「まあ、そうだろうな……。久米先生がハマっている、オタク向けかどうか知らんが『百合櫻ゆりさくら學園にようこそ』だっけ？あれってセリフもタップして選べるゲームだもんな。

つまり、言葉を考える必要がない。それにほら好度を上げるセリフなんて決まっているからな……」

柏木先生が出の茶に染まった卵を二分割しながら茶化すように言った。

「うっ……それはそうなんですけどっ！でも、しかし、オレ……じゃなかった私が必死になってフミオちゃんの好度を上げたゲームを、私が杉田師長にこき使われている隙をってフミオちゃんの好度をマイナスにまで下げて下さった田中先生のご厚意は死んでも忘れないと思いました」

普通のスマホアプリで好度がゼロになることはあるけれど、田中先生が悪戯イタズラを仕出かしてくれたゲームはバグなのか好度がマイナス１００まで下がっていた。あの時の絶というか（課金したお金返せ―！ついでにつぎ込んだ時間も返せー！！）とマジで殺意が湧いた。

まあ、殺意だけで実行に移さなかったのは田中先生には日頃からお世話になっているし、醫師として、そして基本的には人間的にも尊敬できる先輩だったからだ。ま、犯罪を犯すほどの度もなければ人間として欠落している部分もない――と自分では思っている。

「ああ、三択なら余裕でしょうね……。何しろセンター試の時は五択の問題がずらっと並んで、しかもそのテストで１０割、最悪で一問ミス程度に抑えておかないとそもそもウチの大學の二次試験が実質けられないのですから」

田中先生は大好の柚子胡椒を――特にセブイレがお気にりだ――キャベツがとろけかけたロールキャベツに楽しそうに塗りながら言った。ウチの大學の二次試験は、願書さえ出していればけることは出來る。しかしその前にけなければならないセンター試の點數がほぼ１０割ないと合格は貰えないと高校の先生も言っていた。

ああ！田中先生も當然センター試験の洗禮はけているわけだから、ワザと好度の下がるセリフを厳選してタップしまくっていたに違いない。たしかあの日は搬送された患者さんのバイタルが杉田師長でも「厳しいわね」と言っていた患者さんを力及ばずで……殘念な結果になった日だった。

そしてその患者さんをメインで対応したのは田中先生で、きっとその無念さとか無力さを痛したに違いない。だからオレのフミオちゃんに八つ當たりをしてしまったのだろう。

「もう、仕方ないですね……匙さじを投げたいところですが……。可い後輩が『彼居ない歴』に終止符を打つかどうかの瀬戸際です。乗りかかった船という部分もありますので」

さっきのハイヒール騒で冷めてしまっただろうロールキャベツを一口で食べた田中先生は目に涙を浮かべながら、決然と言った。

それは。