《香川外科の愉快な仲間たち》久米先生編 「夏事件」の後 97

「く、久米先生……スキップと普通の歩き方の混合って凄く難しいと思います!!」

岡田看護師がオレの腕を咄嗟とっさに摑んで止めてくれた。

あ~それでこんなに歩行が困難だったんだぁと思いつつ、最も醜態を見せたくないひとに曬してしまったという焦りでどうしていいか一瞬走馬燈のように頭の中がぐるぐる回った。

「久米先生って、香川外科期待の新星とかウワサされていますし、実際その通りの仕事振りなのは知っていますけど、プライベートでは意外と――親しみやすくて、そして(私が傍についていてあげなくちゃ!)とか思ってしまいます。あ、先生にそんなことを申し上げてしまってすみません……」

アクアマリンの清浄な煌めきの笑みを浮かべてそう言った後に――オレは全然そうは思わなかったが――失禮なことを言ってしまったと思ったのだろうか?頬をほんのり赤らめているのもとても綺麗だった。

ああ、彼も新人だし、知っている研修醫といえば「あの」井藤だけなので、変な思い込みというか井藤を怒らせたら怖いとか経験則で知っているのだろう。

それに田中先生から聞いた話だと井藤が無殘にも犬や貓の私的な趣味の「解剖」の殘骸を醫療用廃棄れに捨てている所を目撃したらしいし。

オレだって學部生の時に嫌々ながらも貓の解剖をしたことが有る。普通の學生なら嫌がる行為を「私的」にまでやらかした井藤はやっぱり頭がどうかしているに違いない。田中先生と親しいらしい不定愁訴外來の呉先生が院LANの中にこっそりとアップしてくれたレポートを読むと「れっきとした」神病らしかったが。

ただ、外科と神科は同じ敷地にあるとはいえ、心の距離というか専門の違いも相俟って凄く遠いモノのようにじられる。

だから顔の広い田中先生は置いておいて、オレは呉先生という名前を知っているだけで、顔は全く知らない。

デートでペットショップ止と田中先生から厳命されていたっけ……と思いながら、岡田看護師の華奢な指がオレの腕を摑んでいるのがとても嬉しい。このままスキップを加速させたいくらいには。

「え?プライベートで傍についてくれるんですか?それは嬉しいです。生まれてきて良かったと心の底から思えるほど……」

オレの笑顔が満面どころでなくて何だか顔面が崩壊しているような気がした。

気がしたというより、通用門を通るスタッフが皆こちらを向いて笑いを必死で耐えている苦しそうな表なので確かだろう。

ところが。

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