《香川外科の愉快な仲間たち》久米先生編 「夏事件」の後 31

よくよく考えれば田中先生がオレに悪戯イタズラをするのは、反応を楽しんでいるフシが有る。

したり言い返したりするオレに対して、引き締まったに――意思の強さがにじみ出ているじで普通の人の口こうしんよりも固そうなじだった――楽しそうな笑いを浮かべたり、口角をキュっと上げていたりする。

だからタバコ休憩だけだったら十分足らずで戻ってくるだろうけどノートPCまで持って出たということはオレの反応を今夜は期待していないようだった。

だったら有り難く貰おうと思った。

「あ、信じてくれたんだな……。久米先生には真夜中のコンビニとかたこ焼きとかの屋臺に行って貰っているだろ?

雨の日とか真冬の底冷えの寒さの日でも。だから『その謝の意を表さないとな』と田中先生が言い出して。

ほら、研修醫時代からウチの醫局からココに派遣されたのは田中先生だけだし、その時は同じ目に遭っていたみたいだから、そういう気持ちは分かるのだろう。

ま、生粋の救急救命室育ちではないのでココの赤字改善に腐心していたみたいだが。ほら弁も立つし、どうすれば赤字をしでも削減出來るかを考えて実行していたので、久米先生よりもパシり率は低かったようだが。

で、田中先生が三千円、オレが殘りを負擔した。いやあ、妻帯者は辛いからな……財布的にも」

先輩たちの思いやりの気持ちがとても嬉しかった。

ただ、柏木先生の奧さんはナースなので、お母さん世代に流行ったらしい「ダブル・インカム・ノー・キッズ」だ。

そして田中先生は商社レディ――しかもオレには絶対履くことが出來ないあんな華奢なヒールが似合う――極上の人さんで、そういう人は男に奢ってもらうのが常識になのではないかな?と思う。お母さんだって若い頃はそこそこの人だったので「割り勘とか信じられない。男が財布を出すのが當たり前でしょ」とか言っていたらしいし。

だから田中先生の方がデート代とかかかっているのではないかと――オレが家族の行事で行きつけのレストランではお父さんのクリニックの経費で落とすとかで支払ったことは一度たりともないものの、三人で行くと研修醫の給料が一晩で軽く吹っ飛ぶほどの代金だったし――思ってしまうが、そういう愚癡めいたことは絶対に言わない人だ、田中先生は。デートは主に東京でしているみたいだから価も高いだろうし。そういう意味では好意がとても嬉しかった。

この五千円札は々な意味で暖かい。

財布に大切にしまっておこう。それに田中先生が手をれたお札っぽいので――ギリシア神話のミダス王の逸話は、れるものを全て金になるという「悲劇」だが――何だか運が向上しそうなパワーもめていそうだったし。

そして。

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