「あ！その方が良いだろうな。久米先生は職務は完璧にこなすが、プライベートとかでは肝心なトコで大きなポカをやらかすだろう？

ほら、例の脳外科のイカれた研修醫、あ、もう『元』が付くか……がとんでもないことを仕出かした時にもさ、何で何もないところで激しく転倒して顔面出しただろ？

あのせいで醫局の過激派連中へ火に油を注いだだろう。メス持って脳外科の醫局に乗り込んで行くという暴挙が決行されてたら、ウチの醫局の麗しい評判がガタ落ちだったんだぞ」

田中先生が偏頭痛を起こしたようなじで「こめかみ」辺りを強く押している。

「その件を電話越しに聞いて、眩暈と頭痛を同時に覚えました。ただでさえ、教授の外科醫生命存続の危機を迎えていて……。その不安で頭がいっぱいだったというのに、醫局の暴発――しかも、犯人を祭りに上げるというのなら、百歩譲ってまだ理解出來ますが犯人も居ない醫局を襲撃とか、もう有り得ませんよ。

まあ、最悪の事態を回避出來たのは、久米先生が正直に自己申告して下さったことも大きいですから、今更どうのこうの言う積りはありませんが……」

オレの同級生が――と言っても知っているというレベルで、絶対！斷固として！！友達ではなかった――起こした香川教授襲撃事件の時は「有り得ない」事態にパニくったのも確かだった。

そして、田中先生が「蒸し返す積りはない」的なことを言っているけれど、もういい加減に忘れてしいと思うのはワガママなのだろうか？

香川教授の才能に羨を抱かない心臓外科醫は居ないだろうと思うけれど、そんなのは自分の手技を磨けば良いと思う。まあ、どれだけ努力しても敵わないかもしれないが、そんなのしてみなくては分からない。

おでんの出を味しそうに飲んでいる田中先生だって――実際のところオレは先生の手技に憧れている――教授を超えるべく努力していることを知っている。それに香川教授の手技が停滯することなく進歩し続けているのも目の當たりにしているオレには、教授も日々人知れず研鑽していることも分かっている積もりだった。

そういう醫局に所屬していることを誇りに思うし、先輩達にも恵まれて本當に幸せだ、なくとも職場では。

ただ、プライベートでは切実に彼がしいし、それに二次元のの子とは異なって実在のは「本音とタテマエ」があったり、結婚相手をシビアに見ていたりすることも知っていた。

ちなみに、例の脳外科の元研修醫、井藤は論外として、割と仲が良かった同級生は実家の醫院を卒業と同時に継ぐために――普通は大學病院とかを経てという人の方が多い――副院長になったまでは良いのだけれど、お父様がＦＸと仮想通貨で凄い損失を出して、何でも即座に現金が必要になったらしい。その辺りのことには詳しくないけれど、そういう決まりというか契約になっていたらしい。そこで、醫院を手放さざるを得なくなった瞬間に、その友達は婚約者に別れ話を切り出されたそうだ。

「副院長、そして未來の院長夫人でない貴方には興味がない」とか言われて。

そんなある意味怖いも居るようなので――當然、オレにはそんなを見抜く自信は１ミリも持っていない――田中先生や柏木先生のシビアな判斷をしてしかった。

だから。