃった日経平均株価の発問にも、間違った返答を返して、その自分の答えを必死に自己正當化しようと更に畳み掛けるように話した人が居ましたが……単に『知りません』で會話を終わらせようとするよりもタチが悪いと思っていました、個人的には」

あの発問だけで々なことを計っていたのだな……と思う。「知りません」も確かに會話が終わってしまうだろうし、それもこの醫局では求められている會話力に欠けている。それ以上に必死になって自己正當化をするような人間は――多分、井藤などはそのタイプのような気がする。何でも脳外科に決まったとか風のウワサで聞いたが――専門知識も求められている會話だと何かと厄介な問題に発展しそうだったし。

「承りました。重々気を付けます。『草葉の』発言は失言でした。重ねてお詫び致します」

頭を下げて謝った。なくとも教授を當させたことは事実だったし。

すると。

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