《香川外科の愉快な仲間たち》久米先生編 「夏事件」の後 12

「うわあ。こんなに急こう配なのですか……」

爪先立ち程度しか経験したことはないオレにとって、ハイヒールの脅威は想像以上だった。

なんといっても、どこに重心を掛けて良いのかも分からない上に、地面がグラグラするようなーーいや、それが靴のせいだと頭では理解しているがーー心もとなさを覚える。

「肩を貸す程度は良いですが、そんなに力をれて摑まないでください。正直痛いです。

それに久米先生、全重を足ではなくて手で支えようとしているでしょう?」

田中先生の指摘通りだったが、足で立つのが怖いのだから仕方ない。柏木先生とか杉田師長も近くに立って見ているハズだけれども、それを確かめる心の余裕すらない。

「ダメです。腕がプルプルして來ました……」

オレの必死、いや決死かも知らない訴えに杉田師長の笑が聞こえてきた。

「いや、だから足に力をれて立つのが人間だから、頑張れ、立て!立つんだ久米先生!!」

完全に面白がっている柏木先生の聲がどこからか響いてきた。

「ここは平面ですよ。救急車のスペースですから當たり前ですが。

両肩、いい加減痛いので離れたいのですけれども」

田中先生の無茶振り(?)の聲が非に響いた。

「ダメですっ。こんなの立てませんっ!田中先生、捨てないでくださいっ!!」

腕の力が抜けていきそうなのを必死に支えた。

はーーこのクツの持ち主は長岡先生だがーーこんな不安定なモノを平気で履いて歩いているとは思ってもいなかった。歩くどころか、自力で立つことすら出來ていないオレは心の底からのことを尊敬してしまう。

「これはダメだわ……。田中先生が離れたら絶対に転倒するわよ。もう止めなさい」

杉田師長の聲が、天使のそれに聞こえた。

「分かりました。この勢を保ちますので、久米先生はゆっくりと地面に下りてください。

そもそも地面に居るのですが、主観的には異なるでしょうから、ね」

田中先生の聲も諦めモードというか、呆れているじだったけれども、それでも何とか一命を取り留めた気持ちがした。

コンクリートの平たいと、揺るぎのない大地の有難さをシミジミと実して、生きた心地を取り戻した。

「分かりましたか?平面ですらこういう狀態になるのです。しかも段差があったり、小さなにヒールが挾まって抜けなくなったりと々なリスクまで負って歩いているのですから、普段の速足は絶対に避けろと言った訳が分かりましたよね?」

田中先生の言葉は、察しの悪い弟に言い聞かせているじだった。多分、田中先生の彼さんもこういうヒールが似合う足首の細いなのだろう。そんな彼さんをーーそれほど頻繁ひんぱんに逢っているじでもないけれどーー見てきた田中先生らしい教えを肝に銘じようと思った。

「分かりました。デートの時にがどんな靴を履いてきているかは絶対に確かめてから行したいと思います」

何故なら。

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