《香川外科の愉快な仲間たち》久米先生編 「夏事件」の後 22

「原稿を手伝ってもらったのも確かですので、久米先生がウインクしながら『君の瞳に乾杯』とか、もう腹筋が崩壊しそうなほど笑えるようなクサいセリフを間違っても言わないように何とかしましょう。

アクアマリン姫はナースに相応しい真面目さと律義さを持っていますので、表には出さない可能が高いですが心はドン引きすると思いますよ」

田中先生は「思います」と語尾を濁してくれてはいたが、多分それは後輩への思いやりで――もしかしたら今日のおでん代も含んだリップサービスかもしれない――表は確信に満ちていた。

「そうなんですか……。『これを言ったら彼はメロメロ』特集に書いてあったのですけれどね……」

ただ、その発信元がネットの匿名掲示板なのでアテに出來ないかもと思った。オレはそんなにプレイはしないものの、戦闘系のゲームではさっきのヒールよりも高い上に細いのを履いて普通に走ったり戦闘をしたりするお姉さんなんてザラにいる。

それが『當たり前』だと思い込んできたオレにとってリアルの世界は謎に満ちているので、この際思いっきりリア充の田中先生のアドバイスに従っていた方が良いだろうし。

「メロメロとか書いてある時點でお察し件ですよ。そういう今となっては死語の使い方をする人が真面目に書いたようですが……」

柏木先生も大笑いしている、おでんの出を吹き散らかす勢いで。

「ああ、そういえば久米先生がチュートリアル畫面までクリアした戦闘ゲームな……『ギャングバトル』とか言ったっけ?あの人類には有り得ないほど大きな人もあんな細いヒールを履いてジャングルを走り回ってたっけ……。そういうのをフィクションだと思ってプレイするのは良いが現実とごちゃまぜにしない方が良いぞ。

そもそも、アレ」

田中先生が勝手に借りてきた、長岡先生の華奢な靴に視線を走らせている。

「あんなので走り回ったら絶対こけて戦闘なんて出來ないのは分かっただろう?

そもそもアレを武として使うのなら、接近戦に持ち込んで目の中に狙いすまして突っ込むのが最強だろうな……」

確かに目の中に力任せにれたら、の標準的な腕力でも失明させることは可能そうだ。

オレは唐揚げを、そして両先生はおでんを食べていたけれど食事中にこんな話題をするのは日常茶飯事だった。

「確かにそうですね……。失明しないまでも、確実に戦闘不可能なほどのダメージは負いそうです……。ただ、ゲームを作った人はそこまで考えていないのか、戦闘コマンドにそんな選択肢はなかったですけれど」

ゲームというフィクションの世界でフミオちゃんと楽しくをしていたオレだったが、田中先生的には――フミオちゃんの好度をマイナス100まで下げたという過去も踏まえて――「リアルのはそんなゲーム脳では無理だ」と教えてくれたに違いない。わざわざ心臓外科の醫局近くの長岡先生の個室にまで行って。

「久米先生、臺本を書いたデータ……USBメモリか何かに保存してありますか?」

黙っておでんを食べていた田中先生が眥まなじりを決したじで言った。

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