《香川外科の愉快な仲間たち》久米先生編 「夏事件」の後 20

田中先生は、ロールキャベツを味しそうに食べた後に、大に柚子胡椒を心の底から楽しそうなじでトッピングしている。

総合職の商社レディという、それこそ世界を飛び回るほどのキャリアの持ち主の人さんは意外にも料理も得意らしい。ただ、その料理上手な人さんでも再現不可能なのが、セブイレの柚子胡椒なのだそうだ。難易度なんてオレには分からないけれど。

「そういえば、いつものクセで店を一周したのですが、PBでそのペーストが商品化されていましたよ」

ここで田中先生に匙を投げられたら、また彼居ない歴を更新してしまうのは確実なので取って置きの報を伝えた。田中先生の大好なだけに、わざわざ手に取って確かめたのも事実だった。

「え?本當ですか。それは朗報ですが……家に買って帰ったとしても、出來合いのモノは使わない人ですから、使ってくれるかが問題ですね……」

何だか大問題が発したじで、揃えるとか形を整えるとかをしていないのに凄く形のいい眉を微かに寄せている。

「田中先生がお一人の時に好きなだけつけて召し上がれば良いんじゃないですか?」

おでんを買った時にはほぼ薬包紙の大きさのパックを取るという仕組みでーー他の店では知らないが、病院近くのセブイレではそういうシステムだーーおでんの1つに付き1パックと厳命されている。それだけ好きなのだから、家ではもっと食べるのではないかなぁと思って聞いてみた。

人さんは東京住みらしいので、そうしばしば會ったりとか家に來たりはしないだろうし。

「そうですね。ま、その點はゆっくり考えます。料理には凄く拘りを持っている人なので、そういう出來合いの調味料とかインスタントのお鍋の素みたいなが家に有ったら、要らぬ誤解を招きそうなので……」

そういうものなのかな?とは思うが、反論の材料は皆無だった。専業主婦のお母さんは「便利な世の中になったわね」とか言いながら手抜きばっかりしているような気がする。けれども、そういうのは人によってけ取り方が違うのだろう、きっと。

「ああ、そうでした。久米先生の一問一答シリーズですが、教授との共著の本の原稿の校正と修正をお願いしたでしょう?夜勤の貴重な時間を削って。

まあ、清水先生はその貴重な時間を使って折鶴の練習をしていたそうですが」

ギクリと肩が揺れてしまった。清水先生は神科所屬だが、地震の時にたまたまメインロビーに來て、実家で手伝っていたーーちなみにウチみたいなご町に何軒もあるようなこじんまりしたクリニックではなくて、京都で一番大きい私立病院の曹司だーー強みを活かして救急救命チームにった後に、救急救命室にも手伝いに來てくれるようになった先生だ。正直、外科醫としての才能はヤバいほど持っていて、あの人が香川外科に居なくて良かったと思っていることは緒にしている。

「有難うございます。原稿は確かに手伝いましたけど?」

その借りを返してくれるのだろうか?

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