《香川外科の愉快な仲間たち》久米先生編 「夏事件」の後 17

「久米先生は何でも丸暗記するクセがついているでしょう?初デートの日に生憎の雨模様とか一緒に過ごしていた時間がずっと曇り空であったとしても、その赤のボールペンで書いた言葉をあたかも臺本のように読み上げるタイプですよね。だから『晴天』はせめて空白にしておいてください。

全く、こういうことを言わす人が居るから『香川外科の小姑』とかそういう歓迎出來ないあだ名まで付けられるのです」

確かに臺本のように丸暗記しようとしていたのは確かだったが「香川外科の小姑」と呼ばれているのはオレに対してだけネチネチと言ってくるのではなくて、他の醫局員のあまり心出來ない言――例えばし醫局の安旅行の時に結婚前で神が不安定になっていた柏木先生が、金銭とか品には鷹揚おうようなことは田中先生が勝手に部屋から持ち出したハイブランドの靴のことがバレても全く怒らないだろう長岡先生とお似合いな婚約者で、かつオレの実家のように町に何軒もある「外科・科クリニック」とかじゃなくて、東京一、いや日本一の私立総合病院の曹司が「差しれ」とかの名目で冷えたビールをこれでもか!というくらい送ってくれたからだ。醫局で実まことしやかに囁かれているウワサでは香川教授を招聘して看板醫師にしたいとか。まあ、香川教授は日本全國だけでなく海外からも患者さんがひっきりなしにいらっしゃるので、日本一の私立病院といえども是非ともしい人材だろうな……とは思う。

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それに醫局の安旅行にあんなにビールを送ってくるのだから、いざヘッドハンティングともなると、お給料は言い値で行けそうな気もする。

しかも、香川教授は――なくとも帰國當初から「何が何でも大學病院で出世したい」と思っていないだろうな……という空気を出していた。どういう心境の変化が有ったのかまでは知らないし聞けないが最近こそ、外科の催しをウチの醫局が主催するとか、外科以外でも、元々親しかった科の田教授とかではなくて、全然関係のない教授職とか準教授とも積極的に會話をわすようになっているというのが「オレの」アクアマリン姫からの報だった。ナースは――病院長補佐の一人でもある看護部長のようなお偉いさんのような人を別にすると――教授・準教授クラスとの接點は殆どない。ただ「オレの」アクアマリン姫は教授書とも仲良しだし、今夜ばかりは天使に見えた杉田師長は救急救命室の責任者の北教授の右腕ところか丸々任せられている。そういうところからウワサの種がタンポポの綿のようにってくる、短編的に。

そういうのを総合して考えれば香川教授の最近の向は病院に骨を埋める決意なのだろうなぁと思ってしまう。以前は何だか(どこの病院でも良いので手技をさせてくれるところならどこでも良い!特に大學病院に拘らない)みたいなじだった。まあ、生粋病院育ちのオレからしたら嬉しい変化なのだけれど。

「久米先生、そのカンペ貸して下さい。雨の場合はこういう言葉、曇りは……」

外科醫は殆どがせっかちな格で、田中先生もその例にれない。雨→「 」とかを書きなぐってくれたのはとても嬉しい。

しかし。

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